相次ぐ自動車盗難、厳罰化求める署名活動に賛同者多数 「なんとかしなきゃ」発起人の思い

「車や部品の盗難を許さない!!」こんな怒りに満ちたタイトルが躍るネット上の署名活動が1万5000人の賛同者を集める反響となっている。団体名「車両盗難を厳罰化にする会」が今年3月に立ち上げ、9月に入り、急速に支持を増やしている。発起人のKUN AE86さんに署名活動を始めた経緯を聞いた。

ネット上で行われている署名活動
ネット上で行われている署名活動

「車両盗難の法定刑自体が万引きと変わらない」

「車や部品の盗難を許さない!!」こんな怒りに満ちたタイトルが躍るネット上の署名活動が1万5000人の賛同者を集める反響となっている。団体名「車両盗難を厳罰化にする会」が今年3月に立ち上げ、9月に入り、急速に支持を増やしている。発起人のKUN AE86さんに署名活動を始めた経緯を聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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「若い子が車を盗難されている。フルローンで買ったり、車両保険に入っていなかった子もいる。なんとかしなきゃという思いがありました」。取材に応じた50代男性のKUN AE86さんは、署名活動を始めたきっかけをこう明かした。

 署名活動をスタートさせたのは今年3月だった。「昨年、趣味の車のアカウントを作ったんですけど、盗難の情報がどんどん流れてきて、結局みんなどうしたらいいか分からないというか、警察任せのところがあった。警察も動きにくさがあると感じたので調べたら、盗難の法定刑自体が万引きと変わらない。罰則が軽すぎると思いました。以前、別の署名活動に参加がしたことがあったので、この方法ならと思い、活動を始めました」

 KUN AE86さん自身は車を盗難されたことはなく、過去に車上荒らしの経験があったくらいだという。

 8月中旬まで「1000人いっていなかった」賛同者数は、9月に入って急激に増えた。その間、SNS上ではスカイラインGT-Rや80スープラなど連日盗難事件が発生。異常事態となっていた。神奈川県警はスポーツカーを盗難しようとしたとして暴力団幹部の男ら2人を逮捕したが、盗難がなくなったわけではない。その後もドライバーの悲鳴が上がっている。
 
「毎日のように流れてくる盗難車のRT、突然跡形もなく無くなってしまう愛車 そんな盗難被害を少なくするために法改正をして厳罰化を!!」

 逮捕されても刑罰が軽ければ、窃盗犯は何度も同じ犯罪に手を染める可能性がある。ローリスクハイリターンの状況だ。主犯格が逮捕されたとしても全く安心はできない。

 改正を求めるのは刑法235条(窃盗罪)の「懲役10年以下または罰金50万円以下」の項目だ。現行の法定刑の枠組みでは、「万引き罪」や「自動車窃盗罪」といった、窃盗の具体的な内容によって区別された罪状があるわけではなく、すべて「窃盗罪」が適用される。

「まず罪として100円のお菓子を万引きするのと、500万、800万、1000万の車を盗難するのが一緒ということなんですね。それはおかしい」。実際の量刑の重さは、犯罪の悪質性などによって変わるものの、理論的には50万円以下の罰金で済むケースもありうることになる。

 再犯はこの限りではないが、罪が軽ければ、警察の捜査にも影響する可能性がある。人員は重大犯罪への捜査に優先される。「警察に対し、『何やってんだ!』という声があるのは知っています。その気持ちも分かるんですけど、警察も限られた人員と法にのっとって動く組織なので動きやすい法律にしないといけない」と訴える。

 法改正への道のりが遠いことは承知している。それでも声を上げなければ、との思いで署名を始めた。「法改正はこだわりますが、法改正と同等となり得る抑止力となる、しっかりとした対策ができれば良いとも考えています」。本業は金属加工をなりわいとする自営業で、自動車メーカーに勤めているわけではない。車業界とは関係のない一般人のため、「本当は車業界の人にやってほしかった」との気持ちもあったが、しがらみのない個人だからできる活動と今は捉えている。

