現在フジテレビ系で放送中の木曜劇場「silent」（午後10時）が、大きな話題を集めている。毎週、放送時間には関連ワードがツイッターでトレンド入り。視聴者は登場人物たちの人間ドラマに感動し、盛んに考察が行われている。そんな本作の主人公・青羽紬（川口春奈）と聴力を失った佐倉想（目黒蓮）の2人と重なる“リアルsilent夫婦”に、作品の感想を聞いた。（取材・文＝猪俣創平）

　本作は紬が、かつての恋人で若年発症型両側性感音難聴により聴力を失った想と、8年後に音のない世界で“出会い直す”という切なくも温かいラブストーリー。ドラマの2人と同じく、健常者の妻・ゆうこさんとろう者の夫・ととちゃんによるYouTubeチャンネル「みゆみゆチャンネル」では、「silent」の感想動画を毎週配信している。2人の出会いは、妻のゆうこさんが夫の勤める会社に手話通訳として入ったことがきっかけだった。

　ゆうこさん・ととちゃん夫婦も「『silent』が面白い」と毎週放送を楽しみにしている視聴者だ。ドラマで描かれる人間関係やストーリーに魅了されつつ、生まれつき全ろうの夫は細部への描き方にも感心している。取材では、夫の手話をゆうこさんが通訳した。

「想くん、奈々（夏帆）ちゃん、春尾先生（風間俊介）と、一人一人の手話の表現方法が少しずつ違います。たとえば、想くんは中途失聴で、奈々ちゃんはろう学校に通っていた。それだけでも手話が違うんですね。紬は健常者が勉強したからできる手話であったり、想くんは奈々ちゃんに“教えてもらった手話”であったりと、それぞれの違いが整理されていてすごいなって思います」

　YouTubeで公開している動画では、夫婦で互いにドラマの感想を語り合い、日常の一部を切り取ったような自然な会話を見せている。しかし、ゆうこさんは放送前、ドラマにはさほど期待をしていなかった。「ポスターを見たとき、正直つまらないだろうなって思いました。『障がい者は美しい』みたいに描かれるだろうなって」。

　ゆうこさんは、これまでのドラマで障がい者は「やさしくてかわいそう」という決まった形があったと違和感を抱いていた。しかし「silent」では、春尾先生や奈々のセリフやキャラクター像がこれまでの作品と異なり、印象的だと説明した。

「奈々ちゃんが悪い人じゃないですけど、好きだけど嫌なことを言ってしまうシーンがあったように、障がいを持っている役柄としてすごくリアルです。私たちも夫婦なので、嫌なことを言っちゃうこともありますけど、ドラマの中でそんなリアルな姿が見れたのはびっくりです」

「silent」では、健常者とろう者の違いについて言及するシーンやセリフも登場した。手話を勉強してきた健常者で、手話通訳としても働いていたゆうこさんに思うところもあった。

「健常者とろう者との間に壁があるというのは、手話を勉強する中で感じたことは何回もありました。健常者を嫌いなろう者の方もいるので、いくら手話を学んだって自分が健常者だから、という理由だけで拒絶されたような経験はあります」

　この指摘に、ととちゃんも「当事者にしか分からない部分がドラマ内で表現されている」と同意する。「たとえば、春尾先生が『福祉関係者だからみんなやさしいとか、そういうのは違うよね』という趣旨のセリフがありましたけど、それは障がい者に関わる人たちみんなが思っていたこと」だと感服している。

　さらに、ととちゃんは印象的なシーンの一つとして、紬と奈々のやりとりを挙げた。「紬ちゃんが春尾先生に教わった手話を使って奈々ちゃんとやりとりするんですけど、紬ちゃんなりにがんばって表現している姿が印象に残っています」。

　ゆうこさんも、紬の手話シーンが「細かく表現されている」と驚いたそうだ。「紬ちゃんが『手話を勉強しました。できるようになりました』でシーンを終わりにもできましたけど、『手話はできないから、教わった手話をそのままやるので最後まで見てください。最後に質問を受け付けます』って。初心者だから、たしかに途中で止められたら難しいよねって思いました」。

　2人とも細部にも注目するため「よりリアルだと感じるのかもしれません」と前置きしつつ、夫は「シンプルにドラマとして面白いです。想くん、紬ちゃん、湊斗くん、奈々ちゃんといった人間関係が見ていて面白いですよね」と、夢中になっている。

「silent」も22日の放送で最終回を迎える。今後の展開に夫は「健常者とろう者が分かり合えるかどうか、このドラマがどういう答えを出すのか、曖昧なままにするのか、そのあたりも含めて楽しみにしたいと思います」と期待を込めた。

　YouTubeで公開している感想動画には想像以上の反響があり、ゆうこさんは驚きつつも「これはもう毎週やらないといけないな」として、今後もドラマの放送を受けて随時アップしていく予定で、夫婦で「silent」を最後まで楽しみながら感想を語り合っていく。