【週末は女子プロレス♯73】中学卒業で飛び込んだプロレス界 「ずっと泣いていた」少女が3年で団体のトップに立つまで

空手を教える父に憧れ、母の夢をかなえたいとプロレスラーになったJUST TAP OUTの稲葉ともか。2019年7・18後楽園での旗揚げ戦でデビューすると空手をベースにしたスタイルで頭角を現し、現在はスターダムのリングにも上がっている。ワールド・オブ・スターダム王者・朱里とのタッグチームでさらなるチャンスをつかんでいるのだ。

稲葉ともかがプロレスラーになるまでの歩みを語る【写真:新井宏】
稲葉ともかがプロレスラーになるまでの歩みを語る【写真:新井宏】

母の思いを受け継ぎプロレスラーになったJUST TAP OUTの稲葉ともか

 空手を教える父に憧れ、母の夢をかなえたいとプロレスラーになったJUST TAP OUTの稲葉ともか。2019年7・18後楽園での旗揚げ戦でデビューすると空手をベースにしたスタイルで頭角を現し、現在はスターダムのリングにも上がっている。ワールド・オブ・スターダム王者・朱里とのタッグチームでさらなるチャンスをつかんでいるのだ。

 まずは空手との出会い。3歳の頃、母親に連れられ父が運営する道場に連れていかれた。そこで初めて父が空手をする姿を目にし、「カッコいい!」と自分も習うようになる。すると幼少時からさまざまな大会に出場し、次々と結果を残していった。勉強よりも空手中心の生活だった。

 しかし、結果が伴わずスランプ気味になる時期もあった。そんな頃、プロレス観戦で誠心会館館長・青柳政司(今年7月6日に逝去)と出会う。父とは空手つながりで旧知の仲。館長の方から「ウチで練習してみない?」と声をかけられた。父の道場と誠心会館の2か所で稽古をするようになると、再び結果が出始める。全国大会にも出場できた。

 プロレスとの出会いは8歳の頃にさかのぼる。家族旅行で沖縄に出かけた際、偶然、沖縄プロレスの大会に出くわしたのだ。プロレスファンの母は「プロレスを見たい!」と主張し、旅行プランが変更になった。そこで見た沖縄プロレスに家族ごとハマってしまったという。彼女にとって、それが初めてのプロレス体験だった。

 実は、母親は本気でプロレスラーを目指していた。が、入門テスト目前で交通事故に遭い負傷、夢を断念せざるをえなくなってしまったというのだ。

「その話をちゃんと聞いたのは中学1年生くらいですかね。それを聞いたとき、お母さんの夢を私が継ぎたいと思ったんです。私もプロレスラーを目指したいなって」

 決心したのは高校受験直前だった。なんと入試の3日前に辞退を決め、中学卒業と同時に上京する。稲葉が入門したのはKAIENTAI DOJO。母と観戦したNOAHで鈴木みのるのファイトに一目ぼれし、鈴木軍のツイッターをフォローするようになると、TAKAみちのくの存在も知る。母子ぐるみでTAKAとつながり、実家の寺でのプロレス大会まで実現させてしまった。母の夢でもあったというこの興行で稲葉は空手の演武を披露、大会にはTAKAや鈴木も参戦した。

 このとき、稲葉はTAKAから「プロレスやってみない?」と声をかけられていた。その言葉から、彼女はTAKA主宰のK-DOJOに練習生として入門したのだ。が、上京後は戸惑うことばかり……。

「高校には行きたかったんです。だけど、なりたいのはプロレスラーだから、この3年間を夢の実現に費やした方がいいと思って。お母さんはすぐに応援してくれました。お父さんは高校は出た方がいいと言ってたんですけど、家族会議の末に頑張れと応援してくれて。ただ、ひとりで行動するのって初めてだったので、電車の乗り方も知らないし、大人の世界もわからない。しかも練習が厳しくて、ついていくのに必死でした。同期がどんどん進んでいくなか、私はずっと基礎体力の練習。それが悔しくてずっと泣いてましたね。練習後、先輩の練習があって、それが終わると先輩にお願いして練習を見てもらっていました」

 焦る彼女に追い打ちをかけるように、練習中に足首を負傷してしまう。治療のため、一時実家に戻った。そんな頃、TAKAがK-DOJOを退団。しばらくしてTAKAから連絡が入った。

「代表が新団体を立ち上げるとなって、ともかはどうする?みたいな感じで連絡がきたんです。K-DOJOに残るのもいいし、JTOにきてもいいよみたいな。自分はもちろん復帰するつもりでいたんですけど、正直戻りづらかったんですよね。悩んだ末、入ったきっかけは代表だったので、代表についていこうと思ってJTOを選びました」

