吉本新喜劇は「B級グルメ」 間寛平GM&座長すっちーが語る賞レースとの違い「『アホやな~こいつら』が欲しい」

お笑いタレントの間寛平が「吉本新喜劇」のGM(ゼネラルマネジャー)に就任して1年がたった。朝番組に座員が出演すれば、ツイッターのトレンド入り、若手が劇場を満席、完売にするなど成長も著しい。GMの間と座長のすっちーにこの1年や、若返りも進めようとしている「吉本新喜劇」について話を聞いた。

吉本新喜劇GMの間寛平(左)と座長のすっちー【写真:ENCOUNT編集部】
吉本新喜劇GMの間寛平(左)と座長のすっちー【写真:ENCOUNT編集部】

寛平GM体制1年、座長が変化証言「チャンスが若手には増えました」

 お笑いタレントの間寛平が「吉本新喜劇」のGM(ゼネラルマネジャー)に就任して1年がたった。朝番組に座員が出演すれば、ツイッターのトレンド入り、若手が劇場を満席、完売にするなど成長も著しい。GMの間と座長のすっちーにこの1年や、若返りも進めようとしている「吉本新喜劇」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 ◇ ◇ ◇

――吉本新喜劇のGMに就任して1年経ちました。手ごたえはありますか。

寛平「本当にみんな頑張ってくれて、どんどん今若い子もやる気を出しています。だいぶ伸びたよね。吉本新喜劇セカンドシアター(324席)を作ってもらったのですが、そこを若い子が満席にしたりとか。佐藤太一郎、小西武蔵の2人のコンビがあるんですけど、京都のよしもと祇園花月も満席にして、今度なんばグランド花月でライブがあるのですが、そこもほぼ完売でした」

――発掘した感覚になるのでしょうか。

寛平「それはちょっと違うのですが、それまでは舞台にも出ていなかった子たちやからね。『劇場ちょっと頼みますわ、作ってください』って社長にお願いして、作ってもらって結果出ないなら作った甲斐がない。1年でこの結果が出たから良かったです。顔が立つなと思います」

――すっちーさんは、間寛平さんがGMに就任してからの吉本新喜劇の変化をどう感じていますか。

すっちー「やっぱり、チャンスが若手には増えました。(吉本新喜劇セカンドシアターという)舞台を作っていただいたのが、大きいですね。だから、今までだとできなかった中心の役とか、まわしの役を、若い子が実際に経験するので、スキルアップにもなる。実際にお話を作るということは普通だとしない。出来上がった台本の何かの役をする、責任を持ってひとつのお話を作ることで、『ここでこういうことをするのはいけないな』、『ここでこういう人がいたらありがたいな』とか。ただ新喜劇に出る側ではなくて、作る側になってから初めて分かるようなことを、早いうちに経験できたのは大きいと思いますね。

 若手ってがむしゃらに『ボケないと』ってなりがち。ここではやったらあかんよねとか、本来ここで、しかも短くやるべきだよねとか。そうすると、お話の流れを止めずに、自分のアピールもできるっていう。自分が目立つためにお話を止めちゃいけないなど、作り手になると初めて分かることってあるんです。そういう経験をさせてもらえる場所ができたっていうのは、すごくプラスだと思いますね。自信にもつながったと思います」

――GMとして、今の座長の思いはどう聞いていましたか。

寛平「作った甲斐はありましたよ。チャンスを手にすることができる場を作ったわけだから、これからは手を挙げる座員がどれだけ出てくるかですよね。お客さんも入れないといけない。まだそこまでの自信はないんですよ。こちら側が『お前らやってみるか』って決めないといけないんですよ。そうやって促すのではなく、自ら積極的に手を挙げる子がどんどん出てきてほしい。これから1年、我々が辛抱しないといけないなという感じですね

 でも自分の20代のときやったら、手を挙げてやってたね。それでチケット手売りしに行ったりとかして満席にして、見に来てくれた人らが、次の公演で戻ってきてくれるようなことを考える。俺やったら、すっちーに声をかけて、駆け上がっていってると思う。気持ちの部分やもん」

