藤波辰爾×藤原喜明、2人の愛弟子が語るアントニオ猪木 「神様」の素顔は「イタズラ好きで寂しがり屋」

アントニオ猪木さんの一周忌(10月1日)を前に製作された映画『アントニオ猪木をさがして』が10月6日に全国公開。「巨星は一体どんな人物だったのか?」という答えをさぐるため、映画にも登場している藤波辰爾、藤原喜明の二人に語ってもらった。

映画『アントニオ猪木をさがして』に出演した藤原喜明(左)と藤波辰爾の豪華対談が実現【写真:柴田惣一】
映画『アントニオ猪木をさがして』に出演した藤原喜明(左)と藤波辰爾の豪華対談が実現【写真:柴田惣一】

 アントニオ猪木さんの一周忌(10月1日)を前に製作された映画『アントニオ猪木をさがして』が10月6日に全国公開。「巨星は一体どんな人物だったのか?」という答えをさぐるため、映画にも登場している藤波辰爾、藤原喜明の二人に語ってもらった。(聞き手・柴田惣一)

 ◇ ◇ ◇

――プロレスラー、猪木の弟子であり、引退後にも親交があったお二人にとって、猪木さんとは。

藤波「僕の道標だった。自分ももうすぐ古希(70歳、12月28日の誕生日で到達)だけど、猪木さんに憧れてプロレスラーになり、猪木さんの教えを伝えていくのが、今の使命だと思っている。猪木さんがいなかったら、何をしていただろうか。全く見えてこない。僕の人生を導いてくれた人。今の自分があるのも、すべてあの人のおかげだね」

藤原「神様だよ。あの人の付き人をして、そばにいて、色んなことを教わった。プロレスだけじゃない。人としての生き方、生き様、男はこうあるべき……人生の師であり、どうにもかなわない人。まあ。神様としか言いようがない」

――プロレスの師匠としては厳しかったのでは。

藤波「今の時代だったら、問題になったかも知れない。昭和のプロレス界、社会全体もまだまだスパルタ指導で鉄拳制裁も当たり前だった。よく、殴られた。プッシュアップ用道具でカチくらわされたよ。入門したころよりも、ジュニア戦士として凱旋帰国してからの方がやられた。リングに登場するとき、試合前なのに流血しているんだ。お客さんは不思議だったろうね」

藤原「ああ、よくやられていたよね。血だらけなんだよな。試合中でも気のぬけたファイトでもしていようものなら『オイ』って山本(小鉄)さんや俺をうながすんだ。リングに乱入というか、上がっていって、選手の頭をポカリとしたり、顔を張り飛ばした。『プロレスは闘いだ』といつも口にしていたし、ことあるごとに叩き込まれた」

藤波「体育館のドアを少し開けて、チェックしていた。気に入らないと『バタン!』とわざと大きな音をたてて、閉めるんだ。みんなピリピリだよね。馬場さんの全日本プロレスに負けたくなかったんだな。常に意識していた」

藤原「ケガ人が出ないようにしていた。もちろん、優しくじゃないよ。厳しい練習をしていれば、ケガなんてしない強靭な体になる。強い体で強いプロレスを披露する。お客さんに媚なんて売らない。オレたちの闘いが正しい闘い。若いころの猪木さんは、自分の想いに考えに正直だった。ちょっとどうかと引くくらい。正直にもほどがあった」

藤波「本当に命を懸けていた。自分が来年、古希になっても、リングに上がれるのは猪木さんの教え、やり方に必死に食らいついていったからだろうね。若いころの精進が今につながっている」

藤原「リングに関しては、とことん厳しかったけど、普段は優しくてイタズラ好きで寂しがり屋だった。周りに人がたくさんいてワイワイしているのが好きだった。よく呼び出されて、お酒に付き合った。思い出話やおやじギャグはいいんだけど、儲け話は危ない。『こんなスゴイ話がある』と夢のようなこというんだ。猪木さんの名前を利用しようとして、ろくでもないヤツも寄って来る。オレたちから見たら、胡散臭いヤツでも、来る者拒まずの猪木さんは、話を聞いてしまうんだ。そして信じてしまう」

藤波「永久機関とかね。話を聞くと、確かに『そうかな』と思ってしまうけど、あまりに美味しすぎて『ちょっと待てよ』ってなるんだけどね」

映画『アントニオ猪木をさがして』ポスタービジュアル【写真:原 悦生】
映画『アントニオ猪木をさがして』ポスタービジュアル【写真:原 悦生】

藤波「猪木さんの教えを伝えていかなくてはいけない」

――人の話を真摯に聞いてくれますよね。私も猪木さんを馬場さんのいる全日本プロレスの大会会場に連れていったことがある。また、ハワイのワイキキビーチでも当時は全日本プロレスにしか出場しなかったリック・フレアーを見つけて「会いに行きましょう」と引っ張っていった。こっちの熱意を受け止めてくれる人でした。

藤原「そうそう。だから詐欺師まがいに、引っかかりそうになるんだよ。でも、人徳があるから、決定的なことにはならない」

藤波「助けてくれる人も多かったから。色んな顔を持つ猪木さんのそばにいて、たくさん体験できたのは幸せだよ。僕の財産だね」

藤原「そう、幸せな時を過ごさせてもらった。前田日明いるじゃない。彼が若手のころ『猪木さんは、一番好きなヤツを、一番最初に殴るんだ』とオレがささやいたことがある。猪木さんがカリカリ来て、そろそろ雷が落ちるな、という時に、前田が体育館の端から走って行って、猪木さんの目の前に出たんだ。当然、前田が最初に鉄拳制裁を食らった。後で前田が『オレが一番ですね』と嬉しそうに言うんだ。得意げにね。猪木さんとの幸せな思い出は、俺たち2人だけじゃない。みんなが一人ひとり、大切にしていると思うよ」

藤波「そういったエピソードはもちろん、プロレスの在り方、プロレスラーとしての心構え……猪木さんの教えを伝えていかなくてはいけない」

 藤波と藤原。若く血気盛んなころから円熟期そしてレスラー引退後の猪木さんをよく知る2人は、熱くかつ楽しそうに語り合った。

 思い出は尽きない。死してなお、レスラーに、ファンに語り継がれる猪木さん。偉大さを改めて感じる。本物のスーパースターだった。

【作品情報】
映画『アントニオ猪木を探して』10月6日(金)全国公開
出演:アントニオ猪木
アビッド・ハルーン、有田哲平、海野翔太、オカダ・カズチカ、神田伯山
棚橋弘至、原悦生、藤波辰爾、藤原喜明、安田顕
番家天嵩、田口隆祐、大里菜桜、藤本静、山崎光(※崎の正式表記はたつさき)、新谷ゆづみ、徳井優、後藤洋央紀、菅原大吉

<ナレーション>福山雅治

主題歌『炎のファイター~Carry on the fighting spirit~』(福山雅治)

監督:和田圭介 三原光尋 製作:「アントニオ猪木をさがして」製作委員会 制作:パイプライン スタジオブルー 配給:ギャガ

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