「櫻の園」でデビューの宮澤美保が夫と自主映画製作 新肩書は「映画製作会社 代表」

櫻井翔主演の映画「神様のカルテ」などで知られる夫の深川栄洋監督(46)とタッグを組み、原点回帰の自主映画で勝負をかけたのが、女優の宮澤美保(48)だ。最新作「光復(こうふく)」(東京・下北沢のトリウッドで先行公開中)では、過酷な運命に翻弄される主人公を体当たりで演じながら、映画製作会社の代表として獅子奮迅した。

インタビューに応じた宮澤美保【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた宮澤美保【写真:ENCOUNT編集部】

映画監督と結婚した48歳の女優が会社代表になったワケ

 櫻井翔主演の映画「神様のカルテ」などで知られる夫の深川栄洋監督(46)とタッグを組み、原点回帰の自主映画で勝負をかけたのが、女優の宮澤美保(48)だ。最新作「光復(こうふく)」(東京・下北沢のトリウッドで先行公開中)では、過酷な運命に翻弄される主人公を体当たりで演じながら、映画製作会社の代表として獅子奮迅した。(取材・文=平辻哲也)

 名刺を渡すと、名刺が返ってきた。そもそも女優から名刺をもらうのは珍しい。そこには「スタンダードフィルム合同会社 代表/マネジャー」とプリントされている。同社は2019年6月に深川監督が原点回帰の自主映画で映画界に挑戦したいと立ち上げた映画会社である。映画のスタンダードサイズ(1:1.37)が名前の由来。これを「好き」の基準として、映画を作っていくという決意が込められている。

「自主映画を作ろうとなったときに、個人では会計処理の関係でうまくいかない部分もあるからと、会社にしたんです。ちょうど深川が会社を興してはいけないという運気にハマっていたので、私が代表になっただけなんです」と明かす。

 宮澤は1990年、中原俊監督の傑作映画「櫻の園」でメインキャストとしてデビューし、以降、映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍。キャリア30年以上のベテランだ。2014年に深川監督の「神様のカルテ2」に出演したのをきっかけに交際に発展。16年に結婚した。

 深川監督は「神様のカルテ」シリーズ、ワーナー映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」などメジャーシーンで活躍する一方、自主映画で自分が作りたい作品に挑戦したいとの思いを抱えていた。そこで夫婦タッグで立ち上げたのが、タイプの異なる2つの自主制作映画を「sideA」「sideB」と称して連続公開する「return to mYselF プロジェクト」。先に自身の私生活をモデルにした女優と脚本家を描く「42-50 火光(かぎろい)」を「sideA」として公開したが、製作したのはこちらの方が先だった。

「光復」は15年前に認知症の母の介護のために、故郷・長野に戻ってきた42歳のヒロイン大島圭子の身に降りかかる過酷な運命を描く。出口の見えない母の介護、その隙間にかすかに見えた希望、母の死のナゾ、元恋人による母の死への関与、理不尽な暴力による失明……。そんなヒロインに光は再びさすのか。特にラストシーンは衝撃的。メジャー映画では、通らない企画と言っていい。

「本当に1作目は手探りでした。共演者のほとんどは長野でのオーディションでした。季節をまたぐ話だったので、3期に分けて、それぞれ10日から2週間かけて撮影しました。スタッフは5人で、私達夫婦とカメラマンとその助手さんと録音部という構成。あとは日替わりでお手伝いしてもらったり、2期からは助監督さんにも入ってもらいましたが、こんなことは初めてでした。5、6年前にそういう自主作品に参加したことがあったので、やれないことはないとは思いましたけども、大変でしたね」と振り返る。

 深川監督の「自主映画を撮りたい」という思いは結婚当初から聞かされていたのだという。

「深川は『撮りたいものはなんですか?』と聞かれると、『何が撮りたいんだろう』と思って、なにか焦燥感のようなものがあったらしいんですね。自分には撮りたいものがなくなってしまったんじゃないか、と。実際、忙しくしていましたし、そんな時間もなかったというのもあります。でも、そんなことをポロッといったときに、私が『作ってみようよ』と言ったんです。それで、できたのが『光復』の脚本でした」

 過酷な運命に翻弄されるヒロイン役は難役だ。自身初の本格的な濡れ場。暴力が原因で失明し、無実の罪で投獄され、たまたま出会った般若心経に救いを見いだす。ラストの方では剃髪するシーンまである。

「(濡れ場は)避けてきたわけでもないんですが、家族は嫌な思いをするんじゃないかなと思ったりしました。でも、もう父も亡くなりましたし、結婚もしましたし、彼の作品なら、やってもいいと思いました。剃髪もやってみたいという願望もありました。美容院でやってもらったんですが、美容師さんも初めてで、『本当にやってもいいんですか』と言われました。せっかくなので、1度ショートにもしてもらってから、バリカンをいれてもらいました。頭の形が気になったり、結構チクチクするものなんだと気づいたりしました」。

 ほかにも、初の目が見えない役、般若心経の暗記など課題はいっぱいあったものの、それ以上にスタッフとして動かなきゃいけないことがいっぱいあった。

「だから、台本の中にどっぷり浸かるっていう感じではなかったんです。普通の作品だったら、役にはまって、どんよりということもあるんですが、そんな暇も一切なかった。セリフもちゃんと覚えた記憶がないんです。コロナ禍での撮影ということもあって、急に撮影ができなくなったり、オーディションの相手をしたり、撮影中は出演者への連絡もやっていました」

 会社設立からクラウドファンディングでの資金調達まで、何から何まで自分たちで行った初めての映画製作。公開を迎えられた今の心境はいかに?

「大変だったし、やりがいもありました。やっぱり、すごく愛情もありますし、やってよかったなという思いしかないですかね。普段だったら、『こうすればよかった』という後悔もあるんですけど、最後に出来上がった時はうれしいというのが一番でした」。今後も製作には関わっていくつもりだ。「自主映画製作活動は深川のライフワークです。他の仕事をやりながらも、時間が空く時は絶対できてくるので、そういう時に映画を作っていこうと思っています」と、夫婦でのチャレンジは続く。

□宮澤美保(みやざわ・みほ)1973年12月25日、長野県長野市出身。16歳、篠ノ井高校在学中に、映画「櫻の園」のオーディションに合格し、上京。以降、数多くのテレビドラマ、映画、CM、舞台などに出演。特技は書道。書道師範、大型自動二輪車免許、保育士の資格を持つ。

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