【花田優一コラム】コロナで直面、日本靴業界衰退の危機 職人が肌で感じた“窮状”

靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第1回は、新型コロナ禍で直面した日本靴業界の現状だ。

連載をスタートさせた花田優一【写真:荒川祐史】
連載をスタートさせた花田優一【写真:荒川祐史】

第1回は日本靴業界の現状、コロナ禍を乗り越えた先の未来とは

 靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第1回は、新型コロナ禍で直面した日本靴業界の現状だ。

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 恵比寿にある、今となっては珍しい喫煙可能なカフェで、時間に追われている人の流れを見ながら、この原稿を書いている。「夜の繁華街の滞在人口の減少」なんていうニュースは、至るところで目にするが、人の流れが少なくなった印象は、あまり受けない。

 幼い頃、親が僕を笑わせるために歌っていた、「ウーマンボウ!」という掛け声が、「Mambo No.5」という洋楽だったことは大人になって知った。その曲名さえ忘れてしまっていたが、この数年間のニュースの影響、でよく思い出すようになった。僕は、ほぼ毎日、千葉の自宅近くにある、昭和の雰囲気漂う居酒屋で、常連の重鎮達と世間話をしながら、夕飯を食べる。だいたい午後7時ごろにそのお店に入り、熱々のお手拭きを顔に乗せ、ふうっ、と1日の疲れを吐き出すのが、自営業の僕にとっての終業のルーティンだった。

 ただ、今となっては、もうそれはできない。お手拭きは、無機質なビニールの入れ物に入った、今にもちぎりたくなるような冷たいそれに変わった。

「お母さん、なんでこれに変わったの?」と聞くと

「おしぼり屋さんが潰れちゃったのよ」と寂しそうな顔で、お母さんは答えた。

 詳しく聞いていくと、飲食店も大変だけれどもっと大変なのは、おしぼり屋さんや酒屋さんなのよ、と教えてくれた。

 ニュースを見ているだけでは分かりづらい、深く長い痛みを感じている業種は、抱えきれないほどいるんだろう、と思う。

 約2年前、新型コロナウイルス、というものが初めてニュースになった頃、僕の仕事に影響するとは、思いもしなかった。

 僕は、さまざまな仕事をしていることが、面白おかしく書きたてられてしまうので、疑問に思う方もいるかもしれないが、日々靴作りに励む靴職人であることは、10代から変わりない。靴作りで得る収入が無くなれば、“食いっぱぐれる”僕にとって、靴業界の話題は死活問題なのだ。

 そもそも、“コロナ”も何もない平穏な日々の中でさえ、日本の靴業界というのは衰退の一途だった。成長しているスニーカーブランドなど、多少はあるのだが、職人も減少し、歴史ある日本の靴メーカーは縮小していた。その中で、一つの光だと思われていたのが、東京オリンピック2020だった。僕も大手広告代理店の方に相談されたのだが、MADE IN JAPANの靴の価値を世界に広めるチャンスだ、というお話だった。しかし、観光客は来なかった。そして、リモートで人は外を歩かなくなり、高価な消耗品と思われがちな革靴は消費されなくなった。

 コロナ禍で浅草の老舗靴メーカーも多く倒産したが、大きなニュースにならず深く危機感を覚えた。僕のような、オーダーメイドシューズ専門なら関係ない、と思う方もいるかもしれないが、そもそも人に会えない中で、新規の注文を受ける機会は格段に落ちてしまったのが現実だ。

 この先、日本靴業界が盛り上がって行くための、方法はまだあると思っている。それを今、書き記すわけではない。

 皆、家族がいて、自分の生活もある。家賃は払えるのか、遠くに住む両親に会いに行けるだろうか、心休めない日々の中で、必死にもがいているはずだ。突如現れた、新型コロナウイルスという邪魔者に、どんな業界も負けてはならない。

 この苦境の中にこそ、人の本質が見えるのではないかと信じている。僕も靴業界の1人として、数年後に、この経験があったから、日本靴業界は世界に負けない強さを得た、と言わせてやりたい。

 また再び、コロナ禍に後戻りしてしまったような憂鬱(ゆううつ)な今日この頃、私の小言を読んでもらえる場所をいただけたことに、感謝している。この連載が、少しでも読者の気晴らしになれば、これほどありがたいことはない。

□花田優一(はなだ・ゆういち)1995年9月27日、第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男として東京に生まれる。15歳で単身アメリカ留学。その後、18歳でイタリア・フィレンツェへ渡り、靴職人修業。2015年に帰国後、工房を構え、作品を作る日々を送る。靴職人としての活動の傍ら、タレント業、歌手活動なども行っている。

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