京大法学部卒・呉城久美、大学院進学を蹴った理由「親は泣いていました」 法曹志望から女優の道へ

『さよなら ほやマン』(11月3日公開、庄司輝秋監督)で、映画初ヒロインを務めた俳優の呉城久美は、京都大法学部出身という異色の経歴の持ち主だ。呉城が、演技に目覚めた大学時代を振り返った。

自身のこれまでを振り返った呉城久美【写真:矢口亨】
自身のこれまでを振り返った呉城久美【写真:矢口亨】

クイズ番組でも活躍「武器にしたいと思います」

『さよなら ほやマン』(11月3日公開、庄司輝秋監督)で、映画初ヒロインを務めた俳優の呉城久美は、京都大法学部出身という異色の経歴の持ち主だ。呉城が、演技に目覚めた大学時代を振り返った。(取材・文=平辻哲也)

 NHK連続テレビ小説『まんぷく』ではヒロイン(安藤サクラ)の親友ハナ役を演じ、一躍注目を集めた呉城。『さよなら ほやマン』では、過去を引きずり、一歩踏み出せない兄弟(アフロ&黒崎煌代)の背中を押すことになる漫画家・美晴を演じた。劇中では、とことん強気のヒロインを演じ切ったが、かつての自身は恥ずかしがり屋だった。

「小さい頃から演技に興味を持っていました。鏡の前で演技をして遊んだり、舞台を見たりしていました。高校時代から、そういう思いはあったんだと思います。でも自分が演技をやる勇気がなくて、大学演劇にも参加することなく、なんとなく過ごしていたんです」

 10代の頃は学業に力を入れた。大阪・高石市の中高一貫校、清風南海中学校・高等学校から京都大学法学部に進学。法曹界を目指した。しかし、大学の授業にあまり行かなかったのだという。

「面倒くさいと思って、徒歩3分くらいの家を借りていたんです。で、その裏にあるハンバーグ屋さんでアルバイトする。生活圏を小さくしたら、ますます行かなくなって、単位取得も危なくなってくる。大学時代は何して過ごしていたんだろう。国際法学研究会というサークルには入っていました。模擬裁判は面白かったです。公式で論戦を戦わせるので、標準語でやるんですけど、私はそのときから恥ずかしくて、関西弁を使って、怒られたくらいでした」

 この模擬裁判も演技への興味への一端になった。京大法学部は卒業単位の取得は難しく、半数近くが留年する厳しさ。呉城は大阪市立大大学院への進学も決まっていたため、あらゆる手をつくして単位を取得した。

「最後の単位が本当に危なかったんです。結果を母と見に行ったんですけども、母には『ダメだったら、ゴメン』と言っていたくらい。結局、大学院にも行かなかったので、親は泣いていましたね」

 演技の道に進んだのは、NPO法人「劇研アクターズラボ」が主宰するワークショップ参加がきっかけ。

「ここは小学校の先生やサラリーマンが集まって、ワークショップをやりながら、1年に1本の作品を作るみたい感じでした。演劇を始めてから、私には法律の道に進む覚悟や志が足りないと感じましたし、演技をやらずにこのまま人生を終えることを考えたら、もったいない。やりたいことをやってから、死にたいと思ったんです」

 覚悟を決めたら、突き進むだけだった。2011年から京都で活動する劇団「悪い芝居」で活躍し、頭角を現す。16年に活動拠点を東京に移し、芸能事務所に所属し、舞台だけではなく、映像作品にも出演。16年、NHK連続テレビ小説『ぺっぴんさん』で朝ドラ初出演。17年にも『ひよっこ』、18年の『まんぷく』では安藤サクラ演じる主人公の親友役を演じた。

「東京に行った当初は不安でした。最初の朝ドラのときはおびえていたのですが、『まんぷく』を1年やったことで自信がついてきました。クランクアップのときのあいさつは普段なら、サクッと終われるタイプなんですが、サクラさんもウルウルされているのを見て、号泣してしまいました。今でも隣で撮影していると声をかけてくださる、ありがたい先輩です」

「とにかく演技をさせてください!」と意欲十分【写真:矢口亨】
「とにかく演技をさせてください!」と意欲十分【写真:矢口亨】

 俳優業の一方、京大出身というキャリアを買われて、クイズ番組などにも出演している。京大出身の俳優には辰巳琢郎(65)、山西惇(60)らがいるが、女優ではいない。これは武器ではないか。

「京大出身と名乗っても、そんなことに誰が喜ぶんだと思った頃もありましたけども、頑張ったんだから、『取り上げてもらおうよ』と思えるくらい大人になりましたかね(笑)。武器にしたいと思います(笑)。クイズ番組では好きな年上の俳優さんと会えるのがテンション上がります」

 キャリアを重ねるにつれ、自信もつけてきたが、まだターニングポイントを感じていないという呉城。今後も、映画を中心に活動してきたいという。「もっと演技に囲まれていたい。ほかにもやりたいことはないんです。『とにかく演技をさせてください!』という感じです」。

 実家にはほとんど帰っていないそうで、「親は朝ドラを含めて、私の作品を見ていないと思います。帰ったときも仕事の話は一切しないんです。もう反対はしていませんが、恥ずかしい気持ちが強いんでしょう。でも、見ていたら恥ずかしいから、似ているんでしょうね」と笑う。遅咲き、恥ずかしがり屋の才女は大輪を咲かせてくれそうだ。

□呉城久美(くれしろ・くみ) 2016年からNHK連続テレビ小説を立て続けに出演。『べっぴんさん』『ひよっこ』、そして、『まんぷく』では主役を親友として支え続ける大きな役割を担った。22年の舞台『裏切りの街』(作・演出:三浦大輔)では高い評価も得る。今年は日本テレビ系ドラマ『大病院占拠』にレギュラー出演など。映画では、『来る』(中島哲也監督)、『浅田家!』(中野量太監督)、『流浪の月』(李相日監督)、『エゴイスト』(松永大司監督)など注目監督の作品に出演する。

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