AV新法、何が問題? 中小は経営困難、被害女性増加の本末転倒、差別助長の可能性も

今年6月に公布・施行されたAV出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、業界団体から困惑の声が上がっている。女優や男優、撮影スタッフの仕事が奪われているほか、むしろこれまで以上に悪質な被害に遭う女性が増えるのではという声も……。文字通り、AV出演被害を防止・救済するはずの同法の何が問題なのか。日本プロダクション協会(JPG)事務局の中山美里氏に聞いた。

AV新法改正を訴え新橋駅前でビラを配る現役女優たち【写真:ENCOUNT編集部】
AV新法改正を訴え新橋駅前でビラを配る現役女優たち【写真:ENCOUNT編集部】

当事者である業界団体へのヒアリングが行われず、施行直後から混乱が続出

 今年6月に公布・施行されたAV出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、業界団体から困惑の声が上がっている。女優や男優、撮影スタッフの仕事が奪われているほか、むしろこれまで以上に悪質な被害に遭う女性が増えるのではという声も……。文字通り、AV出演被害を防止・救済するはずの同法の何が問題なのか。日本プロダクション協会(JPG)事務局の中山美里氏に聞いた。

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 AV新法は、すべてのアダルトビデオの撮影に際し、契約書や内容説明の義務化、契約から1か月間の撮影禁止、撮影後4か月間の公表禁止、公表から1年間の契約解除や販売・配信の停止を可能とすることなどを盛り込んだもの。今年4月1日の民法改正に伴う成人年齢引き下げを受け、これまで未成年者取消権のあった18歳、19歳が契約を取り消せなくなるのではとの懸念から、緊急課題として議論開始から2か月あまりでのスピード立法となった。一方で成立に際し当事者である業界団体へのヒアリングが行われず、業界では混乱のために施行直後から新規の撮影スケジュールが次々と白紙に。日本プロダクション協会が現役女優を含む業界関係者441人を対象に行ったアンケート調査では、収入が50%以上減ったという回答が37%、7.8%は収入が0になったと回答している。

「いわゆる素人さんやデビュー前の新人さんに、きちんと時間をかけて撮影内容を説明してから契約するという点は、出演被害をなくす上で意味のあるものだと思います。ただ、すでに何年も活躍されているベテラン女優でも、毎回何十枚もの膨大な契約書を交わすのはお互いに煩雑でしかありません。撮影の1か月以上前に関わるスタッフ全員と契約を交わし、一度決まった撮影日は動かせない、1人でも欠員が出れば代役を立てられず撮影そのものが流れるというのは、あまりに業界内の事情を分かっていません。撮影に1か月、公表まで4か月と契約からおよそ半年先まで販売ができないため、中小のメーカーではキャッシュフローが追いつかず経営困難となってしまいます」

規制が厳しくなることで適正AVに出演してきた女性たちが違法AVに流れる可能性も

 以前から撮影内容の説明やNG事項の確認は綿密に行われていたが、ベテラン女優であれば契約書は形式的だった。サインも撮影日の数日前から当日に行うこともあったが、新法では時間的なしばりが大きく、販売元にも悪影響を与えている。さらに撮影を行ったとしても、1年以内に女優が「親にバレて反対された」などの理由で無条件の契約解除を求めれば、販売停止となり、大損害をこうむってしまう。

 そもそも新法成立以前から、日本プロダクション協会会員のプロダクションでは、出演者の人権に配慮し、保護者の同意なしで未成年者と契約しない、撮影内容を説明する、撮影前の性病検査を実施する、著作権の所在を明確にするなどの審査を通ったものだけを「適正AV」として販売、業界内での自浄作用を働かせてきた。一方で協会に所属しない悪質業者によるものや、個人撮影、同人AV、パパ活や売春行為のオプション撮影といった動画が動画サイトに乗ることもあり、本当に被害が深刻なこれらの違法AVに対して新法がどこまで実効性を持つかは不透明だ。さらに、規制が厳しくなることでこれまでは適正AVに出演してきた女性たちが働き口を失い、違法AVに流れる可能性も危惧されている。

「仮に契約が取り消しになると大きな損害が出るので、今後はその心配が少ないベテラン女優や人気女優にオファーが集中し、新人はデビューしづらくなることが予想されます。本人が一度大丈夫と契約しても、親や彼氏など身バレしてやっぱり辞めますということはありますから。人気商売のため、プロダクションに所属していてもなかなかお仕事がないという女優さんもたくさんいる。そういった女優さんやすぐにお金が必要な素人の子が、ツイッター勧誘の個撮に応じたり、風俗に行ったりしてトラブルとなるケースもある。これまで業界内のルールを守ってやってきた適正AVを締め付けて、被害女性が増えるのは本末転倒ではないでしょうか」

 日本プロダクション協会では現在、AV新法改正を訴える署名活動を行っている。被害を防止し、女性を本当に救済するためにはどのような改正が必要なのだろうか。

「女性の被害をなくすというAV新法の意義自体は理解できます。その上で、契約から1か月間の撮影禁止、撮影後4か月間の公表禁止といった条件をデビューから何作目以内の新人に絞るなど、より個々のケースに即したきめ細やかな法整備を求めます。それ以上に働き方を過度に制限するのは憲法で定められた労働の自由や職業選択の自由に触れるものです。また、契約とは本来取り消し不可なもので、マルチビジネスから消費者を守るクーリングオフ制度さえ、最長期間は20日。未成年は親の同意がなければ契約を結ぶことはできませんが、成人でありながらいつでも契約をほごにできるという過度に強い権限を与えるのは、『AVに出演する女性は未成年者同様に意思決定能力が低い』という差別と同じ。AV業界で働く女性が働きやすく、偏った価値観で偏見や差別を助長しないような法改正を望みます」と中山氏は訴えた。

次のページへ (2/3) 【画像】オファーから契約、撮影日当日までの仕事の流れ
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