香取慎吾が「台本に一切メモしない」理由 草なぎ剛も“まね”した現場の空気を読む力

映画やドラマで数々のスーパーなキャラクターを演じてきた香取慎吾(45)。夫婦喧嘩を描いたコメディー映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」(9月23日公開、市井昌秀監督)では一転、ダメ夫を演じた。香取にとって、普通の男を演じることとは……。

映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」で裕次郎役を務めた香取慎吾【写真:荒川祐史】
映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」で裕次郎役を務めた香取慎吾【写真:荒川祐史】

コメディー映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」でダメ夫役

 映画やドラマで数々のスーパーなキャラクターを演じてきた香取慎吾(45)。夫婦喧嘩を描いたコメディー映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」(9月23日公開、市井昌秀監督)では一転、ダメ夫を演じた。香取にとって、普通の男を演じることとは……。(取材・文=平辻哲也)

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 本作は、香取と岸井ゆきのが結婚4年目の夫婦を演じるブラック・コメディー。香取の役はホームセンター副店長を務める平凡な男・裕次郎。配慮のない言動で妻をいらつかせてしまう。しかし、妻は不満を表立って言うことはなく、SNSの「旦那デスノート」に恨みつらみを書き連ねていた……というストーリー。

「裕次郎は、趣味が筋トレと雑学というだけ。ぶっちゃけ、つまらないやつじゃないですか。僕自身は結構、いろんなことに挑戦して生きてきた。可もなく不可もなくじゃ、香取慎吾はここまで来られなかったんですよ。だから、もっとしっかりしろよと思っちゃうんですね」と笑う。

 監督は星野源主演「箱入り息子の恋」、草なぎ剛主演「台風家族」でオリジナル映画にこだわり続ける市井昌秀(46)。「無防備」(2007年)は第30回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞したが、この作品を推したのがほかでもない香取だった。

「監督の作品が一番だと思っていました。その時の印象がずっと強かったんですが、そうしたら、草なぎの『台風家族』の監督することになって、近くに来てくれた。これも縁だなと思って、BiSHとコラボした『FUTURE WORLD(feat.BiSH)』のミュージックビデオをお願いしたんです。『いつか映画でご一緒したいですね』と話していたんですが、既に監督は考えてくれていたみたいですね」

 ダメ夫・裕次郎は実は、市井監督の分身なのだという。

「裕次郎は監督自身というのがちょっと面倒くさいんですね(笑)。裕次郎は奥さんのことがちゃんと見えていないのかなと思ったら、自分のことも見えてない。明日も見えてないみたい。それなのにどこか前向き。そんなことを心がけてワンシーンワンシーンを演じました」

 市井監督は「わずかでも重なる部分はあると思うから、虫眼鏡を当てて大きくしてとかそういうことでさらけ出して欲しいです。生々しい人間をやっていただきたい」とリクエストして、後は香取に託したとか。

 同じダメ男でも、ギャンブル好きの主人公を演じた「凪待ち」(2019年)では、カメラの角度、顔の表情、顔の角度などを意識して、少し格好をつけて演じていたと明かす。だが、本作では異なるアプローチに挑戦した。

「今回はそういうのは全くなくそうとは思いました。セリフもかんだ時はかんだまま。自然につまずいてしまえばいいのか、と。本番直前でシャツが緩んでいても気にしない。そういうのが結構多かった。そんな風にやったのは初めてかもしれない」

草なぎ剛と香取の演技は似ていると語った市井昌秀監督(右)【写真:荒川祐史】
草なぎ剛と香取の演技は似ていると語った市井昌秀監督(右)【写真:荒川祐史】

演じた主人公との共通点「“考えているようで考えてない”。好きな言葉なんです」

 そんな平凡な裕次郎にも共通点はあったのか。「あえて言うと、“考えているようで考えてない”。これって、好きな言葉なんです。そんなところは自分にもあるかな。それと、ズルいところも。それこそ、監督から(演技について)『もっとこうしてください』と言われて、『はい』って答えるんだけども、実際には何も変えない。それでも、OKが出たら、全然わかってないじゃんと思っていたり。これは若い頃の話ですけどもね」と笑い。

 草なぎと香取を演出した市井監督によれば、2人の演技には似たようなものを感じたという。「草なぎさんは最近、『香取さんのようなやり方をしている』とおっしゃっていましたね。(草なぎさんは)若い頃は台本にメモでギッシリ。それでも、本番に納得いかなくて、『もう1度回してください』と言っていたそうです」(市井監督)。

 香取は「僕は台本に一切メモしないんです。事前に考えられる人は逆にすごいなと思ってしまう。僕は現場に入ってから、その家のソファや壁を触るんです。それは皆さんが本に書いているのと同じこと。セリフを覚えるのも当日の朝。でも、それって実は(役者にとって)一番新鮮だったりするんですよね」

 アーティストとしても活動する香取は、その場の感性を大事にするということだろうか。

「お芝居を始めた10歳の頃は、勉強していったと思います。それでも、めちゃくちゃ怒られたり、つらいことがいっぱいあって、どうしたものかと思ってしまったんですよ。それで行き着いたのが、その場の空気とかで対応していくこと。準備していっても、現場に行って、しゃべってみたら、想像と全然違うということが結構あったんですね。それだったら、考えていかないで、その場の空気を感じた方がうまくいくと感じたんです」。この平凡すぎるダメ男は、香取の新境地になった。

□香取慎吾(かとり・しんご)1977年1月31日、神奈川県出身。91年にCDデビュー。主なドラマ出演に、「新選組!」(2004)、「西遊記」(06)などがある。主な映画出演は、「THE 有頂天ホテル」(06)、「西遊記」(07)、「ザ・マジックアワー」(08)、「座頭市 THE LAST」(10)、「こちら葛飾区亀有公演前派出所 THE MOVIE~勝鬨橋を封鎖せよ!?」(11)、「人類資金」(13)、「ギャラクシー街道」(15)、2週間限定公開で話題となった「クソ野郎と美しき世界」(18)など。日本財団パラリンピックサポートセンターのスペシャルサポーター、及び国際パラリンピック委員会特別親善大使に任命された他、祐真朋樹と共にディレクターを務める「JANTJE_ONTEMBAAR」を展開し、ルーヴル美術館で個展を開くなど活躍中。

□市井昌秀(いちい・まさひで)1976年4月1日、富山県出身。劇団東京乾電池を経て、ENBUゼミナールで映画製作を学ぶ。2004年に制作した長編が立て続けに映画祭の賞を受賞し、注目を集める。初の長編作品「隼」(05)は第28回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリと技術賞、香港アジア映画祭コンペティション部門「New Talent Award」グランプリ、続く「無防備」(07)は第30回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ、第13回釜山国際映画祭では新人監督作品コンペティション部門最高賞を受賞。13年には、初の商業映画「箱入り息子の恋」が公開。同年のモントリオール世界映画祭ワールドシネマ部門に正式出品し、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞。直近の映画作品に監督と脚本を務めた草彅剛主演の「台風家族」(19)がある。

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