杉咲花、ロケハン同行、ノーメイクで臨んだ新境地「役を生きながら、不安にも襲われた」

俳優の杉咲花(26)が主演する映画『市子』(12月9日公開、戸田彬弘監督)は、今冬一番の衝撃作だ。恋人からプロポーズをされた翌日、突然、姿を消した女、市子の過酷すぎる生き様を描いた物語。杉咲が映画賞の主演女優賞候補になるのは間違いない。

インタビューに応じた杉咲花【写真:舛元清香】
インタビューに応じた杉咲花【写真:舛元清香】

自身も「心血を注ぎ込んだ」と胸を張る本作

 俳優の杉咲花(26)が主演する映画『市子』(12月9日公開、戸田彬弘監督)は、今冬一番の衝撃作だ。恋人からプロポーズをされた翌日、突然、姿を消した女、市子の過酷すぎる生き様を描いた物語。杉咲が映画賞の主演女優賞候補になるのは間違いない。(取材・文=平辻哲也)

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『湯を沸かすほどの熱い愛』(16/中野量太監督)で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめ、多くの映画賞を受賞。NHK連続テレビ小説『おちょやん』(20-21)ではヒロイン役を演じてきた若手演技派に、代表作がもうひとつできた。

 杉咲自身も「心血を注ぎ込んだ」と胸を張る本作は、幸せを願いながら、過去には底しれぬ闇を抱えた女の人生を描く物語。高校生から現在までの約10年を多彩な表情で演じ、見る者を釘付けにする。

 ズバリ「代表作になったのでは?」と聞くと、「周りの方が評価してくださるものだと思っているので、今はお客様が映画をどう受け取ってくださるのかという緊張があります。ですが演じていて、自分が味わったことのない感覚を体験することのできた特別な作品なので、自分にとってはターニングポイントになった作品です」

 この映画では、演じるというよりも、杉咲自身が市子その人に見えてくる。

「演じ手としての欲が一切はがれ落ちて、その時目の前で起きていることに、ただ反応する、受け止めるだけという時間を過ごせた瞬間があったんです。それは初めての経験で、役を生きるということは、こういうことなのかなと錯覚した瞬間もあったのですが、別の日には、市子としての感覚がわからなくなって、不安に襲われる。その時に、どこまで行っても、他者は他者であるということが腑に落ちたんです」

 その感覚自体が、市子だったのかもしれない。劇中の市子は、過去から現在まで常に他者を演じ続ける女だ。

「ひょう依するとか、役に入り込むみたいなことって、自分からすると、とんでもないことだなと。そういう意味で、自分ではない誰かを演じることの難しさについて、改めて考えさせられた時間になりました。そしてそれは、人を知るってどういうことなんだろうという、この作品が持つ根源的なテーマにも通ずることなのかなと思ったりもしました」

 原作は戸田監督が主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演。市子を知り尽くしている監督の演出も、杉咲を納得させた。

「分からないことを聞くと、一つの質問に対して10ぐらい回答をくださる方なのですが、戸田さんは絶対に断定をしないんです。他者として自分の視点で市子を捉えている。その姿勢に心から尊敬を覚えましたし、私もそうありたいと思いました」

 戸田監督からのラブコールを受けて、本作ではキャリア未体験の役作りもしている。ロケハンにも参加した。

「何が変わるかは分からないですし、変わらないかもしれないけれど、市子が過ごした環境を自分が見ておくことで、何か作用していたらいいなと思っていました」。また、ノーメイクで役に臨んだが、「何かを足していく作業が市子という人物をぼかしていく気がしたので、今回は必要がないのかなと思いました」と話す。

市子(=杉咲花)の恋人・長谷川役を演じた若葉竜也(右)【写真:舛元清香】
市子(=杉咲花)の恋人・長谷川役を演じた若葉竜也(右)【写真:舛元清香】

 市子の恋人、長谷川役は若葉竜也(34)。連続テレビ小説『おちょやん』(20/NHK)、『杉咲花の撮休/第2話・ちいさな午後』(23/WOWOW)などで共演している。

「初めてご一緒したのが『おちょやん』でしたが、その時からカメラに映らないものこそ大切にされる方だと感じていました。ただ目の前にいる人のためにそこにいてくださる方なので、ものすごく信頼がありましたし、またご一緒できたことがうれしかったです」

 壮絶な過去を持つ市子としての時間を生きることは、大変な痛みもあったが、幸福な時間でもあったという。

「『市子』の現場で過ごした時間は、痛みがあったと同時に、強烈にかけがえのないものとして私の記憶に焼きついています。市子が穏やかな暮らしを求めるのは、その幸福を知っているからで、私もそれを感じてみたかった。その中で胸を突き動かされたり、心を揺さぶられる瞬間、変えがたい喜びの時間が確かにあったと感じています」。来年の賞レースでは、再び市子を演じた喜びを感じられるはずだ。

□杉咲花(すぎさき・はな)1997年、東京都出身。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16/中野量太監督)で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめ、多くの映画賞を受賞。「とと姉ちゃん」(16/NHK)でヒロインの妹を演じ、「花のち晴れ-花男 Next Season-」(18/TBS)では連続ドラマ初主演を果たす。その後、NHK連続テレビ小説『おちょやん』(20-21)と「恋です!~ヤンキー君と白杖 ガール~」(21/NTV)で第30回橋田賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に『十二人の死にたい子どもたち』(19/堤幸彦監督)、『青くて痛くて脆い』(20/狩山俊輔監督)、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(21/三池崇史監督)『99.9-刑事専門弁護士 -THE MOVIE』(21/木村ひさし監督)、『大名倒産』(23/前田哲監督)、『杉咲花の撮休』(23/WOWOW)、『法廷遊戯』(公開中)などがある。『52ヘルツのクジラたち』(24年3月公開)などが待機中。

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