“時代遅れ”企業の社内行事が復活 忘年会・書き初めや3年ぶり社員旅行…あえてやる理由

新型コロナウイルスの感染拡大が始まって3年目の2022年、外出や行楽といった人の動きが戻りつつある中で、企業の社内行事にも“コロナ禍前”への回帰の兆しが見られる。3年ぶりに社員旅行を復活させたり、チーム制で忘年会や書き初め・初詣といった季節のイベントを行う企業も。従業員同士の親睦を深め、団結を促す社内行事。そもそも近年少なくなっているが、出社を伴わない働き方やリモートワークが浸透する今、なぜ“団体行動”に力を入れるのか。企業側の取り組みを追った。

社内行事で恒例の書き初め。部署・チームの目標を立てるという【写真:MRT株式会社提供】
社内行事で恒例の書き初め。部署・チームの目標を立てるという【写真:MRT株式会社提供】

リモートワークが浸透する今なぜ“団体行動”? 社員旅行は6月に福岡・11月に韓国…アンケートで行き先決定

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まって3年目の2022年、外出や行楽といった人の動きが戻りつつある中で、企業の社内行事にも“コロナ禍前”への回帰の兆しが見られる。3年ぶりに社員旅行を復活させたり、チーム制で忘年会や書き初め・初詣といった季節のイベントを行う企業も。従業員同士の親睦を深め、団結を促す社内行事。そもそも近年少なくなっているが、出社を伴わない働き方やリモートワークが浸透する今、なぜ“団体行動”に力を入れるのか。企業側の取り組みを追った。(取材・文=吉原知也)

「『やっと行けるようになったのか』、そんな声が多かったです。旅行の7割が自由行動だったので、接待の場と堅苦しく感じることはなく、おのおのが自由に羽を伸ばすことができリフレッシュ効果もありました」

 衣食住の生活インフラを手がけるベンチャー企業「ビジョンズ株式会社」(東京都)の広報担当・塩入菜穂さんは、11月に行ったばかりの韓国への社員旅行の感想についてこう振り返った。

 同社は2018年から社員旅行の行事をスタート。1年目は石川県金沢市(参加者20人)、2年目は沖縄県那覇市(参加者25人)、20年の3年目は北海道を予定していたが、コロナ禍の影響により中止となった。社員旅行を実施する理由としては「社員同士の交流を深めてほしい、会社の成長を実感してほしい」という狙いがあるという。

 同社では、主力事業である住宅設備事業で現場工事スタッフと本社社員のコミュニケーション促進をポイントに挙げており、「本社と現場の間で、ツールや電話上では連絡を密に取っているものの、対面で交流する機会が少なかったため、受注や工事の連携を強めるために社員旅行という機会を設けました」と説明する。

 効果はてきめんで、互いの人となりを理解できたことで、例えば、「工事スタッフAは工事スピードに自信があるから発注数を増やすようにする」「工事スタッフBは複雑な工事が得意であるためビルや集合住宅を発注する」といった適材適所の人材配置で工事を発注できるようになった。そのため、工事完工数の増加に加え、クレーム数が低下。大きな成果につながった。

 だが、突如訪れたコロナ禍による外出自粛。緊急事態宣言が発令され、やむを得ず社員旅行はストップした。

 緊急事態宣言が解除され、社内で3回目までのワクチン接種が積極的に行われていたこともあり、同社は再開を決断。「再開した今年は工事状況の都合で現場スタッフは参加できなかったのですが、これまで行われてきた社員旅行は弊社の残したい文化の1つとして考え実行いたしました」。旅行自体に反対の意見はなかったという。

 今年は国内・海外の2回に分け、6月に福岡、11月に韓国。募集方法はLINEのアンケートで行きたい場所を自由に募り、投票が多かった国内外上位3つから絞り込んで決めた。参加希望者はちょうど15人、15人になったといい、塩入さんは「普段交流できない役員と若手社員が行動を共にすることで、トップのビジョンを浸透することができました。その他に他部署間の交流もあり、互いの業務への理解を深めることができました。日々の自分たちの結果が会社に貢献をしているということを実感してもらうことや、『来年は〇〇に行きたいです!』とさらにグレードアップした場所に行くためのモチベーションの上昇にもつながっておりました」と手応えを語る。来年度は、再び現場工事スタッフも参加できるよう検討を進めているとのことだ。