 K-DOJOを退団した稲葉。しかし、自宅近くで交通事故に巻き込まれ出遅れてしまう。事故から約1か月後、19年3・31新木場でのTAKAタイチ興行には売店係で会場にやってきた。そこで同期の舞華がエキシビションマッチをおこない、旗揚げに先駆け5月のデビューも決定した。試合中や帰りの車内でも号泣したという稲葉。それでも、JTO旗揚げ戦にはなんとか間に合った。デビュー戦では母も最前列で観戦し、大会後には母子でうれし涙を流した。

「お母さんの夢もかなえられたと思ったらすごくうれしくて」

 とはいえ、団体女子部の推しは舞華だった。ここでもまた、稲葉は悔し涙を流していた。

「そのときは、まわりがみんな舞華ちゃん推し。舞華、舞華、舞華だったんですよ。あのときケガをしていなければ、同時にデビューしてたかもしれないし、もしかしたら超えていたかもしれない。そう考えると悔しくて、交通事故を憎みました」

デビューから3年、他団体にも存在感アピール

 そして、現在はデビューから3年が経過。男子混合団体で、鈴木との一騎打ちまで実現させてしまった。また、現スターダムの舞華&MIRAI(K-DOJO練習生時代の同期)との再会マッチもおこなった。まだ20歳にもかかわらず、実に濃い時間を過ごしていると言えるだろう。

「そうですよね。後輩も入ってきてJTOガールズがちょっとずつ大きくなっている気がします。いま、自分がトップですよ。代表からは『オマエを見てみんなが育つんだからオマエがしっかりしないといけない』って結構言われます。最年少でトップ? 自分のことでいっぱいなのに、大丈夫かなって考えちゃうときもありますね(苦笑)」

 それでも、JTO女子トップの証であるクイーン・オブJTO王座を保持し、スターダムの若手を中心にした新ブランド「NEW BLOOD」にAoiとともに参戦、他団体でも稲葉ともかの存在をしっかりとアピールしている。フューチャー・オブ・スターダム王座挑戦ではベルト獲得ならずも、時間切れ引き分けで同世代のトップクラスであることを示し、朱里率いるゴッズアイ入りを志願。10・23立川で開幕した「ゴッデス・オブ・スターダムタッグリーグ戦」に朱里とともにエントリーされ、台風の目となることが期待されている。初戦で朱里とともに披露した空手の型。この決まり具合のカッコよさからしてもKARATE BRAVE(朱里&稲葉組のタッグチーム名)には期待せずにはいられない。

「いままであまり口にはしてこなかったんですけど、実は朱里さんにメチャクチャ憧れていたんですよ。格闘技も強いしプロレスも強い。それこそ自分が求めているものを持っているんですよね。代表には、いつか朱里さんと試合をしたいとずっと言っていたんです。それがNEW BLOODきっかけでちょっと近づけたというか、チャンスだと思ってゴッズアイ入りをお願いしました。なので、タッグリーグ戦、メチャクチャ心強いですよね。いろいろ学べるなって思います。でも、憧れの存在だからこそ足を引っ張らないようにしないと。朱里さんの横にいるからこそ、恥をかけないなって。スターダムのタッグリーグ戦は、自分がすごく成長できる場所になると思います」

 また、JTO11・4後楽園ホールではウナギ・サヤカとのシングルマッチが組まれている。スターダムから他団体への侵攻も始めたウナギに対し、稲葉はどんな感情を抱いているのだろうか。

「正直、眼中になかったです。闘いたい、闘いたくないとかの感情が沸き立つ前に、まずは興味がないというか。ただ、売られたケンカは買いますよって感じ。ともかが出るまでもないと言って出ていったAoiが(10・7王子で)負けてしまったのもありますから。眼中にはないけど、いろんな意味でウナギ選手がすごいのは承知ですし、もしかしたら二度とシングル組まれないかもしれない。そう思ったらメチャクチャ楽しみではあります。でも、稲葉ともか、JTOをちょっとなめてる感じもするので、JTOのリングで稲葉ともかを見せつけようかな。なめんなよって感じですね(笑)」

 仕留めるには、得意の“一撃必殺ともか蹴り”となるのだろう。あえて技名を叫んで蹴りをぶち込む“一撃必殺ともか蹴り”。そこには、必殺技とするからには絶対にこれで取るとの思いと責任がある。「あれを出したらちゃんと勝てる。そのためにはそこまでに相手を追い込まないといけないですから」。個性を際立たせるフィニッシュ技の重要性や、そこに至る試合運びの大切さ。これは、TAKAからの教えでもあるのだろう。

「代表の教え、こだわりを無駄にしない選手になりたいです。女版TAKAみちのくになりたいですね。代表からは『オレなんかより、もっと上を目指せ』と言われるんですけど、まずは女版TAKAみちのくを目指して、その先に女子プロレス界トップの選手になれるように。まだまだちっぽけな稲葉ともかですけど、とにかく大きくなりたいです!」

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