東大前刺傷と問題流出 2つの事件の背後に、専門家が指摘する「教育虐待」とは

大学入学共通テスト初日に東京大前で起きた刺傷事件と、試験後に明らかになった試験時間中の問題流出事件。象徴的な2つの事件の背景に、専門家はかたよった価値観のなかに身を置くことで「教育虐待」的な影響を受ける可能性を指摘する。「受験×探究」をコンセプトにした学習塾「知窓学舎」を運営する矢萩邦彦氏に、現代の教育現場が抱える問題点を聞いた。

大学入学共通テストを巡る2つの事件には教育現場が抱える問題点が指摘されている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
大学入学共通テストを巡る2つの事件には教育現場が抱える問題点が指摘されている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

決定権がない子どもに親や教師の一方的な価値観を押し付けて受験勉強を強制

 大学入学共通テスト初日に東京大前で起きた刺傷事件と、試験後に明らかになった試験時間中の問題流出事件。象徴的な2つの事件の背景に、専門家はかたよった価値観のなかに身を置くことで「教育虐待」的な影響を受ける可能性を指摘する。「受験×探究」をコンセプトにした学習塾「知窓学舎」を運営する矢萩邦彦氏に、現代の教育現場が抱える問題点を聞いた。

「教育虐待」とは、子どもが主体でない状態のまま、親や教師など主導権のある大人の意向で学習を強要されることを指します。「勉強していい大学に入って、大企業に勤めるのが幸せなんだ」「お前は医学部に入ってうちの病院を継ぐんだ」など、経済的にも自立しておらず、決定権がない子どもに親や教師の一方的な価値観を押し付けて、納得しないままに受験勉強を強制させている状態です。

 普通の虐待も「しつけ」と思って行うケースが多いですが、教育の場合、親も子も「そういうものだ」と思いこんでしまい、価値観や方法、あるいは時期がその子どもの性質や成長段階とズレた場合に、虐待的な側面があることに無自覚なことが深刻化しやすい理由です。また大人だけでなく、特に進学校の場合、同級生の言動の影響も大きいです。今回の事件では、学校や塾など家庭外での影響が大きかったのではないかとも考えられます。

 もちろん、子どもが主体的に勉強するのを望んでいるのなら教育虐待の限りではありません。子どもの価値観は周囲の環境の影響を大いに受けます。高校受験以前の受験は多くは親の影響ですが、親子で話し合って子どもが心から受験したいと思っているのなら応援してあげるべきです。友達が受験するから自分もしたいと言い出すこともあるでしょう。ただ、一度『受験したい』と言っても、子どもの気持ちは変わりやすいもの。受験勉強が嫌になってしまっているのに『自分で言ったんだから最後までやり通しなさい』というのもあまり好ましい指導ではありません。

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