 昭和の時代は恒例だった社員旅行自体が、令和の現代は珍しい。デジタル化がどんどん進む今だからこそ、「人ありき」の会社運営を大事にしているという。同社は「AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでも、人にしかできないリアルなサービスがあると弊社では考えています。実際に弊社の主力事業である住宅設備事業は、人間がいないと成り立たないサービスの1つです。人ありきのビジネスにおいて、まずはそこで働く社員を大切にしたい、そして還元してきたいという思いから、今後も社員旅行や季節のイベントを全社で実施していきたいと考えています」としている。

営業活動で得た利益の一部を給与以外の形で従業員に還元…貸し切りクルージングも

 一方で、医療系人材プラットフォームを運営する「MRT株式会社」(東京都)は全国5拠点・従業員約180人を抱えており、結束力を高めて日々の業務の質の向上を目指すためにチーム制度を導入。社内イベントを積極的に行い、忘年会・書き初め・初詣といった伝統行事にも参加している。

 チーム制度の根幹となるのが、チームビルディング費だ。営業活動によって得た利益の一部を給与以外の形で従業員に還元する仕組み。還元はチーム(部署)ごとに行われ、使い方に関しては常識を逸脱しない範囲で自由に使用することができる。

 東京・名古屋・大阪・福岡の各支社でチームを振り分け。すべての部署、営業・事務すべての職種が対象で、年齢は部署によって異なるが、20代前半~40代と幅広いメンバーが集まっている。過去には、レストランを貸し切っての忘年会、ドレスアップで参加する貸し切りクルージングといったゴージャスな息抜きを行ったことも。他に運動会など従業員同士の交流を盛り上げてきた。

 忘年会はコロナ禍前後で大きく様相が変わってきた。コロナ禍前は、ダーツバーやクラブを貸し切って全国の従業員が東京に集まり、忘年会を含めた懇親会を行っていた。その中でランダムにチーム分けをし、ゲームの上位チームには豪華景品を贈呈するといった太っ腹企画が喜ばれていたという。だが、コロナ禍ではリモートに開催方法を変更。Zoomを利用し、少人数で分かれる機能とチャットツール「スラック」を用いてチーム戦で謎解きや脱出ゲームなどを開催。工夫を凝らしている。

 年始の社内行事はどうか。書き初めは、各チームのリーダーがリーダーとしての目標とチームのことを考えて文字を選ぶ。部長や役員も書き初めで目標を示すことで、仕事始めで士気を高める効果がありそうだ。

 初詣は、各チームのリーダー陣・チームごとに年始の出社のタイミングで開催。「無理強いはしていないのでそこは各チームのリーダーに任せています」。コロナ禍ではリモートが中心のため、参加者を絞って参拝するケースが多いという。

 社内行事の団体行動を重視する意義。同社の担当者は「対面でもリモートであってもメンバー同士のコミュニケーションを取り、日々の業務活動の質の向上を目指すために行っています。また、会社のカルチャーとして『ファミリーシップ』『おもしろおかしく』というものがあります。社員は家族(仲間)でありフラットコミュニケーションを重視することで、あいさつや気遣い、思いやり、感謝の気持ちを忘れず、失敗も成功も共有し一緒に成長していこう! 助け合って成果を出そう! という文化のため、こういったイベントを通じて、さまざまなメンバーとさまざまな交流を図ることでカルチャーにのっとったメンバーの育成ができると考えています」と説明する。

 コロナ禍では社内で働く人同士が互いを知ることが大きな課題にもなっている。「コロナ禍で入社した中途メンバーは、自分のチームのメンバーであっても実際に対面で会ったことがないメンバーがいたり、他部署だと名前しか知らなかったり…ということもあります。こういったイベントがあることで自チームのメンバーをより知ることができたり、他部署交流もできたりするので、実業務でもスムーズでスピード感を持って取り組むことができると好評です。また、コロナ禍で入社した新卒の社員からは、先輩たちと気軽に話すことができ、リモートで仕事を行う中でも弊社MRTの文化を体験できるといった声を聞いております」と話す。

“時代遅れ”と思われがちな社内行事には、コロナ禍だからこそ、社内活性化と人材育成にとって大きな可能性が秘められていそうだ。

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