【THE MATCH】譲り合いの精神がもたらした天心VS武尊 “50億円興行”の経済効果を読み解く

オープニングマッチの段階での会場風景。数時間後には記録的動員を果たすことに…
オープニングマッチの段階での会場風景。数時間後には記録的動員を果たすことに…

50億円興行という経済効果

 さまざまな紆余曲折を経て行われた、天心VS武尊戦。そしてこれをメインに据え、RISE対K-1の対抗戦を含む、全16試合(うち1試合はオープニングファイト)がマッチメイクされた「THE MATCH2022」は、格闘技界にかつてない経済効果ををもたらした。

「チケット売り上げ20億、ペイパービュー50万件 25億スポンサー5億、計50億。観客数59000人すべての興行記録塗り替えたね。選手、並びに全ての関係者に心より感謝いたします。ありがとうございました!バラさんご苦労様でした。そして新たなスタートです」

 正道会館の石井和義館長は、試合直後に当たる午後10時19分、自身のツイッターに投稿。その際、「THE MATCH」の開催された東京ドームのVIPルールで撮影したと思われる、今回の主催者・RIZINの榊原信行CEOとのツーショット写真を添えていた。

 その数字がすべて正確なものかは定かではないが、興行記録を塗り替えたことは事実だろうし、それだけ格闘技の底力を満天下に見せつけたことは言うまでもない。

 直前で放送中止を決めたフジテレビは本当に運がないと思った関係者がいるのもよく分かるが、「塞翁が馬」のことわざにもあるように、人生の幸・不幸は予測しがたいもの。ここからどう巻き返すのかは見ものでもある。

 ともあれ、昨年のクリスマスイブにあった天心と武尊の両者が出席した初の会見の際には、榊原CEOも「過去最高のファイトマネーを用意する」と豪語していたし、天心、武尊の双方にはそれなりのファイトマネーが用意された。

 つまりは、お互いに譲れるところを譲るだけの対価も、両者はもちろん、両陣営なり関わった全団体にも割り当てられているのだろう。

 さらにいえば、アントニオ猪木VSモハメッド・アリ戦(1976年6月26日、日本武道館)という「世紀の一戦」が45年以上たっても語られ続けているように、天心VS武尊が「世紀の一戦」であれば、50年後の格闘技ファンにも伝説となって語り継がれている可能性は十分にあり得る。

 そう考えれば、そんな試合を闘えた運を持つ両者は本当に幸せだったと思えてならない。

 振り返れば、いくら強すぎてもライバル(仮想敵)をうまく設定できなかったために、その個性を世間にインパクトのあるカタチで示すことができないまま、リングを降りてしまったファイターだっている。

 格闘技界の歴史をひも解くならば、プロレスではジャイアント馬場とアントニオ猪木が、キックボクシングでは沢村忠と藤原敏男が交わることなくリングを去っていった例もあったが、時代は変わり、とくに21世紀に入ってからは、お互いの生息する生態系をうまく尊重し、お互いが譲歩し合いながらたどり着ける領域が存在することが分かってきた。

 要は、奪い合えば足らず、分け合えば余る。

 なにより今回の場合、「鎖国」に近い政策を取ってきた新生K-1が、今回に限った特別措置として他団体との対抗戦に踏み込んだ点が大きい。まさに「溜めと至福」とはこのことである。いや、選手・関係者だけではない。「観る側」にもコロナ禍にさんざん苦渋を舐めさせられてきたがゆえの「溜めと至福」も加わったのだ。

 今後はこの教訓と課題を糧に、次なる「THE MATCH2」の機運と開催を心待ちにしながらこの項を終えたいと思う。

 選手・関係者・取材陣・観客・視聴者の皆さま、あらためてお疲れ様でした。

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