トランス女性のトイレ、入浴事情 当事者「結局は見た目」「残酷だけど決めるのは社会」

近年、身体的な性と内面の性が一致しないトランスジェンダーの人々の権利をめぐり、各方面で大きな議論が起こっている。トイレや入浴施設といった公共施設の利用や、何をもってトランスジェンダーと証明するかなど、問題解決へ向けた課題は山積みだが、当事者は過渡期にある現在の状況をどのように感じているのか。元高校球児で、現在はトランス女性として女子プロレスに挑戦するエチカ・ミヤビさんに、トランスジェンダーをめぐる現実を聞いた。

トランスジェンダー女性で女子プロレスラーのエチカ・ミヤビさん【写真:ENCOUNT編集部】
トランスジェンダー女性で女子プロレスラーのエチカ・ミヤビさん【写真:ENCOUNT編集部】

今年、保護者の同意が不要となる20歳を迎え、性器を摘出する手術を受けた

 近年、身体的な性と内面の性が一致しないトランスジェンダーの人々の権利をめぐり、各方面で大きな議論が起こっている。トイレや入浴施設といった公共施設の利用や、何をもってトランスジェンダーと証明するかなど、問題解決へ向けた課題は山積みだが、当事者は過渡期にある現在の状況をどのように感じているのか。元高校球児で、現在はトランス女性として女子プロレスに挑戦するエチカ・ミヤビさんに、トランスジェンダーをめぐる現実を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 物心ついたときから自身の性に違和感を抱えていたというエチカさん。小学校に入ってもなかなか同性の友達となじめず、悩んだ末に野球部に入部、一転して男らしい生き方を選択した。「男として生きるうちに女になりたい気持ちが消えるんじゃないか」と野球や柔道に打ち込み、女性との交際も経験したが、やはり違和感を拭えなかったという。

 その後、留学先のオーストラリアで自由で解放的な空気に触れ、女性として生きていくことを決断。今年、保護者の同意が不要となる20歳を迎え、性器を摘出する手術を受けた。9月には女子プロレスラーとしてリングデビュー。プロレス界で大成することを目指し、日夜練習に励んでいる。

 トランスジェンダーをめぐっては、近年、トイレや入浴施設といった公共施設の利用において、どこまで許容されるのかという議論が盛んだ。残念ながら、内面の性が女性であると主張する男性が、女子トイレや女湯に侵入しようとする事件も発生している。当事者として、この問題についてはどのように考えているのか。

「私の場合、男性用トイレを使用したら驚かせてしまうので、多機能トイレを探したり、なければ女性用トイレを使っています。こちらが性転換をしていても、受け入れられないという女性がいるのも分かるので、なるべく気は遣っている。ただ、トランスジェンダーの当事者は自分が特別な性別だと思っているわけじゃなく、私は女、俺は男だと自認している。多機能トイレを使えと言われるのは嫌だという声も多いです。

 どこで折り合いをつけるかは、結局のところ、見た目の部分が大きいと思います。見た目は男のままだけど、心は女の子だから受け入れてというのは違う。相手に違和感や不快感を与えないよう、見た目を磨くことは必要です。お金はかかりますけど、ある程度手術をしたり、注射を打ったり、顔を変えたり、そういう女性、男性になるための努力をして、初めて社会に受け入れてもらえるものではないでしょうか。マイノリティーの問題であっても、社会の中の大多数がどう思うかというのが大事。最終的に男か女かを決めるのは、残酷ですけど、社会からどう見えるかということしかないと思う」

SNS上には女性を性的な目で見るために性転換手術を行ったと公言するアカウントも

 驚くべきことに、SNS上では女湯で女性を性的な目で見るために性転換手術を行ったと公言しているアカウントも存在する。感情論では許されざる行為だが、現在の法解釈では、これを規制することができないのが実情だ。

「女性にとってはもちろん、私からしても恐怖。本当に許せない行為だし、私たちの肩身が狭くなる一因でもあり、看過できない問題です。ただ、手術して完全に女性の見た目になって、そこまでしてのぞいてやろう、襲ってやろうという男性がいたら、残念ながらそれはもう見分けがつかない。人の心の中まではのぞけないので、現実的にはカメラを仕掛けた、故意に触ったなど、犯罪行為があった場合のみ取り締まるのが限界ではないかと思います。世の中には同性に欲情する人も、男でも女でも子どもでも何でもいいという人もいる。女性の盗撮魔と同じ扱いをするしかないのではないでしょうか」

 最近ではプラスサイズモデルのトランス女性がミスコンに出場し優勝するなど、過度な配慮に対し「やり過ぎでは?」という疑問の声も上がっている。エチカさんも、トランスジェンダーだからという理由で下駄を履かせるような行為には否定的だ。

「結局、人柄なんですよ。一方的な『認めて』『配慮しろ』ばかりまかり通っていたら、反感を買うに決まっている。私たちは一般の男性、女性が暮らすの社会に参加させていただいているだけ。何でもかんでも権利を主張して、『私を認めて!』というのは違うと思います」

 世界的にも過渡期を迎えている多様性をめぐる現状。誰もが自分らしく、かつ協調し合って生きていくためには、今しばらくの議論が必要なようだ。

□エチカ・ミヤビ 2001年3月25日、神奈川県出身。小学校5年生のときソフトボールを始め、中学では軟式野球部に所属。高校では硬式野球部で最速136キロを記録。柔道2段。20歳のとき、性器の一部を摘出する手術を受ける。今年9月14日、プロレス団体「P.P.P. TOKYO」からデビュー。178センチ、70キロ。戦績は5戦5敗。

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