日本初の個人輸入、英軍用車のナンバー取得、現存数個…どうやって? 異色経歴の館長は元自衛官

数ある博物館の中でも異色の存在感を放つのが、「ミリタリーアンティークス大阪」だ。日本で唯一の英国の軍用車と装備品を常設展示する私設博物館で、さまざまな展示品を見るだけでなく、実際に触れて乗ることもできる体験型の展示が特徴だ。館長は、装甲車でコンビニに立ち寄る姿がSNSで話題を集める軍用車コレクターで会社経営者の松井裕一朗さん。リスクマネジメントの専門家でありながら、元航空自衛官で現在も予備自衛官という異色の経歴の持ち主だ。日英の親睦についても気持ちを寄せ、唯一無二の博物館に込めた思いを聞いた。

松井裕一朗さんが館長を務める「ミリタリーアンティークス大阪」に希少「スノートラック」が登場する【写真:本人提供】
松井裕一朗さんが館長を務める「ミリタリーアンティークス大阪」に希少「スノートラック」が登場する【写真:本人提供】

館長は元航空自衛官でリスクマネジメント専門家 日本で唯一の英国の軍用車と装備品を常設展示「ミリタリーアンティークス大阪」

 数ある博物館の中でも異色の存在感を放つのが、「ミリタリーアンティークス大阪」だ。日本で唯一の英国の軍用車と装備品を常設展示する私設博物館で、さまざまな展示品を見るだけでなく、実際に触れて乗ることもできる体験型の展示が特徴だ。館長は、装甲車でコンビニに立ち寄る姿がSNSで話題を集める軍用車コレクターで会社経営者の松井裕一朗さん。リスクマネジメントの専門家でありながら、元航空自衛官で現在も予備自衛官という異色の経歴の持ち主だ。日英の親睦についても気持ちを寄せ、唯一無二の博物館に込めた思いを聞いた。

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 昨年7月に大阪府松原市に新たにオープンした同館。約15年間で収集した英軍車両の数や金額は「軍事機密」ながらも、日本国内やロンドン郊外にある複数の倉庫で厳重に保管されているコレクションからえりすぐって展示をしている。午前・午後の部の完全予約制で月1回開館。半年ごとにテーマを変えて展示品の総入れ替えを行っており、10月末までは「第二次世界大戦」で、11月からは「フォークランド紛争」での英軍を取り上げる。さまざまなアトラクションも実施しており、実際に車両に触れ、乗車することもできる。博物館やアミューズメント施設を手掛けるプロの造形業者に依頼して展示や装飾に工夫を凝らし、プロジェクターや音響装置も導入して本格的な演出にもこだわっている。

 展示車両の一例を挙げると、1963年製造で偵察用に設計され、実際に湾岸戦争で活躍した「デイムラー フェレット装甲車」や、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦に参加した1940年製「モーリス・コマーシャル CS8汎用トラック」、冷戦時代の防空任務に従事していた1980年製の軍用バイク「カンナム・ボンバルディア 250」など。全て英軍の払い下げ品で海外の軍事博物館やコレクターと交渉して入手。全て車両として輸入しており、ほとんどが車検を通してナンバーを取得している。これは「車両は走ってナンボ」と動態保存を重視する松井さんの信念からだ。車両・エンジン整備の観点から、月に1度、定期的に私有地や公道を走らせてメンテナンスしているという。

 博物館設立の背景。もともと幼少期からクラシックカーや軍用車両が好きだった松井さんは大人になって、カーイベントに参加するようになり、こんなことに気付いたという。「カーイベントに来場した小さなお子さんが展示車両をほんの少し触れた瞬間に、『指紋が付くから触るな!』と怒鳴るオーナーさんを見たことがあるんです。もちろん、車両を大切にするオーナーさんのお気持ちも分からなくはないですが、私自身はそうなりたくないなと思ったんですよね。やはり“乗り物”ですし、皆さん『見る』だけじゃなくって『触って、乗りたい』じゃないですか。それなら自分で責任のとれる範疇でということで、私設博物館を設立すれば良いじゃないかと思いが至ったんですよね。ですから、当館では『見て、触って、乗れる!?』をテーマに、実際に車両や装備品に触れる機会を提供しています」と説明する。

 それに、海外のコレクターや軍事博物館から学んだノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)の精神と運営姿勢が背景にある。「日本では持てる者の義務とも言われますが、私は幸いなことに家族や関係者からの多大な協力が得られ、運にも恵まれて、たまたま多くの軍用車両や装備品を手元に置くことができているだけですので、それを自分だけのものにせず、できるだけ多くの皆さんと共有したいと考えています。また、博物館の運営にあたっては、各国間の争いの善悪や主義思想について当館から何かを発信することは一切なく、フラットな運営を心掛けています。この点は海外の軍事博物館のスタイルを参考にしました。実物に触れることで、匂いや硬さ、重さ、冷たさが分かります。装甲車の中に入って全てのハッチを閉めると、どう感じるのか。『かっこいい』と思うかもしれませんし、『恐ろしい』と思うかもしれません。実際に来館者自身がどう感じるかを尊重しています」と言葉を紡ぐ。

