「逃げて逃げて逃げ切るんだ」 車いす生活送る志茂田景樹が今、悩める若者に伝えたいこと

9日に発売されたエッセー本「9割は無駄。」
9日に発売されたエッセー本「9割は無駄。」

冷静でいないといけない「思い込みは自分をがんじがらめに、全身金縛りにしてしまう」

――若者の悩みの種類も変わってきているのでしょうか?

「10年前の方が恋愛の悩みが多かった。『フラれたからもう死ぬ』なんて。でも今はそれが少なくなっています。ということは、恋愛よりも『これからの自分』というものに対して不安を抱き始めたと。あまり悩まなくていいことまで悩んで、ぬかるみに入り込んだ状態なっている。一旦ぬかるみに入っちゃうと、『もう何もかも終わりだ』と。諦めに関しては意外と短絡的な傾向にある。そういう意味では、今の若い人たちの感性はとても優れていると思う」

――「逃げて逃げて逃げ切るんだ」という言葉は、学校や職場、友達付き合いや夫婦関係など、いろいろな場面で難しい問題を抱えている人にとって、救いになる言葉だと思いました。

「人生というのは軌道じゃありませんので、その通りにいかなくていいわけです。『こうするしかないんだ』と思い込んで、がんじがらめな思いと問いかけで自分を縛ることはない。きっときっと、探せば他の選択肢がひとつ、またひとつとあるはずです」

――他の選択肢を探すためにはどうしたらいいでしょうか。

「それを探すためには、冷静でいないといけない。思い込みは自分をがんじがらめに、全身金縛りにしてしまう。この金縛りを解いて考えれば、きっと別の選択肢がある。一歩引いてみよう、二歩引いてみようと冷静に。人生ですから何歩引いたっていい。五十歩引いたって何万歩引いたって、自分の人生ですからそこからやり直しできる。『孫子の兵法』に『三十六計(さんじゅうろっけい)逃げるに如かず(迷ったときには機をみて身を引き、後日再挙を期すのが最上の策であるとする教え)』という言葉があります。『逃げて逃げて逃げまくる』中で、いい答えが見つかるんじゃないかと僕は思う」

――志茂田さん自身は「逃げなければいけない場面」はありましたか?

「うーんとね、ほとんど逃げないできました。自分をがんじがらめに縛ってきたことが多くて。だからこそ、他の人に伝えたい。すべては自分の失敗した体験が土台になっています。自分をもっと豊かにさせるために『逃げろ』と。僕もこれから『逃げて逃げて逃げまくる』から、みんなも『逃げて逃げて逃げまくろうよ』。そう受け取ってください」

(後編へ続く)

□志茂田景樹(しもだ・かげき)1940年3月25日、静岡県伊東市生まれ。中央大学法学部卒。小説家、絵本作家、「よい子に読み聞かせ隊」隊長。76年、「やっとこ探偵」(講談社)で小説現代新人賞、80年、「黄色い牙」(講談社)で直木賞。絵本も手掛け、2014年、「キリンがくる日」(ポプラ社)で日本絵本賞読者賞を受賞。主な作品に、「異端のファイル」(祥伝社)、「それゆけ孔雀警視」(光文社)、「制覇」(徳間書店)、「極光(オーロラ)の艦隊」(実業之日本社)、電子小説「死にたいという本当は死にたくない私」「ショートショートの小宇宙」(志茂田景樹事務所)

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