菅沼孝三さん追悼インタビュー プロのドラマーとして最後まで大切にしていたこと

菅沼さんが教えてくれたプロとしての大切な心構え

 近年はラウドネスの二井原実らと組んだ「デッド・チャップリン」や「FRAGILE(フラジャイル)」、「assure(アシュレ)」といったフュージョンからハードロックまでさまざまなジャンルのバンドで演奏し、海外でもドラム教室を開き、若者に演奏の楽しさを伝えていた。また、音楽好きの一般客が、菅沼さんらプロのミュージシャンと一緒に演奏できるというユニークなイベントを開催したり、民族楽器の演奏やボイスパーカッションもいち早く取り入れるなど面白いと思ったらどんなことでもとことん追求していったという。

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 そんな菅沼さんにプロのミュージシャンとして大切にしていることを尋ねると音楽に限らずどの世界でも重要な心構えを教えてくれた。

「友人であるドラマーのデイブ・ウェックルさん(※2)が僕にこう言ったんです。『行った先で、最初に誰の意見を聞くかを考えろ』と。

『まずスポンサーが一番お金を払っているんだから、そこにスポンサーがいたらスポンサーの意見を聞け。次にディレクターがいたらディレクターの意見を聞け。その次がプロデューサー、アレンジャーだ。その確認を取りながら誰が何を欲しがっているか考えながら動きなさい』とね。

 僕もそう思うんです。相手がどんな音楽を欲しがっているのかを正確に把握して、それを忠実に演奏する。自分の音楽の押し付けじゃなくてそこに必要な音楽を演奏する。それがプロなんじゃないですかね。スティーヴ・ガッドさん(※3)も同じように言ったんです。

『別にスティーブ・ガットが演奏したって分からなくてもいい。大切なのはその音楽に本当にマッチしているかどうかだ』と。求められるものが自分の考えたものと違うなんてよくありますよ。最初に個性を出すのではなくて、まず何が必要なのかを考える。その中で『やっぱり菅沼の音が欲しい、フレーズが欲しい』って言ってもらえるようなドラマーになりたいですね。

 僕の場合は、2バス(=バスドラム×2)ができて譜面がそこそこ読めて、オールラウンドで演奏できる。そんな『フルセット』を要求されるんですが、そういう人はまだ少ないので、僕自身はその辺をプロとして要求されているんだなって思いますね。『めちゃくちゃ暴れてください』とかね(笑)。やっぱりプロフェッショナルを目指す人は自分にとってどういう部分が適しているのか、ドラミングでもいっぱいあるんでね。その辺じゃないですかね」

(※2)デイブ・ウェックル:アメリカのドラマー。チック・コリアやポール・サイモン、ミシェル・カミロと共演。

(※3)スティーヴ・ガッド:クインシー・ジョーンズ、スティーヴィー・ワンダー、ジェームス・テイラー、ポール・マッカートニーなどビッグアーティストたちとの共演、レコーディング歴を誇る世界的なドラマー。

 最後にご自身の作品の中で特にお気に入りの1曲を紹介してもらった。

「『Pai-Patiroma』(※4)という曲です。理想郷の話なんですが、沖縄の波照間島(はてるまじま)が、なまって『パイパティローマ』になったという説があるんです。ドラマーって普段はリズム屋さんなんですけど、きれいなメロディーに憧れて作ったんですよ。希望を持てて明日につながる良いメロディーができたなって自分でも思ってます。人間が尽きることのない理想へのあこがれというか、死ぬまで前を向いて生きていきたいなと思っています」(2007年4月)

(※4)kozo suganuma名義で2004年にリリースしたアルバム「Pai-Patiroma」に収録

□菅沼孝三(すがぬま・こうぞう)1959年生まれ。大阪府出身。8才でドラムを始め、15才でプロデビュー後、数多くのスタジオワーク、コンサートツアー、セッションに参加する。高速連打、変拍子、トリックプレイを駆使した独自のプレイスタイルで「手数王」の異名をとる。自己のドラムスクール「菅沼孝三ドラム道場」を全国6か所にて主宰。ドラムや打楽器の教則本、DVDを多数リリース。

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