21人の子どもたち、笑顔なき写真展示…カメラマンが伝えるウクライナの現実「子どもは見ている」

ウクライナから日本に避難した子どもをモデルにした無料の写真展示が1月9日から15日まで東京メトロ表参道駅コンコース(ADウォール・B1出口付近)で行われる。撮影は昨年11月に行われ、1~13歳までの子ども21人が集まった。撮影した写真家の宮本直孝さんに、作品に込めた思いを聞いた。

日本に避難したウクライナの子どもたちを撮影した【写真:宮本直孝さん撮影】
日本に避難したウクライナの子どもたちを撮影した【写真:宮本直孝さん撮影】

表参道駅に展示 1~13歳までウクライナの子ども21人を撮影

 ウクライナから日本に避難した子どもをモデルにした無料の写真展示が1月9日から15日まで東京メトロ表参道駅コンコース(ADウォール・B1出口付近)で行われる。撮影は昨年11月に行われ、1~13歳までの子ども21人が集まった。撮影した写真家の宮本直孝さんに、作品に込めた思いを聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 宮本さんは昨年4月、日本在住のウクライナ人23人を撮り下ろし、反戦メッセージを届ける作品『STAND WITH UKRAINE』を表参道駅に掲出している。今回は宝飾メーカーのスタージュエリーがウクライナの子どもたちにテディベアをプレゼントする活動と連動。『BEAR FOR PEACE – STAND WITH UKRAINE』と題して、21枚の写真を展示することになった。

 実現には紆余曲折があった。スタージュエリーから撮影を依頼された当初、宮本さんは一度撮影を断っている。

「横浜市の支援センターでウクライナから避難してきた子どもたち6~7人にぬいぐるみを渡す場があるから、子どもたちのテディベアを持っている写真を撮ってくださいますかって依頼がきたんですよ。仕事かボランティアか分からない。仕事だとしてもウクライナの子どもを撮ってお金はもらいづらい。日本に避難してきて、笑うときもあるでしょうけど、楽しい毎日じゃないだろうし、それで笑顔の写真を撮るのはちょっとなと。さすがにそれできないよと断ったんです」

 それでも考え直したのは、「多くの人に考えてもらうきっかけになる写真なら、やる価値はあるんじゃないか」と思ったから。昨年4月の展示で在日ウクライナ人と接点があった。スタージュエリーの申し出を契機に、逆に表参道での展示を提案すると、スタージュエリー側も同意した。

 宮本さん自身はノーギャラで仕事を引き受けた。一方で、撮影のためにヘアメイクやスタイリストを用意し、写真の完成度にはこだわった。「子どもたちをタダで使って日本の大人がもうけるわけにはいかないだろう」との宮本さんの判断から、全員が高い志を持って撮影にあたった。

 モデルの21人は全員がウクライナから避難してきた子どもたちだ。声がけに協力してくれたのは、意外な人物だった。

 前回の写真展示では、東京メトロ側からの要請で、政治的な意味を持つ「STOP PUTIN(ストッププーチン)」などの言葉や国旗は、修正の対象となった。そのとき、修正に納得できず、最後まで宮本さんが説得したウクライナ人が全面的に協力してくれた。「すごく熱心で、ウクライナのコミュニティーに(撮影の募集を)書いてくれたんですよね。その人が全部やってくれました」。宮本さんの活動がウクライナ人に共感され、子どもというセンシティブな被写体の撮影が具現化した。

 子どもたちはほとんどが父親や祖父をウクライナに残している。特別な事情がない限り、男子が国外に移動することはできない。中には生後間もない7か月の赤ちゃんもいた。立つことができないため、撮影対象からは外れたが、宮本さんはそれでも遠く離れた日本に逃れなければならない現実を間近に感じながらシャッターを押した。「最初から何を伝えればいいか分かっている5歳の子もいました」と、振り返った。

 撮影が終わり、でき上がった作品と、被写体の現実の子どもたちを見比べると、宮本さんはハッとさせられたという。

「撮っているときは上半身しか見ていないから年齢とか考えてないんですけど、撮ってOK出して、子どもが写真を見に来ると、みんなめちゃくちゃちっちゃいんですよ。僕が見てもギャップが大きかったですね。写真は年齢が上に見える。11歳ぐらいだと中3ぐらいに見えますよね。1歳の子以外は実年齢よりもはるかに上に見えました」

 その理由を、宮本さんは戦火にあるウクライナの現状に照らし合わせて説明した。ロシアによる侵攻に対峙し、兵士や無抵抗な市民が殺される日々が続く。電気や水道などのインフラ施設がミサイル攻撃で破壊され尽くし、厳しい寒さの中、国民の生活はひっ迫している。その残酷な現実に、子どもたちは子どもたちなりに向き合おうとしていた。幼い顔が何倍にもたくましく見えた。

 21枚の中で、笑顔の写真は1枚もない。

「すごく考えているし、大変なことも多いだろうし、ああ本当はこういうところもあるんだということですよね。思っていたほど幼くないですよ。日本で普通に暮らしている子は、どんなになんとかしようとしてもああはならないと思いますよ。そこまで深刻な経験とか、そこまで考える経験がない。想像以上に、彼らなりに大変なんだと思いますよ」

「年齢よりはるかに上に見えた」と宮本さん【写真:宮本直孝さん撮影】
「年齢よりはるかに上に見えた」と宮本さん【写真:宮本直孝さん撮影】

ロシア侵攻から1年「子どもたちは知っている」 写真を通じて伝えたいこと

 2月24日でロシア侵攻から1年がたつ。この写真の展示を通じ、宮本さんが訴えたいことは2つある。

 一つは、日本にとって対岸の火事ではないということ。もう一つは、展示に添えた5行の言葉にあった。

「子どもたちは

ウクライナから避難してきた子どもたちは

知っているんです

おとなが何をしているのか

自分たちの都合で何をしているのか」

 恥ずべきは身勝手な侵略者たち。家族の幸せを壊す権利などない。戦争に巻き込まれた子どもたちの表情が何より物語っていた。

「子どもは見ているぜ、子どもは分かっているぜというのもここにはあるかな」と宮本さんは語った。

□宮本直孝(みやもと・なおたか)1961年4月5日、静岡・浜松市出身。早稲田大学中退後、イタリアへ留学。これまでロンドンパラリンピックや難民、新型コロナウイルスと闘う医師や看護師などの医療従事者を被写体にした写真展のほか、2022年4月には、日本で暮らすウクライナ人をモデルに反戦メッセージを伝える写真展を開いた。

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