【週末は女子プロレス♯123】伝説の「10・9」を現代に蘇らせた朱里との一騎打ち 足4の字固め繰り出した白川未奈の思い

いまから28年前の1995年10月9日は、日本プロレス史にとって極めて重要な日として記憶されている。新日本プロレスの東京ドーム大会で、新日本とUWFインターナショナルが全面対抗戦。「激突 新日本プロレスvsUWFインターナショナル 全面戦争」と題した大会には6万7000人の大観衆が集結し、メインのIWGPヘビー級選手権試合、武藤敬司vs高田延彦にプロレスファンが熱狂した。試合はドラゴンスクリューからの足4の字固めで武藤が勝利(トータルでは新日本の5勝3敗)。伝統的かつプロレスならではの必殺技をフィニッシュに選んだ武藤のセンスとプロレスLOVE。純プロレスが打撃や関節技を中心とした格闘色の濃いUWFを凌駕したことで、後世に語り継がれる伝説の名勝負となったのである。

「10・9と言ったら足4の字固め」と伝説の試合を蘇らせた【写真提供:スターダム】
「10・9と言ったら足4の字固め」と伝説の試合を蘇らせた【写真提供:スターダム】

武藤敬司vs高田延彦の熱狂から28年

 いまから28年前の1995年10月9日は、日本プロレス史にとって極めて重要な日として記憶されている。新日本プロレスの東京ドーム大会で、新日本とUWFインターナショナルが全面対抗戦。「激突 新日本プロレスvsUWFインターナショナル 全面戦争」と題した大会には6万7000人の大観衆が集結し、メインのIWGPヘビー級選手権試合、武藤敬司vs高田延彦にプロレスファンが熱狂した。試合はドラゴンスクリューからの足4の字固めで武藤が勝利(トータルでは新日本の5勝3敗)。伝統的かつプロレスならではの必殺技をフィニッシュに選んだ武藤のセンスとプロレスLOVE。純プロレスが打撃や関節技を中心とした格闘色の濃いUWFを凌駕したことで、後世に語り継がれる伝説の名勝負となったのである。

 以後、Uインターは崩壊し、UWFの3文字は求心力を失っていくわけだが、ひとつのスタイルとして根強い人気があるのもまた事実である。そして女子プロレスでもときおり、ピンフォールのないロストポイント制のUWFルールが採用されている。スターダムでは2021年10月9日の大阪城ホールがその舞台となるはずだったが、小波の欠場によりUWFルールは消滅。それでも急きょ名乗りを挙げた鹿島沙希をドラゴンスクリューからの足4の字固めで破った朱里が試合後、「10・9と言ったら足4の字固め」とアピールし、武藤vs高田をオマージュしたことを明かしたのである。

 UFCをはじめ格闘技でも実績豊富な朱里は、同年11・27代々木であらためて小波とUWFルールで対戦。さらに今年2・26神戸でもUWFルールで鹿島を破り、9・3広島において今回の10・9名古屋でもこの形式で闘いたいとアピールした。そこで名乗りを挙げたのが、クラブビーナスを率いる白川未奈だ。

 白川は一点集中攻撃からの足4の字固めを必勝パターンとしており、自分の出番として名乗りを挙げたのは想像に難くない。2年前の大阪城ホールで再現されたドラゴンスクリューからの足4の字固め。それこそ、いまなら朱里ではなく自分の戦法ではないかと思ったのだ。

 白川はもともと、国内外のクラシックなプロレス、90年代のプロレスに刺激を受けて自分のスタイルに取り入れている。「スターダムに来てから説得力ある試合運びがなかなかできないと感じるようになって、相手に確実にダメージを与えたうえで見ている方にも説得力のある試合をやりたいと思ったんですよね。そこで考えたのが、一点集中攻撃でした」。そのなかに、10・9での足4の字固めも記憶にあった。足への集中攻撃でダメージを蓄積させ、4の字でフィニッシュを取りたい。そう意識して初めて手にした勝利が、22年1・15多治見での第1試合だった。白川は月山和香にドラゴンスクリューからの足4の字固めでギブアップを奪ったのである。

