AV新法、ベテラン男優が語る必要性と問題点「確かに30年前は反社的な業界でした」

当事者である業界団体へのヒアリングが行われないまま今年6月に公布・施行されたAV出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、「実態に即していない」「不当に仕事の機会を奪われている」として業界団体を中心に改正を求める署名活動が行われている。新法は出演女優だけでなく男優にも適用されるが、男優側は同法をどのように捉えているのだろうか。今月1日に新団体「日本適正男優連盟(JPAL)」を立ち上げたAV男優兼監督の桜井ちんたろう氏に聞いた。

「日本適正男優連盟」を立ち上げたAV男優兼監督の桜井ちんたろう氏【写真:ENCOUNT編集部】
「日本適正男優連盟」を立ち上げたAV男優兼監督の桜井ちんたろう氏【写真:ENCOUNT編集部】

今月1日に男優のための新団体「日本適正男優連盟」を立ち上げ

 当事者である業界団体へのヒアリングが行われないまま今年6月に公布・施行されたAV出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、「実態に即していない」「不当に仕事の機会を奪われている」として業界団体を中心に改正を求める署名活動が行われている。新法は出演女優だけでなく男優にも適用されるが、男優側は同法をどのように捉えているのだろうか。今月1日に新団体「日本適正男優連盟(JPAL)」を立ち上げたAV男優兼監督の桜井ちんたろう氏に聞いた。

 AV新法は、すべてのアダルトビデオの撮影に際し、契約書や内容説明の義務化、契約から1か月間の撮影禁止、撮影後4か月間の公表禁止、公表から1年間の契約解除や販売・配信の停止を可能とすることなどを盛り込んだもの。今年4月1日の民法改正に伴う成人年齢引き下げを受け、これまで未成年者取消権のあった18歳、19歳が契約を取り消せなくなるのではとの懸念から、緊急課題として議論開始から2か月あまりでのスピード立法となった。一方で成立に際し当事者である業界団体へのヒアリングが行われず、業界では混乱のために施行直後から新規の撮影スケジュールが次々と白紙に。日本プロダクション協会が業界関係者441人を対象に行ったアンケート調査では、収入が50%以上減ったという回答が37%、7.8%は収入が0になったと回答している。

 そもそも新法成立以前から、業界内では出演者の人権に配慮し、保護者の同意なしで未成年者と契約しない、撮影内容を説明する、撮影前の性病検査を実施する、著作権の所在を明確にするなどの審査を通ったものだけを「適正AV」として販売、自浄作用を働かせてきた。一方で日本プロダクション協会に所属しない悪質業者によるものや、個人撮影、同人AV、パパ活や売春行為のオプション撮影といった動画が動画サイトに乗ることもあり、本当に被害が深刻なこれらの違法AVに対して新法がどこまで実効性を持つかは不透明だ。さらに、規制が厳しくなることでこれまでは適正AVに出演してきた女性たちが働き口を失い、違法AVに流れる可能性も危惧されている。

 これまで女優の問題として取り上げられることが多かった同法だが、男優側の受け止めはどうか。桜井氏の場合、監督・男優を合わせて月に20本近くあった撮影現場が2~3本に激減。月収は約50万円ほど減ったというが、中には意外にも収入が増えている男優もいるという。

「新法では出演者の差し替えがきかないため、男優は2人3人と多めに入れてリスクを減らしているので、中堅男優は一時的に忙しくなっているんです。制作費は無駄にかかりますが、現場を飛ばさないためのいわば保険ですね。大手はそうやって確保していますが、男優は女優と比べて圧倒的に絶対数が足りてない。中小の制作会社の中には人手を確保できないところも出てきています」

 実は、AV男優をめぐる環境は女優以上に特殊だ。女優はほぼ全員がプロダクションに所属し、ギャラやスケジュール、NG行為など撮影に関わるすべてマネジメントしてもらえるが、男優は全員がフリーランス。最初はエキストラから出演し、現場で関係を作ることで徐々に仕事をつかんでいく。

「ギャラは若手でだいたい1本1~2万円、3~4万円が中堅クラスで、ベテランは5万円くらい。当然経験やテクニック、演技力がある方がギャラも上がって、一度上がると落ちないのが僕らの業界です。エキストラ以外の男優はほとんどが専業一本。1本あたりの単価が安いぶん、数をこなさないといけない仕事なんです。僕は最高で月に65本、1日に3現場を回ることもありました」

 通常台本が仕上がってからオファーがかかるため、これまでは撮影の1週間~3日前、場合によっては撮影前日に連絡が来ることもあったという。男優女優問わず一律で1か月前に契約を結ばなければいけなくなった新法施行後は、以前のような柔軟な働き方はできず、メーカー側も慎重姿勢となっているため、収入の先行きは不透明だ。

男優歴29年で業界の過去も知る桜井氏は、AV新法の必要性に一定の理解も

 一方で、男優歴29年で業界の過去も知る桜井氏は、AV新法の必要性についても一定の理解を示している。

「確かに、僕が入った30年前は怖い人ばかりで、反社的な業界でした。AVと黙って撮影を始めたり、女の子がずっとメイクルームで泣いていたことも実際にあった。しかし10年ほど前から反社を締め出す流れができ、2017年にAV人権倫理機構ができてからは完全に関係を断ち切っています。

 昔を知っているからこそ、出演者を守るためにAV新法は必要なものだと思います。ただあまりに規制が多すぎて、現状は誰か1人がコロナで出られなくなると、その日撮影に関わった全員の仕事がなくなってしまう。迷惑をかけたくないと、陽性でも出ようとする子も出てくるでしょう。これでは普通に作品が作れない。

 新法の根幹の部分はこのままで、例えば1か月前契約でも欠員が出たときに人を差し替えられるようにするとか、何年以上出演経験があれば契約を簡素化できるとか、そういったプラスαの特例措置さえつけていただければ、みんなこの法律を守っていっそう健全な作品が作られると思います。むしろ今回法律ができたことで、これまでグレーゾーンだった業界がある程度公に認められたという見方もできる。ルールさえ守っていれば、AVを作ってもいいということですから」

 今月1日には、これまでフリーランスで統一団体がなかった男優をまとめるため、桜井氏が発起人となり日本適正男優連盟を立ち上げ。今後は他団体と連携を取り合い、情報共有やルール作りを進めていく。

「新法は女優を守るためのもので、我々は“おまけ”だったかもしれませんが、法律ができたことで、男優も女優と同じ立場になってしまった。新人男優では『手配士』や『汁親』と呼ばれる仲介派遣業者がギャラの何割かを抜く闇の部分が残っていたり、エキストラでは1現場だけで名前も顔も分からない人間がいたりして、新法ではそういう人たちにも取り下げの権利が出てくる。これまではフリーでよかったかもしれないが、男優側も変わっていかないといけません。現状は20名ですが、ゆくゆくはエキストラも含めて、業界に関わる全員を登録していくつもりです」

 当事者へのヒアリングが行われずスピード立法となったAV新法と、それに合わせ変わろうとしているAV業界。両者の妥協点はどこになるのか。

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