「HY」が地元を離れない理由「沖縄以外では曲が作れない」 結成22年で深まる“沖縄愛”

沖縄を拠点に活躍するバンド「HY」が通算15枚目となるアルバム「Kafuu」をリリースした。結成22年目を迎え、彼らの住む沖縄という土地やそこで暮らす人々の思いがこれまで以上に色濃く描かれている。そんな新作から見えてくる彼らの愛する沖縄についてメンバーの新里英之と仲宗根泉に話を聞いた。

インタビューに応じたHY新里英之(左)と仲宗根泉【写真:舛元清香】
インタビューに応じたHY新里英之(左)と仲宗根泉【写真:舛元清香】

地元沖縄を誇りに思ってもらえるよう次世代に伝えていきたい

 沖縄を拠点に活躍するバンド「HY」が通算15枚目となるアルバム「Kafuu」をリリースした。結成22年目を迎え、彼らの住む沖縄という土地やそこで暮らす人々の思いがこれまで以上に色濃く描かれている。そんな新作から見えてくる彼らの愛する沖縄についてメンバーの新里英之と仲宗根泉に話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)

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――今回はコロナ禍でのアルバム制作だったそうですね。

新里「ツアーも延期になってしまったんですけど再開したときにすぐ動けるようにと曲作りだけはしておこうって話をして、おのおの曲作りをしていたんです。今まではスタジオに入ってピリピリしながらだいたい2週間ぐらいレコーディングしていたんですけど、今回は時間が空いて1か月に1曲とか。なんかものすごく余裕を持って普段の生活の流れの中で曲作りができて」

――今までにない時間の流れだったと?

新里「そうなんです。そしたらいつの間にか曲が集まって『あれ? もうアルバムで出せるね』って。さっそく集まった曲を聴いてみると、偶然なんですけど今まで以上に沖縄愛だったり沖縄への思いが強い音楽が多いなって思ったんです。それでアルバムタイトルを決めるときに、いーず(=仲宗根)が『沖縄の方言で、“カフー”ってあるよ』って教えてくれて。果報とか良い知らせという意味があって響きも良いのでHYの中では初めて方言のタイトルを付けたんです」

――沖縄愛の強さにはきっとどこかに共通した理由があるんでしょうね?

新里「HYを結成してから22年の中で一番沖縄にいる時間が長かったんですよ。いつも1年の半分は県外で活動していましたから。だからこの1年間はそれぞれ地元の人たちと触れ合ったり、普段できないようなことをやっていくうちに自分たちが忘れていた沖縄の人の優しさだったり、沖縄という場所のいいところを再発見して、きっとそれを曲に書きたくなったんですよ」

――これだけ全国での活動が多くなると拠点を東京に移す人も多い中、HYのみなさんはずっと沖縄という故郷から離れることはありませんでした。

新里「沖縄自体が自分を育ててくれた親だと思っているからすごく落ち着くんですよ。本当になくてはならない存在でね。僕は東屋慶名(ヒガシヤケナ)で生まれておじい、おばあ、父、母の3世代で、おじいは海人(うみんちゅ=漁師)だったんです。沖縄の自然を相手に仕事をしている家族の背中を小さいときから見てきたので、そこで生まれてくる感情を歌にしていきたいっていう気持ちがずっとあるんです」

仲宗根「私にとってもそれぐらい沖縄っていう場所が大きな母体なんです」

――大きな母体?

仲宗根「そう。なんかすべてを包み込んで受け入れてくれるようなお母さんみたいな存在なんです。私も素直になれる場所ですし、ここにいるといろんなことを乗り越えられるんです。エイサーの太鼓をたたく音、あれを聴くだけで沖縄の人は“ちむどんどん”します。『エイサーまつり』ってお盆の日に大勢で太鼓をたたきながら街を練り歩くんですよ。もう胸が熱くなって、『この島に生まれてきてよかった』って涙を流すぐらいめちゃくちゃ感動します。コロナ禍でお祭りができなかったときは代わりに車のスピーカーからエイサーの太鼓の音を出しながら走ってましたから。それだけ沖縄の人にとってはエイサーが聴こえないのはもうお盆じゃないって。そんなところにも島ならではの受け継がれてきた独特の風習やそこで暮らす人たちの助け合い精神“ゆいまーる精神”が詰まっていると思うんです。だから私は沖縄以外では曲を作れないんです」

――それはどうしてですか?

仲宗根「昔、若い頃にHYも都会のカラーを取り入れて曲を作ってみようと思って、ネオンがギラギラする都会の夜景を見て書こうと思ったら全然できなくて(笑)。沖縄にいるときはどんどんと曲が降りてくるのに不思議と沖縄から出て書こうとするとぜんぜん書けなくなるんです。どうやら私だけじゃなくてメンバー全員そんな思いがあったと分かって『じゃあやっぱり沖縄だね』ということでレコーディングスタジオもすべて拠点を沖縄に戻して今の生活が始まったんです」

大切な地元・沖縄を語ってくれた新里英之【写真:舛元清香】
大切な地元・沖縄を語ってくれた新里英之【写真:舛元清香】

沖縄のきれいな海や風景はいつまでも残していきたい

――新里さんはツアーを終えて沖縄に戻ってくるといつもどんな方法でリセットします?

新里「僕は1人バーベキューですね。ツアーを終えて沖縄に帰ってきて、大好きなお酒をちびちびやりながらバーベキューを楽しむんです。たき火の火とプチプチという音を楽しみながら1人の時間を過ごすとツアーを終えたって実感できてすごく良いリセットになるんです」

――HYは「世界一クリーンなフェス」を目指した「HY SKY Fes」を開催したり、海をキレイにするビーチクリーン活動などにも積極的に参加しています。ここにきて音楽だけでなく沖縄の大切なものを残していきたいという気持ちがこれまで以上に強くなってきたということでしょうか?

新里「その通りです。今年39歳になったんですが子どもの頃って沖縄に対しては単純に生まれた場所というだけで特別な感情を抱くこともなかったんです。でも大きくなって自分たちの島がものすごい宝のような島国だったって気が付いたときに沖縄に生まれてきた自分たちを誇りに思いたいとか沖縄を誇りに思ってもらえるように次の世代の子どもたちに伝えていきたいっていう思いが強くなってきました」

――子どもの頃に見てきた沖縄の海と今の沖縄の海は変わりましたか?

新里「自分が見てきた小学校の頃の海と比べるとやっぱり汚れてきている部分もあります。でもすべてではなくてきれいになってきている場所もあるんですよ。昔のようにきれいな海に戻していきたいと頑張って活動されている人もいっぱいいて。自分たちの遊んできた思い出の場所で高校生とか小学生が昔の僕たちと同じように釣竿を持って友達と自転車乗りながらやってくる姿を見るだけで何だかうれしくなりますよね。この風景はいつまでも残していきたいなって思います」

□HY(エイチワイ)新里英之(Vo&Gt)、名嘉俊(Dr)、許田信介(Ba)、仲宗根泉(Key&Vo)2000年結成。沖縄県うるま市出身。グループ名の「HY」は、彼らの地元・東屋慶名の地名が由来。2008年、映画×ドラマ「赤い糸」の主題歌に「366日」が抜擢され配信で450万ダウンロードを誇る大ヒットに。現在も沖縄に在住し、全国・世界へと音楽を発信している。22年9月、通算15枚目のオリジナルアルバム「Kafuu」リリース。

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