――どんな経験が若手座員の自信につながると思いますか。

すっちー「今までは何かを作ろうよりも、受け身で出番を待つという感じでしたよね。今いる子全員が中心になってやりたいというタイプではないと思います。それを分かる良い機会にもなったのかなと。中には、ボケたりツッコんだりする役をしている横でしっかりお芝居をして、話をくっと締めたいと思っている子もいると思います。そこに気付くのも大事なことです。

 ボケでもない、ツッコミでもない。お芝居でもない。でも、変な空気を出したい。Mr.オクレ師匠みたいなのかもしれないと考える子がいてもいい。そうなったときに横(座員同士)で話したりするのも大切ですよね」

寛平「ある程度、年齢を重ねたらどの道に進もうかなとか分かってくるよな。例えば、すっちーが座長で出てきてやっているから、僕は真面目に年寄りの役を、助ける側をやろうって」

すっちー「中には芝居をやろうと思ってたら、周囲の座員が『ここ面白い』って気づいてネタになっていくこともありますしね。なんとなく自分の頑張る立ち位置が、ひとつの公演を作ることで見えてきたら良いかな。若い子がよく『何を頑張ったらいいか分からへん』って言うんですけど、自分がどこを目指してるか分からなかったら、やりようがないと思います。どこかでストロングポイントを見つけたら、じゃあ参考にこの人を見ようとか目標を見つけられる」

寛平「僕は横から見てるわけやんか。そうすると、オクレは10年後無理かなとか、島田一の介とか80歳になるから、その代わりに○○がそのポジションに、とか考えていますね。どうせいっちゃん(一の介)は出えへんやろ(笑)」

すっちー「いや、どうせもう一の介は出ないだろうって(爆笑)。分かんないですよ、やってるかも」

寛平「あいつ絶対無理やろ! それで僕もいないと思う。GMというポジションに次はすっちーがいるかも分からない。僕らは、もうどかないといけない。どいてあげないと次の若手が出てこられない。すっちーのポジションにも誰かがくるわけですが、いないから今、育てているんですよ」

「立ち位置が、ひとつの公演を作ることで見えてきたら良いかな」を若手座員への考えを明かすすっちー【写真:ENCOUNT編集部】
「立ち位置が、ひとつの公演を作ることで見えてきたら良いかな」を若手座員への考えを明かすすっちー【写真:ENCOUNT編集部】

島田珠代の再ブレークの影で後輩座員の“猛追”

――吉本新喜劇をGMという立場から見て、何に気づきましたか。

寛平「もっと扱いをうまくしたら面白かっただろうなとか座員一人一人を見ていたら思いますね。森田まりこのポジションに重谷ほたるちゃんがいいんじゃないかなとか、分かってくる。島田珠代も20年後に“パンティーテックス”はやってないと思います」

すっちー「ただ、ここは強いですよ~。僕は1番このラインが激戦やと思うんですよ。珠代姉さんのラインって新喜劇に必要じゃないですか。森田まりこは、単体だったらずば抜けてる。でもメジャーリーガー(島田珠代)いるから……(笑)。ここがバリバリ元気。だから激戦」

寛平「珠代はギリギリまでやってる。最後はほんまにすっぽんぽんになる」

すっちー「他の人が同じことをやったら苦情が来るようなことで、全員が笑っていられるというジャンルを作った。『なんて下品な』、『ちょっとお客さん引いてるやん』ってならないんです」

――今いる人気メンバーの後釜、後継者を考えるのも上の者の役割なのでしょうか。

寛平「作ってあげないといけないですね。どうしても弱ってくるから、20代の子たちを何とか育てようと思ってるんですよ。(重谷)ほたるちゃんも、あの子は行くよな! 客席におしりを向けたりとか。そういう子たちも出てくるから、見てて面白いです」

すっちー「そういうこともあって、珠代姉さんも再度跳ねたと思うんですよね。常に新しいものって考えるじゃないですか。それで再ブレークしはるし」

――目立たないポジションの座員さんを輝かせるために座長としてしていることは何でしょうか。
すっちー「その子がちょっとボケたい子であっても、『ごめんな、今回はお芝居に徹してくれない?』と言いますね。ここが重要だからと、強調しますね。そうするとお話の中で、どうでもいい役ではない、と分かってもらえたりする。これがあるから、ここでウケてるというお仕事として重要な部分は伝えるようにしています。

