「美大に進学すると就職できない」過去から一転、“美大人気”が急上昇 企業が欲しがるワケとは

「美大に進学すると就職できない」。そんな先入観が支配的だった時代があったが、近年は美大の評価が高まっている。リクルート進学総研(東京・千代田区)が発表した『進学ブランド力調査2023』によると、ここ10年くらいで美大を志願する高校生が増え、多くの美大卒業生が有名企業に就職しているという。なぜ、美大は好調なのか。同総研の小林浩所長に聞いた。

美大を志願する高校生が増えている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
美大を志願する高校生が増えている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

かつては「就職できない」の悪評は昔話

「美大に進学すると就職できない」。そんな先入観が支配的だった時代があったが、近年は美大の評価が高まっている。リクルート進学総研(東京・千代田区)が発表した『進学ブランド力調査2023』によると、ここ10年くらいで美大を志願する高校生が増え、多くの美大卒業生が有名企業に就職しているという。なぜ、美大は好調なのか。同総研の小林浩所長に聞いた。(取材・文=鄭孝俊)

――美大が見直されていると聞きました。就職も好調のようです。

「確かに美大を希望する高校生が増えています。以前は美術=ファインアートという捉え方で、美術を学んだ後の就職先について心配されている方も多かったと思いますが、今はどちらかというとファインアートよりもデザイン重視です。このデザインという学問分野が非常に人気を集めています。例えば、メディアがアナログからデジタルに転換していますので、企業のホームページを作る部署、企業内情報を動画にして配信する部署、それらは全て“デザイン”になるわけです。『毎日、油絵を描いて就職なんかできないよ』のような声はもう昔話です。武蔵野美大のクリエイティブイノベーション学科の就職はとても好調と聞いています」

――美大の専門的研究に企業が関心を寄せているようです。

「武蔵野美大は、19年に造形構想学部クリエイティブイノベーション学科の専門課程や大学院造形構想研究科造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコースなどの拠点となる市ヶ谷キャンパスを開設しました。ここでは産官学プロジェクトが実施されていて広告代理店勤務の社会人学生も通っていると聞いています。京都芸術大の通信教育コースにも、社会人が非常に集まっていると聞きます。美大生の就職先で興味深いのは金融機関です。店舗を構える場合、顧客の動線や窓口をデザインする必要があります。その際、美大出身者の知識やデザイン力が生きるそうです。ホームページなどコンテンツの作成にも役立ってくれます。ホームページの作成などはアウトソーシングで外部企業に丸投げという会社もありますが、全てを外部発注にしていたら企業内にデザインの知識や人材が蓄積されません。企業の付加価値を高めるためには『デザイン力』『クリエイティビティー』が極めて重要です」

――では、美大は今後、どのような付加価値を高めていくべきでしょうか。

「『美大』という名前だけで人気が得られることはないと思います。例えば、体育大がありますよね。以前、教えているのは『体育』だけで、体育の先生になるのが目標だったわけですが、近年は人々の生活が全て『体育』あるいは『スポーツ』に関わるようになっています。各企業ともにスポーツマーケティング、スポーツ用品プロダクトに関わる部署があり、スポーツコンテンツに進出する企業もあります。人々の生活の中に『体育』が入り込んで、健康・スポーツという領域として広がっています。どの企業でも取り組んでいる健康事業は高齢化する中での予防医学的な位置付けになっています」

――美術は人々の生活に欠かせない大切な学問になってきたようですね。

「その通りです。『美術を生活にどう活用するのか』というのがポイントです。『ソサイエティ5.0』と言われるような超デジタル社会になっていくと、クリエイティビティーを生かして、人々の生活に欠かせないデザイン、グラフィック、映像などデジタルを『いかに活用できるか』という状況になります。だからこそ、分野のカリキュラムの充実が美大の魅力になっていくと見ています」

□小林浩(こばやし・ひろし) 1964年、埼玉県生まれ。早大法学部卒。88年、リクルートに入社。グループ統括担当や『ケイコとマナブ』商品企画マネジャー、大学ソリューション営業、社団法人経済同友会出向(教育問題担当)、会長秘書、大学ソリューション推進室長などを経て、2007年4月から現職。文部科学省中央教育審議会高大接続特別部会委員、高大接続システム改革会議委員などを歴任。現、中央教育審議会大学分科会臨時委員。『リクルートカレッジマネジメント』編集長。

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