 その後、打撃も意識して使うようになった白川。これにもれっきとした理由がある。その年のシングルリーグ戦5★STAR GPに向けて自分を変えたい。一点集中攻撃はスターダムに同じようなスタイルをこなす選手がいないとみて実践したスタイル。さらにレスラーとして上昇するため、純プロレスとはある意味対極をなす打撃を選んだのだ。キックをはじめ出稽古に勤しむと同時に、地方大会にもキックミットなどを持参し練習に励んだ。じわじわと攻め込むストーリー性のあるプロレスと、一発で倒せる可能性のある打撃の習得。そのかいあってか、昨年の5★STARでは彼女の新しいスタイルが脚光を浴びた。とくに足4の字固めは彼女の代名詞的な技に昇格したと言っていい。

 さらなる飛躍が期待された今年、惜しくも決勝進出はならなかったものの、王者クラスから複数の白星をゲットし、手応えは感じている。だからこそ、元・赤いベルトの王者でUWFルールにも精通する朱里との一騎打ちを望んだのである。

 朱里とは10・7長野で前哨戦。羽南を加えての3WAYマッチだった。朱里と白川がUWFを意識して向かい合った試合は、羽南の奮闘もあり白熱した。この日、朱里は「UWFルールは自分にとっての挑戦」としながらも白川に期待、そのうえで「甘い部分があれば、すぐに潰します」と秒殺の可能性も示唆していた。

 白川が初めて足4の字固めでギブアップを奪った思い出の場所、多治見での試合を経て迎えた今年の10・9(名古屋ドルフィンズアリーナ)。朱里にはGLEATプレ旗揚げ戦での優宇戦以来4戦目のUWFルールで、スターダムでは3戦目。白川にとっては初めての試合形式となる。

「UWFルールだから朱里の領域ではあるんですよ。だけどその領域で自分が磨いてきた技と自分がやってきたプロレスで勝つのがテーマ。自分のプロレスで勝ちたいですね」と白川。また、10・9の足4の字固めとなれば、自分がその技でギブアップを奪うことこそ今回の「使命」と自覚している。

朱里の壁を痛感「自分がやってきたこと全部出して負けたから悔いはないです」

 しかし結果的に白川は敗れ、朱里の壁を痛感した。白川の打撃の成長はハイキックのキレやフォームからも伝わってきた。足4の字固めも極めてみせた。が、エスケープを許しタップさせるには至らない。それでも、KOされた試合後には「自分がやってきたこと全部出して負けたから悔いはないです」とコメント。実際にはディフェンス面をはじめ練習のすべてを披露できたわけではない。が、そこまでもっていけなかったのが現在の実力と理解した。

「相手を目の前にして出たのがいまの実力なので、ホントに後悔はしていません。ただ、実力がわかったうえで悔しい思いは残りました。それでも、ハイキックは自己ベストってくらいにきれいに入ったし、ハイキックからの裏拳でダウンを取ったのは打撃の自信にもなりました。なので、これからも稽古がんばろうと思いましたね」

 前半で3ポイントを失い、窮地に立たされた白川だが、その後、打撃で朱里からダウンを奪い、足4の字固めでポイントを減らしてみせた。「使命」を果たすには至らなかったものの、持ち味は発揮できたと言っていいのではないか。また、目標とする赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)に近づいているとの感触もある。

「中野たむと赤白2冠戦やって、ジュリアに5★STARで勝って、こんどは朱里と一対一だから、“赤の匂いのする人たち”とシングルで闘う機会が増えてきましたよね。これって、いま自分が次のステージに行ってるのかもって感じもしています」

 今回の朱里戦も含め、今回も惜しいところでチャンスを逃した。が、最近の白川は注目の試合のたびに何らかの形でしっかり爪跡を残している。次に控えるのは、朱里戦のあとスクリーンにも映し出された極悪同盟との遭遇。後日にはダンプ松本&ZAPとのハンディキャップ戦が発表された。10・29立川「Halloween Dark Night2023~恐怖の館~」で“ちゃんみな”を待ち受ける恐怖とは? また、彼女は当然、朱里、UWFルールへのリベンジも狙っている。「来年の10・9でリベンジマッチ組んでもらえないかな?」。

 なお、2024年10月9日は水曜日。とはいえ、95年のその日は月曜日だった。それでも長州力の鶴の一声から大会決定と同時にファンがチケットを求めて殺到。そしていま時空を超えて、女子の「10・9」を朱里から奪うことが、白川未奈の「使命」となったのである。

※高田延彦の「高」の正式表記ははしごだか

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