 もともとはドイツ軍車両のデザインに引かれ、キューベルワーゲンなどを所有していた。転機は、世界を知ったこと。海外出張の機会にあわせて各国の軍事博物館を巡り、英国にも年に1、2度は行くようになった。元航空自衛官という経歴から、英軍関係者の友人も増え、英陸海空軍の軍用車両にハマるように。今では、世界でも有数の「英軍専門の軍用車コレクター」だ。それに、世界最大とも言われる英国「ボービントン戦車博物館」の支援者としても認知され、館内に松井さんの写真が飾られている。そういった背景から現在に至るまで英国や世界各国のコレクター、軍事博物館関係者とも交流を深めている。

松井裕一朗さんは英国「ボービントン戦車博物館」関係者との交流も深めている【写真:本人提供】
松井裕一朗さんは英国「ボービントン戦車博物館」関係者との交流も深めている【写真:本人提供】

営利目的ではない 「クラウドファンディングなどの出資や募金にも頼るつもりはありません」

 英軍車両の何が魅力なのか。「まず、日本人と英国人は、気質で似ている部分があります。生真面目というところですね。英軍は、車両1台1台すべてに戦時管理番号を付け、その車両がどこの部隊でどのような作戦に参加して、どこで退役したのか。しっかり記録されているんです。他国の軍でそこまで詳細に全ての記録が残っていることはまずありません。私は近代の戦史が大好きで、『あの作戦にこの車両が実際に参加していたのか』と思いをはせることができる、それが魅力の1つです」。もう1つは、「おちゃめなところ」だという。「例えば、1942年製造の『エクセルシオール ウェルバイク』。これは空挺部隊のために秘密兵器として開発された折り畳み式の小型バイクなのですが、車高の低さから、荒れ地の岩などを越えられない。さらには後輪のタイヤを回しながらエンジンをかける押しがけが必要なのですが、空挺部隊は湿地や草原に降下するため、後輪が滑って回転せず、エンジンが始動しない。『世界の珍兵器』などの書籍などで紹介されることも多いのです。そんなところが私にとってはちょっとかわいいんですよね」。

 英国の伝統文化が反映されているところもお気に入りという。「やはり英国といえば、紅茶です。軍用車両や装備品においてもいかにして紅茶を飲むかという工夫が随所に見られるんです。輸送機から敵地に降下する空挺部隊でも紅茶セットがあるんですよ。魔法瓶がじゅうたんのような生地で保護されていて、衝撃にも耐えられる仕組みになっています。当館を含めて現存は世界で数個しかないと言われている貴重な装備品です」とのこと。松井さんが操縦する姿がたびたびSNSでアップされるフェレット装甲車。実はこちらにも車内湯沸かし器や魔法瓶の紅茶セットが標準装備されており、装甲車の車内でティータイムを過ごせるようになっているといい、「これも当館の所蔵品を含めて、世界で2個しか現存していません」と熱く語る。

 今後の展示でイチオシなのが、1978年製造で英国海兵隊が使用していた「アクティブ・フィッシャー スノートラック」だ。「おそらく、日本初の個人輸入した軍用の装軌車両(カタピラ車)じゃないかと思います。英国海兵隊向けの特殊仕様で78両しか製造されておらず、現存数は10両未満といわれており、動態保存されているのは当館の車両も含めて世界で3両。11月から展示しますので、軍用車両に興味をお持ちの皆様の間では話題になると思います。カタピラ式なので、公道走行はできませんが、展示アトラクションとして来館者の皆さんに搭乗していただき、当館の敷地内を走行させたいと考えています」という。

 気になる博物館の運営費用だが、松井さんはクラウドファンディングや募金には頼らない。「来館者さんから『もうかりますか?』と聞かれることも多いですが、そもそも営利目的ではありませんし、車両や装備品の維持メンテナンス費用などが必要になりますから、博物館の運営で利益がでるわけありません(笑)。ですので、運営費用については特に気にしていません。それに今後も私が自分で責任のとれる範疇で自分の考えるように運営し続けていきたいので、人様の大切なお金を集めて責任と義務が発生するクラウドファンディングなどの出資や募金にも頼るつもりはありません」。今後は搭乗体験の場を拡充する構想を持っており、「例えば、広大な荒地を用意して、私有地内を自由に来館者の皆さんを乗せて走行するようなことができればと漠然と考えています(笑)」というのが将来像だ。「私自身、皆さんが見て触って体験する機会を提供することにやりがい、楽しさを感じています。これからも展示品の見せ方を工夫しながら、新たなものを提供し続けていきたいですね」と目を輝かせる。さらに、「日英友好の観点でも本気で取り組んでいます。日本と英国がいつまでも友好関係を維持できるように、大好きな英国文化を紹介していきます」と話している。

ドイツ車一筋26年…大物女性アーティストの一途な愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

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