「日本人の99%がONEでは戦えない」 ONEの総帥が指摘する問題点「それでは成功できない」

「ONE」とはどんな団体なのか、日本格闘技界をどう見ているのか、シンガポール本社で出張から帰ってきたばかりのチャトリ・シットヨートンCEOに話を聞いた。

シンガポール本社で取材に応じたチャトリ・シットヨートンCEO【写真:ENCOUNT編集部】
シンガポール本社で取材に応じたチャトリ・シットヨートンCEO【写真:ENCOUNT編集部】

設立から11年、規模の大きさを実感

 青木真也、秋元皓貴、平田樹などが戦いの舞台としているアジア最大の格闘技団体「ONEチャンピオンシップ」。2011年9月に誕生し、総合格闘技(MMA)、キックボクシングにムエタイ、グラップリングマッチまでさまざまな格闘技を観客に届けており、23年からは日本のプラットフォーム「ABEMA」で年間約60試合が生中継される。

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「ONE」とはどんな団体なのか、日本格闘技界をどう見ているのか、シンガポール本社で出張から帰ってきたばかりのチャトリ・シットヨートンCEOに話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

――ONEの市場規模はどれほどのものになっているのでしょうか。

「最初にスタートした3年は放送パートナーだったり、投資家やスポンサー、従業員、アスリートでさえも『そんなアイデアは……』というネガティブな反応でした。アジアからグローバル規模のスポーツ団体を作るなんて、そんなアイデアはバカなんじゃない? とみんな受け入れてくれなかった。

 11年たちますけれど、今ではグローバル規模の放送パートナーがついています。当初と比べると180度、状況は変わっていてアスリートもONEに来たいという状況になっています。今、自分はアジア、ヨーロッパ、アメリカでの海外出張から帰ってきたばかりなんですけれど、政府、テレビ局にも認知されていて、世界中に(ONEに)来たいと言っている選手、ファンがいると知って驚きました」

――なぜここまでに成長できたのでしょうか。また選手からしても魅力のある団体になったと思いますか。

「私はムエタイを38年間、柔術を12年間やっています。ずっと子どものときから格闘技が大好きでした。その気持ちでONEを作ったんです。利益追求とかそういったものはONEのミッションじゃない。ONEのミッションはやっぱり“ヒーロー”を作りたいということ。なぜかと言うとヒーローはしっかり作ったら、世界にインスピレーションを与えられる。ヒーローのストーリー(生き様)をONEで追っていったら、ファンの方々もその人生に共感してくれると思ったんです。それは設立の日から今まで変わっていないONEのミッションです。

 そして私は生涯格闘家です。ムエタイを38年間、柔術を12年間、いまだに毎日練習しています。ビジネスは25年間しかしていません。分かりますか? 格闘家生活の方が長いんです。これはすごく大切で、ONEは本物の武道、本物の格闘技の会社なんです。ビジネスに振り切った会社ではない。私も試合をしたことがある。選手の気持ちもすごく分かっている。そういった中でベストオブザベストの環境だから世界のトップ選手がONEにそろったんです」

――日本の格闘技シーンでは試合間隔について問題にあがることがあります。ONEはいかがでしょうか。

「メディカルの体制というのは世界一だと胸を張って言えます。なぜかというとみなさんご存知の通り、選手はただ計量をするだけじゃなくて尿比重のテストもやります。水抜きは体にすごく悪いので、それを防止するためです。その他にも選手が試合前のファイトウィークに入ると脳スキャンや神経学的検査(脳や脊髄、神経の機能を調べる検査)などをします。他の団体だと過去のデータを出せばそれが有効になるところもある。でもONEは絶対にそれをしません。ドクターがそれぞれの選手の状況を確認し、各選手にとって適切な検査を行っています。

 ONEはファイトウィークにそれをやってもらって、それをクリアした選手だけが試合に出られます。選手の健康を守るための体制は世界一です。選手のセカンドキャリアも考えているので、けがをしていても試合を組むようなことは絶対にしません」

――近年、YouTuberがリングに上がるなど、世界的にエキシビションマッチが現在流行しています。そのなかでもONEが競技性を求めるのはなぜでしょうか。

「ONEはやっぱり本物の“スポーツ”。本物の武道の意味を大切にしている。エキシビションマッチは本物の試合じゃない。引退した選手とかが出ている。本物の選手じゃない。それ(エキシビション)はビジネス。ONEは世界中でベストオブザベストのスポーツと考えている。それがすごく大切。

