【週末は女子プロレス♯77】姉に憧れ上京、リングアナ→レスラー転身 愛野ユキが姉の引退で新境地「今も支えられてる」

東京女子プロレスの愛野ユキは、自他ともに認めるシスコンだった。デビュー時から実姉の天満のどかとタッグを組み、プリンセスタッグ王座のベルトも姉妹で巻いた。姉は今年3月で引退し、ラストマッチも姉妹でのタッグだった。天満の引退後はシングルプレーヤーとして再出発。シングル王座初戴冠も期待されるところだが、11・27後楽園ホールでは、原宿ぽむとのコンビで“令和のAA砲”赤井沙希&荒井優希組のタッグ王座に挑戦する(当初はらくとのタッグが発表されていたが、らくがコロナ陽性で欠場。カード変更が23日に発表された)。愛野が姉との爆れつシスターズ以外でタッグ王座に挑むのはこれが初めて。それだけに、次のタイトルマッチは新たなるステージへの出発点にもなりそうだ。

姉の影響でプロレスラーになった愛野ユキ【写真:新井宏】
姉の影響でプロレスラーになった愛野ユキ【写真:新井宏】

「お姉ちゃんは私にとってヒーローなんです」

 東京女子プロレスの愛野ユキは、自他ともに認めるシスコンだった。デビュー時から実姉の天満のどかとタッグを組み、プリンセスタッグ王座のベルトも姉妹で巻いた。姉は今年3月で引退し、ラストマッチも姉妹でのタッグだった。天満の引退後はシングルプレーヤーとして再出発。シングル王座初戴冠も期待されるところだが、11・27後楽園ホールでは、原宿ぽむとのコンビで“令和のAA砲”赤井沙希&荒井優希組のタッグ王座に挑戦する(当初はらくとのタッグが発表されていたが、らくがコロナ陽性で欠場。カード変更が23日に発表された)。愛野が姉との爆れつシスターズ以外でタッグ王座に挑むのはこれが初めて。それだけに、次のタイトルマッチは新たなるステージへの出発点にもなりそうだ。

 プロレスラーになろうと思ったのも、姉の影響が大きかった。実家にあった漫画『1・2の三四郎』でプロレスを知り、DDTの動画でハマった。国立大学に合格し岡山から上京。ちょうど同じころ、プロレス好きの姉も実家を出た。が、目的はまったく異なる。愛野が学業なら、姉は演劇関係の仕事をするためだった。当時の愛野は、「人前に出る仕事をする発想なんてまったくなかった」というのだが……。

 夢に向かって頑張る姉の姿に妹は尊敬の念を抱いた。「お姉ちゃんは私にとってヒーローなんです。たとえばミュージカルだったり、私にできないことをずっとやってきてたんですよ。お姉ちゃんのやることすべてがカッコよかったです」。

 ある日、愛野は姉がプロレスラーを目指していることを知る。将来についての夢が持てなかった彼女はそのとき、「そういう選択肢もあるんだ」と気づかされた。しかも、姉が練習しているのは愛野がハマったDDTによるプロレス教室とのこと。「だったら私も挑戦したいと思って、(DDTグループの)東京女子の門を叩きました」。

 先に練習を開始していた姉は、2016年1月4日の後楽園大会でデビュー。のどかおねえさんのリングネームでリングに立った。東京女子が初めて聖地・後楽園に進出した日であり、この日、愛野も4人の練習生のひとりとして紹介された。しかし「いろいろあって」退団、レスラーへの夢をあきらめた。「やっぱり無理だったんだ。なれるわけない……」。

 しかし、時間の経過につれて後悔とプロレスへの思いがどんどん大きくなっていく。なんらかの形で関わっていたいとの気持ちからもう一度、東京女子の会場に足を運んだ。「あきらめきれなくて、物販のお手伝いでもいいので何かしらやらせてくださいと代表の甲田(哲也)さんにお願いしたんです」。

 ちょうどその頃、前任のリングアナウンサーが卒業。「だったらリングアナをやってみないか?」との誘いを受け、愛野は選手をコールする立場でリングに立つことになったのである。

 リングアナになってからも、プロレスで闘う姉を「カッコいい」と尊敬した。同時に、練習生時代の同期が活躍する姿も間近で見た。するとどうしても、「悔しいし自分が情けない」という感情が出てきてしまう。悩みに悩んだ末、「おこがましいんですけど、もう一度頑張ってみたいんです」と、レスラーデビューに再度挑戦したいと申し出た。

 その熱意が認められ、練習を再開。そして、念願のレスラーデビューが決まり、1年3カ月続けてきたリングアナも卒業した。「みんなをコールできなくなるのは寂しくもあったけど、ようやくレスラーになれるんだ」と気持ちを切り替え、18年5・3後楽園、デビュー戦のリングに上がった。初めての試合で、愛野はとなりに立つ姉の頼もしさをあらためて実感したという。それはすなわち、プロレスの厳しさとすごさでもあった。

 また、対戦相手の優宇のパワーに圧倒され、ヒカリ(現・乃蒼ヒカリ)には複雑な心境を抱いた。というのも、愛野はヒカリ所属のアイドルグループ「アップアップガールズ(プロレス)」のメンバーとともに練習を重ねてきた。しかし、愛野が先の入門にも関わらず、デビューはアプガの4人の方が早かったのだ。「デビュー戦で私は何もできなかった。4カ月の差は大きいなと痛感しましたね」

