義理の父から「お前に託す」 国産旧車を“奇跡的に維持”、愛車は「タイムマシンみたいなもの」
義理の父から譲り受けた国産旧車は、ついに50歳を迎えた。1973年式の日産バイオレット ハードトップ。ほぼフルノーマルで残っているのは激レアといい、総走行距離は約3.4万キロで「奇跡のコンディション」を維持している。そこには、大事に取り扱ってきた家族物語があった。
「義理の父は『当時の雰囲気を伝えること。それがクルマの幸せなんだ』が口癖で」
義理の父から譲り受けた国産旧車は、ついに50歳を迎えた。1973年式の日産バイオレット ハードトップ。ほぼフルノーマルで残っているのは激レアといい、総走行距離は約3.4万キロで「奇跡のコンディション」を維持している。そこには、大事に取り扱ってきた家族物語があった。(取材・文=吉原知也)
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「このフォルムの柔らかさ、何とも言えないデザインがいいんですよ」。52歳の男性オーナーは愛車に優しい目線を送った。
手元に来るまでに、ちょっとしたストーリーがある。
義理の父は日産のエンジニアだった。あるとき、顧客から「処分してくれ」と依頼されたクルマがあったという。「義理の父が引き取りに行った先でそこにあったのが、このバイオレットだったんです。塗装が半分はがれていたそうですが、下回りも内装もしっかりしていて走れる状態だったそうなんです。『よし、大事にしてあげよう』とその場で決心して、入手したと聞いています」。まさに運命の出合いだった。
義理の父は技術者らしく、自ら整備を手がけた。工場に残っていた純正のグリーンカラーを再塗装。修理が完了した後は、ナンバーを取得せず、駐車場でカバーをかけて保存していたという。
男性オーナーは娘さんと結婚。家を建てたことで、屋根付き駐車場の環境が整った。男性オーナーと義理の父はもともと、クルマに関する共通の価値観を持ち合わせていた。「古いクルマはできるだけオリジナルを残す」という考えだ。「義理の父は『当時の雰囲気を伝えること。それがクルマの幸せなんだ』が口癖で」。オリジナルにこだわる姿勢は、男性オーナーが貫く人生観と同じだった。
2人にとって特別の存在だったバイオレット。「義理の父から『お前に託す』と言ってもらえて。それで、譲ってもらえることになりました」。2005年のことだった。
以来18年。ナンバーを取り、公道復帰。普段は大事に保管しており、主にカーイベントに出展している。
お気に入りポイントはたくさんあるが、ヘッドライトもその1つ。「シールドビームはちょっと暗くて不便なのですが、当時の雰囲気を損ねたくないんです。丸みがあっていい感じですよね。一度、整備に出したら現代型のライトになってしまったことがあるのですが、ヤフオクで探して元に戻しました」としみじみ語る。
バイオレットは「いじられやすいクルマなんです」。改造を施されるケースが多く、車高を低くするシャコタン仕様のものがよく見受けられるという。それだけに、「オリジナルでほぼノーマルで残っているのは少ないと思います。ハードトップは関東のカーイベントでは見たことがありません」。レア度合いも自慢の1つだ。
旧車をいたわり続ける、その心とは。「ハコスカやブルーバード、フェアレディZ、トヨタのセリカ。子どもの頃の思い出がずっと残っているんです。こうしてイベントでオーナーさんたちと話していると、どんどん輪が広がって、当時の思い出が次々に出てきて。タイムマシンみたいなものですね」。クルマが大好きで、クルマを愛してきた人生と照らし合わせている。
そして、ある使命感が高まっているという。「バイオレットは不人気車なんて言われています。こうした忘れ去られていくようなクルマを残していきたい。今の人たちに『こんなクルマがあったんだ』と知ってもらいたいし、『バイオレットというクルマあったよね』と記憶に残してもらいたい。そんなふうに思っています」。次の時代にも、貴重な個体をしっかりと伝えていく覚悟だ。