 私の考えでは他の会社がエキシビションマッチをやっても格闘技として意味がない。格闘技と武道の気持ちが全然ない。本当にお金だけ。ONEは武道と格闘技の文化を重んじています。第一に本物の戦い、本物の武道がある。ビジネスは2番目にあります」

――日本では格闘技が良くも悪くもエンターテインメント化している流れもあります。

「ONEもエンターテインメント。会場の作り方、レーザーやLED演出などそういう部分はエンターテインメントです。でも、サークル(金網)の中は100%のスポーツです。世界で1番良い選手が本物の試合をします。なぜ今日本でエキシビションマッチがはやっているのか。私の考えでは、世界クラスのベストな選手がいないからです。キックとかMMAでベストオブザベストがいない。これはすごく問題。タレントを持っていない。だから日本人同士で戦うだけ。世界と戦えない。私から見たら今のままでは99%の選手がONEで戦うことはできない。レベルが追いついていない……。もう一つの問題は日本のプロモーターはビジネスだけでやっている。そこの考えがONEとは大きく違います」

“大谷翔平”級の格闘家が生まれれば日本の格闘技業界は活性化すると語ったチャトリ・シットヨートンCEO【写真:ENCOUNT編集部】
“大谷翔平”級の格闘家が生まれれば日本の格闘技業界は活性化すると語ったチャトリ・シットヨートンCEO【写真:ENCOUNT編集部】

現在の日本の格闘技界に悲しみ「仕事で8時間働いてその後に練習」

――チャトリCEOは日本の格闘技をどれくらい見ているのでしょうか。

「RISEとか修斗とかDEEPとかパンクラスとかにたくさん選手はいる。でも99%は世界レベルではないんです。これはあくまでも、私の個人的な考えです。レベルは高いけれど、世界レベルまで達していない。25年前、日本は絶対ベストオブザベストだった。PRIDEのとき。そのときの日本人は絶対世界中でトップでした。

 でも格闘技産業にお金がなくなってきてしまった。(悪いイメージがついてしまい)だんだんとスポンサーが少なくなった。そしてファイトマネーも減っていった。選手は他の仕事で8時間働いて、その後に練習して試合をする。それでは絶対に成功できない。だから日本の格闘技の将来は大変です」

――では、日本から世界クラスのファイターが生まれるようにするにはどうしたらいいでしょうか。

「グローバルな団体が日本にちゃんと入って投資することが重要です。例えばONEで言えば最高額のファイトマネーを選手に支払っています。そうすると格闘技“だけ”に集中できて競技レベルが上がってヒーローが生まれる。そのシステムがなきゃダメです。例えば今の修斗、パンクラスなどの他の団体を見るとファイトマネーがそれだけだと、やっぱり食べていけない状況だと思います。

 もう1つは日本には長い格闘技の歴史があります。柔道や剣道などの練習を今でも小中学生がやっている環境がありますよね。そういう状況があるからこそ日本で大谷翔平やイチローのような世界レベルの選手が出てくることで格闘技業界が活性化すると思います。

 加えて本当の会社が入らないと成功できない。汚い、悪いものが出ていかないとちゃんと作れないよね。NBAとかUEFAチャンピオンズリーグとかは汚いものが入ってこられない状況にしています。

 私にとっては、日本は大きいチャンスを持っていると思う。世界レベルの会社が入らないとダメ。今のままでは世界レベルにはなれない団体が多いかなと感じます」

――日本での会見で世界レベルが2、3人いると言っていました。それは誰なのでしょうか。

「あんまり言いたくないんだけれどな(笑)。堀口恭司は世界レベルね。私は日本のプロモーションもずっと見ているけれど、現在世界レベルの選手は残念ながら少ないです」

――日本人の母親を持つチャトリCEOが今も生きている母からの教えは何でしょうか。

「いっぱいあります。1番大切なもの。私のお母さんは子どものときからずっと『チャトリの心は子どもの心、それを大事にしてね』と言います。“子ども”はどういう意味かというと、良いものを信じている。夢、優しさ、正直な心を持つということ。私が大学生のときも仕事に行くときも『チャトリの心を守ってください』って言っていました。周りにみんなのお母さんがいても言っていました(苦笑い)。

『悪いもの、嘘つき、意地悪な人がたくさんいるけれど、チャトリの心を守ってください』。そして子どもの心を持っていたら、自分の心に聞いた時に、世界にとって良いことができるって。これまでの17年間振り返っても、その心を忘れていたら失敗していたことがあったと思います。良いことばかりじゃないけれど、正直さ優しさを忘れなかったからこそ、今ここにいるんだと思います」

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