 それでも愛野は経験を重ね、姉妹コンビでタッグ戦線に参入。4度目の挑戦となった20年11・7TDCホールで悲願のプリンセスタッグ王座初戴冠を成し遂げた。

「なかなか獲れなくて、試合後の物販のとき、どうしても泣いちゃうんですね。応援してくれる人たちにも悲しい顔をさせてきちゃったんですよ。それがようやく笑ってもらえると思ってうれしかったです。でも結局は、うれし泣きしてたんですけど(笑)」

 タッグ王座は2度防衛。東京女子に爆れつシスターズありを見せつけた。しかし、姉の天満が今年3月に引退。初進出なった3・19両国国技館では、最初で最後の姉妹対決をおこなった。

「私、最初から、お姉ちゃんとは闘いたくない、お姉ちゃんを殴れない、そんなことしたら親が悲しんじゃうとか言って、対戦してこなかったんです。でも、最後の最後で闘って、これがお姉ちゃんのエルボーか、タックルかと出してくる技すべてにしびれましたね。試合前は向かっていけるか不安が消えなかったんですけど、いざ闘ってみると私もプロレスラーなんだ、絶対に負けたくないと思えました」

らく(左)と「おやすみエクスプレス」をきめる愛野ユキ【写真:(C)東京女子プロレス】
らく(左)と「おやすみエクスプレス」をきめる愛野ユキ【写真:(C)東京女子プロレス】

原宿ぽむをパートナーにタッグ王座挑戦

 姉に勝利した妹。その1週間後が最後の爆れつシスターズで、天満のどか引退試合。天満は農業に従事するため、故郷・岡山に戻った。妹は姉に勝てたことが引き金となり、中島翔子のプリンセス・オブ・プリンセス王座への挑戦を表明。タイトル奪取はならなかったものの、新たな一歩を踏み出した。そして今度は、アプガのらくを新パートナーにしてのタッグ王座挑戦だ。

「お姉ちゃんが引退してからタッグはしばらくいいやと考えていたんですよ。ずっとお姉ちゃんと組んでたし、お姉ちゃん以外に想像できなかったから。ただ今回、らくが背中を押してくれました。らくと原宿ぽむの3人で仲良くて、特にらくって私の“推し”なんですね。というのも、彼女がアイドルしてる姿、プロレスする姿からものすごくパワーをもらえるんです。東京女子の歴史に私とらくの名前を刻むことができたら最高だと思うんですよ」

 ところが、らくが新型コロナ陽性により後楽園大会を欠場。急きょ、仲良しトリオのもうひとり、原宿ぽむが愛野のパートナーとして出陣することになった。ぽむにとってはデビュー4周年で、これがタイトル初挑戦の大抜てき。愛野&らく組での挑戦はひとまず消えるも、愛野&ぽむ組でのチャレンジはまた違った意味で注目の対決だ。

 王者は3度目の防衛戦となる“浪速のロッキー2世”赤井沙希&“SKE48”荒井優希組。ともに芸能活動とプロレスを両立させている話題性豊富なチーム。愛野はこの2人についてどんな印象を抱いているのだろうか。

「赤井さんってホントに美しくて、見た目はもちろん、中身からあふれるものが多くて、それが強さにつながるんだなって思います。華やかで強くて、ずっと闘ってみたいと思ってました。特にタッグベルトを獲ってからは絶対やりたいとの意識が大きくなりましたね。荒井優希ちゃんはホントにすごい人です。センスもあるし、本人の努力でグングン成長してるじゃないですか。ベルトを巻いて赤井さんといることでさらに成長を感じるし、ベルトが成長させてくれることは私も知っています。シングルで一度闘ってはいるんですけど(21年7・23新木場「東京プリンセスカップ1回戦」)、最近やっていないし、その間に成長しているので、そこがちょっと怖いところではありますよね」

 タッグ王座戦が決まった11・13京都は、ともに京都出身である王者組の凱旋興行でもあった。ベルトを持って故郷に錦を飾った赤井と荒井。ならばと愛野も「絶対に負けられない」とライバル心を燃やしている。その理由とは……。

「来年、1月8日に岡山で大会があるんですよ。らくとベルトを獲って、凱旋興行にしたいです。優希ちゃんがチャンピオンとして京都に凱旋したのなら、私も。大会にはお姉ちゃんも来ると思うので、農業やってるお姉ちゃんに『獲ったで!』ってベルトを見せたいです。お姉ちゃん、たまに米や野菜を送ってくれるんですよ。私、お姉ちゃんの作ったお米や野菜を食べて生きてます。やっぱり、今も支えられてますね(笑)」

 爆れつシスターズは解散したが、家族であることには変わりはない。姉妹で別々の道を歩み始めたとはいえ、愛野にとって東京女子もまた、家族であるという。

「私って団体行動が苦手で、けっこうひとりでいたいタイプでした。女子ばかり集まってるとどうしても面倒くさいことありそうなイメージじゃないですか。最初は私もそう思ってたんですけど、まったくそんなことなくて切磋琢磨できる。そんな東京女子って家族だなと思うし、ここがお家で、見てくれる人は親戚みたいな感じです。家族って、家族みんなの健康を願いますよね。みんなが笑顔で健康でいてほしい。東京女子のみんなも。なので、東京女子って私にとってのお家ですね(笑)」

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