「法律を変えること自体がハードルが高いからあまり期待しないほうがいいと言われたが、始めたからにはこだわっていきたい」と決意は固い。

旧車が窃盗犯の標的にされている【写真:ENCOUNT編集部】
旧車が窃盗犯の標的にされている【写真:ENCOUNT編集部】

「被害車両の賠償もしてもらいたい」

 署名への協力者は増え、元トヨタ自動車社員で国民民主党の浜口誠参議院議員も賛同。さらに自動車関係者も情報を拡散してくれるようになり、ついに1万5000人を突破した。「ちょっとびっくりしました」と反響に驚くKUN AE86さんは、署名提出の準備を進めている。年内にも警察庁や法務省など6省庁に、要望書も合わせて届ける予定だ。

「罪の重さは過去の判例で決めるじゃないですか。そういうのを取っ払ってほしい。1人で盗んだのと、組織的に盗んだのも違う。被害車両の賠償もしてもらいたいですし、盗難の内容によっては懲役20年とかあってもいいと思う。例えば初犯でも悪質な場合などは執行猶予をほとんどつけないような実刑判決にしたり、犯人が外国人だったら国内に二度と来れないようにしたりするとか、ケースバイケースでやってほしい」

 愛車を盗難された結果、経済的な打撃を受け、人生を狂わされた被害者を泣き寝入りにはさせない。その代償を犯人にしっかり払ってもらう。

「私自身は運が良いことに盗難被害には遭ってはいません、しかし被害者となった自分を想像することはできます。悔しくて悲しくて、怒りをどこにぶつければいいのか、被害に遭わぬように対策をしても盗まれる現状を少しでも変えるべく声を上げていきましょう!! 車は日本の文化でもあります、文化も守るためにもご協力をお願い致します」

 KUN AE86さんの熱い思いは、大きなうねりを起こそうとしている。

自動車窃盗の罪は軽いのか? 弁護士の見解

 樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士は、「自動車窃盗自体が軽いというより、適用される法定刑の枠組みが、対象になる財物の種類や価値にかかわらず同じ『窃盗罪』(刑法235条)とされている、という点が根本的な原因です」と解説する。「実際には、窃取された財物の価値や犯行の悪質性などの犯行態様によって裁判官が量刑を変えてはいますので、結果的に科される刑罰に差はありますが、前提となる法定刑の枠組みが同じであることは事実です」と続けた。

 自動車に関する窃盗の罪をより重くするためには、3つの選択肢が考えられるという。

1)「自動車」という財物について独立した罪を設ける。

2)被害額の大きさによって法定刑を変える。

3)転売を目的とする場合の法定刑を加重する。

 ただ、1)については「自動車にもさまざまな価値のものがありますし、なぜ自動車だけが特別なのかについて合理的な説明が難しいと思います」と指摘する。たしかに、財物の種類は無数にあり、自動車より被害額が大きいものも当然にあるうえ、秋になると報道されるシャインマスカットの盗難など、転売目的の悪質な例は他にもあることから、自動車を特別視する理由が必要という点はもっともかもしれない。

 2)についても「窃盗の悪質性は、単に財物の価値だけでなく、常習性、手口の悪質性など、他の要素も加味されますので、被害額だけでは判断できません。また、被害額で法定刑を変えるのであれば、他の財産犯(恐喝、強盗、詐欺、横領など)についても同様に変えるべきということになります」との見解だ。

 3)については、「政策論としてはありうる」としつつも、「転売目的が自己使用目的よりも罪が重いと一律に評価してよいのか疑問」であり、また「目的で刑を加重するならば他の財産犯についても同様にするべき」とのこと。

 状況的に似ていると思われ参考になるのが、飲酒運転などの悪質運転が社会問題化し、従来の業務上過失致死傷罪の法定刑が軽いとの声を受け、2001年の刑法改定で危険運転致死傷罪が創設された例だ。この点について樋口弁護士は、「自動車窃盗が社会問題化している状況に鑑み、その態様を重視して独立した罪を設けることも、政策論としてはありうる思います」と述べる。ただ、「『危険運転』についてはどんな事案でも一律厳罰化することが合理的といえる一方、窃盗では『自動車』『高額』という要素だけで一律厳罰化するということは必ずしも合理的といえないため、私見としては独立した法制化の壁は高く、従前とおり量刑の枠内で区別することが現実的ではないかと考えます」と話した。

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