 無理やりやらせるのも違いますよね。僕らが考えている座員の強みと本人の意向が違ったりする。そこが一致するようになってくればなので、『僕はここが良いと思う』を伝えすぎずに言いますね」

寛平「漫才、落語、コントは大学を出た頭の良い人間が作っていく。新喜劇って頭良かったらできないよね。新喜劇ってアホやないとあかんと思う」

すっちー「どうなんでしょう、作家さんの名誉にも関わってくると思うんですけど(笑)。いわゆる新喜劇っぽさってお客さんが求めているものでもありますよね」

吉本新喜劇を「雑草軍団」、「幕の内弁当」と例えた2人【写真:ENCOUNT編集部】
吉本新喜劇を「雑草軍団」、「幕の内弁当」と例えた2人【写真:ENCOUNT編集部】

GM、座長が考える「吉本新喜劇っぽさ」とは

――吉本新喜劇の方々は、お笑い賞レースをどう見ていますか。

すっちー「あれはあれで素晴らしいと思いますよ」

寛平「考えられん。すごすぎる」

すっちー「ネタ時間もどんどん短くなっていってるし、新しいネタを求められるし、大変やなと思いますね。言うても新喜劇も、毎回新作なんですよ。そこも難しいところで、全く“新喜劇っぽさ”を消して、スタイリッシュな45分のコメディーにしてしまったら、お客さんにウケていても、なにか思ってた新喜劇と違うなとお客さんは感じると思うんですよね。

 なんばグランド花月に来て、あの辺のたこ焼きを食べて、空気感を感じているお客さんの求める新喜劇ってあると思うんですよね。面白いし、お客さんが求めている新喜劇に当てはまるようなことをしないと満足してもらえない。笑いを突き詰めすぎても新喜劇じゃない。『良く出来たネタだな』ではなくて、『アホやな~こいつら』が欲しいし、肩に力を入れて見るものじゃない」

寛平「『アホやな~』って言ってもらって、お客さんより下にならないといけない」

すっちー「堅苦しいコース料理とかではなくて、どちらかというとホルモンとかいわゆるB級グルメです。『これうまいねん』で満足してもらえる感じです。そこからは、ずれないようにしないといけませんよね」

――SNSも普及して一般ユーザーが評論家のようになってきています。吉本新喜劇はどういうスタンスでいますか。

すっちー「個人の意見なので、別に何を言われてもいいんです。お客さんが笑ってくれてたら、それでいい。新喜劇としてもルールはありますけど、『バカバカしかったな』でいいんですよ」

寛平「それで、次の日には忘れてるくらいの」

すっちー「それでも良いんですよ。でもどこかで『また行こうか』となったらありがたいですよね」

――最後に「吉本新喜劇」は、どんな集団ですか。

寛平「雑草集団やね。考えたら梅沢富美男さん、松竹さんの劇団はピラミッド型。吉本新喜劇は雑草。誰かが出てくるから。踏まれても踏まれてもやり通していく、そういう集団です」

すっちー「僕はよく、幕の内弁当という例えを使うんです。いろいろなものあって、飽きないじゃないですか。でも味付けで言ったら先ほど言った“B級グルメ”。偉そうなものではないけど、満足してもらえる、おいしかったと言ってもらえる庶民のものでありたい。構えて見に来るものではなく、『さぁお笑い見に行くぞ』なんて意気込まないでいいものでありたいですね」

□間寛平(はざま・かんぺい)1949年7月20日、高知県生まれ。70年に吉本新喜劇に入団。吉本新喜劇のスターとして人気を博している。趣味はマラソン、愛車は日産スカイライン「GT-R R34型」。2022年2月9日に吉本新喜劇GMに就任した。今月21日には「吉本新喜劇記念日2023」を開催する。

□すっちー 1972年1月26日、大阪府生まれ。96年に活動開始、2007年10月に吉本新喜劇入団、14年6月に座長に就任した。おかっぱ頭の女性キャラクター・すち子を演じる。有名なギャグに吉田裕との「ドリルすんのかいせんのかい」がある。

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