亀田誠治の苦渋の決断…コロナ禍で日比谷音楽祭の中止、語った「人の命が第一」の理由
音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治が、停滞から抜け出そうとする日本音楽界と向き合っている。昨年に、東京都心の日比谷公園を会場に、「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」を掲げる「日比谷音楽祭」のプロジェクトを発足。しかし、新型コロナウイルスの影響で、第2回を予定していた今年の開催は中止という苦渋の決断を下した。“親子孫3世代を通じて愛される音楽”と持続可能な音楽産業の新たな道を追求する音楽職人に、日比谷音楽祭が描く未来像と、コロナによって変わる音楽の形について聞いた。今回は前編。
【前編】亀田誠治に聞く日比谷音楽祭の未来像、“アフターコロナ”の音楽界
音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治が、停滞から抜け出そうとする日本音楽界と向き合っている。昨年に、東京都心の日比谷公園を会場に、「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」を掲げる「日比谷音楽祭」のプロジェクトを発足。しかし、新型コロナウイルスの影響で、第2回を予定していた今年の開催は中止という苦渋の決断を下した。“親子孫3世代を通じて愛される音楽”と持続可能な音楽産業の新たな道を追求する音楽職人に、日比谷音楽祭が描く未来像と、コロナによって変わる音楽の形について聞いた。今回は前編。
――日比谷音楽祭の「フリー」には、「無料」「楽しみ方の自由」「様々なボーダーからの解放」の意味合いがあると聞きました。昨年の第1回は2日間で約10万人を集めました。画期的な音楽フェスの開催を思いついたきっかけについて教えてください。
「まず問題意識として、今、音楽はサブスクリプション(定額配信サービス)を含めて聴かれ方が変化しています。スマホで音楽を聴く「孤聴化」が進み、世代・ジャンルを超えて、親子孫3世代で愛される音楽というものが日本の中で失われてきているのではないかという危惧を持ち続けてきました。その中で、僕はこの数年、音楽の勉強とリフレッシュを兼ねてニューヨークに行っているのですが、セントラルパークで夏の間に数か月に渡って開かれている『サマーステージ』というフリーライブがあるんです。たまたま通りかかって知ったんですけど、これが気づきになりました。出演アーティストを見ると、駆け出しのバンドだったり、クラシックのバイオリニストだったり、ソウルシンガーだったり。面白いなと何日も通っていたら、エルビス・コステロが自分のバンドとともに出てきたり。出演者は多種多様なジャンルで、10代から上は80代くらいまで幅広い年齢層。それにお客さんは、老夫婦が手をつないで、家族連れがピクニックセットを持ってベビーカーを押しながらやって来る……。一方で、日本ではマーケティングでターゲットを絞ったコンサートやフェスはいっぱい行われていますが、親子孫3世代が垣根を越えて集うニューヨークで見ているこの景色を、いつか東京でやりたいなと思ったんです」
――そのニューヨークで感じた熱い思いが、日比谷公園とどう結びついたのでしょうか。
「何年も毎年夏にニューヨークに通っている中で、3年ほど前に東京都から、日比谷公園全体を使った音楽祭をプロデュースしてほしいというオファーを頂いたんです。日比谷公園にある日比谷公園大音楽堂(通称野音)は、武道館と並び数々の伝説が生まれた音楽の聖地です。ここで大きなポイントがあって、僕がフェスをやりたくて日比谷野音や公園を使わせてくださいと言ったのではなく、文化事業としてフェスをやってくださいと東京都が管理する公園側からオファーされていることなんです。ニューヨークで見た景色は、音楽が「文化」としてしっかりと生活に根付いているということです。今こそ日本で音楽を文化として根付かせるために、日比谷音楽祭のプロジェクトオファーは願ったり叶ったりのチャンスです。文化の芽を育てるため、草の根でいいからゼロからやってみようと決意しました。昨年の第1回目は、家族連れがあたたかい雰囲気の中で音楽を楽しんだり、普段はロックフェスしか行かないような若い人が『意外に石川さゆりってロックじゃん』と気付いて味わうような、そんな様子が見られました。自分が思い描いていた、ボーダーを越えていくということが実現できたと思います」
――無料ライブの運営方法、お金の面はどのようにやりくりしているのでしょうか。
「チケット販売からの収入の無い日比谷音楽祭は入場料を見据えて予算を組むことはできません。財源は企業からの協賛金、行政からの助成金、一般の方々からのクラウドファンディングの3本柱です。僕は音楽業界のお金の循環について新しい仕組みを導入したかったんです。実際に、企業に対して僕が直接協賛のお願いに行っているんですよ。
今、僕が現場で音楽プロデュースをしている中で、若いアーティストの制作現場に十分な予算があてられていないと感じることが多くあります。僕らの世代が若い才能に本物のプロフェッショナルのスキルとノウハウを手渡して世に出していくことが大切なんです。若い世代は仕方なく自分で動画をアップしたりしてそこで循環が止まってしまう。この状況を変えて行くために日本の音楽産業の中でお金の回り方を変えたいと考えていたんです。そこで日比谷音楽祭にフリーの概念を持ち込んだわけです。音楽業界の中だけでお金を回すのではなく、外の企業やクラウドファンディング、行政の手を借りてお金を回す仕組みを作りたかった。新しい音楽を生んでいくため、いまある音楽文化をサステナブルにしていくための取り組みでもあるんです。実際に、ニューヨークの『サマーステージ』は企業からの協賛金と寄付だけで成立しているんです。それも年間80億円の規模です」