【Producers TODAY】紅白出場YOASOBI 出版Pが明かす関連書籍大ヒットの理由は“短尺”“デジタル融合”“アジア”

NHK「紅白歌合戦」に2年連続で出場する2人組音楽ユニット・YOASOBI(ヨアソビ)が、今年の紅白では歌詞の世界観に引き込まれる楽曲「群青」を披露する。また「特別企画」としてYOASOBI with ミドリーズで「ツバメ」を歌う。YOASOBIと言えば、恋愛ソング5曲の原作小説集「夜に駆ける YOASOBI小説集」や原作小説「大正浪漫」などの関連書籍が累計30万部を記録する大ヒットとなっている。「小説を音楽にする」という新しい取り組みで注目を集めるYOASOBI。活字離れが叫ばれて久しいなか、なぜYOASOBI本は売れ続けるのか。版元である双葉社(東京・新宿区)の編集局次長・統括編集長の出版プロデューサー・渡辺拓滋さんにYOASOBIが出版業界にもたらした変化を聞いた。渡辺さんは、同社でYOASOBI関連書籍のプロジェクトリーダーを務めている。

ヒットを続けるYOASOBI関連書籍【写真:(C)双葉社】
ヒットを続けるYOASOBI関連書籍【写真:(C)双葉社】

詞や曲の根底にある世界観やストーリーをファンに伝える

 NHK「紅白歌合戦」に2年連続で出場する2人組音楽ユニット・YOASOBI(ヨアソビ)が、今年の紅白では歌詞の世界観に引き込まれる楽曲「群青」を披露する。また「特別企画」としてYOASOBI with ミドリーズで「ツバメ」を歌う。YOASOBIと言えば、恋愛ソング5曲の原作小説集「夜に駆ける YOASOBI小説集」や原作小説「大正浪漫」などの関連書籍が累計30万部を記録する大ヒットとなっている。「小説を音楽にする」という新しい取り組みで注目を集めるYOASOBI。活字離れが叫ばれて久しいなか、なぜYOASOBI本は売れ続けるのか。版元である双葉社(東京・新宿区)の編集局次長・統括編集長の出版プロデューサー・渡辺拓滋さんにYOASOBIが出版業界にもたらした変化を聞いた。渡辺さんは、同社でYOASOBI関連書籍のプロジェクトリーダーを務めている。(取材・文=鄭孝俊)

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――ボーカロイドプロデューサー・Ayaseとシンガーソングライター・ikura(幾田りら)の2人組でデビューしたYOASOBIは、小説をもとに楽曲を制作する“小説を音楽にするユニット”として知られています。YOASOBI本の刊行で出版界に「音楽小説ジャンル」が誕生しましたが、なぜ「音楽小説」を手掛けようと考えたのですか?

「理由は大きく2つあります。1つ目は、TikTokから音楽のヒット曲が生まれる土壌がここ数年急速に進んでいて新しい才能を持つ一般の方々や10代、20代の若い世代のアーティストが音楽制作の場に参入しやすくなった。そして、そこにはしっかりとしたファンコミュニティーができています。また、現在の若い世代のアーティストの中には歌うだけでなく、作詞作曲やミュージックビデオ(以下、MV)制作と、すべてを自ら行う方々もおられ言語化能力も非常に高いため、当初より注目していました。そこで2019年頃から、そのような言語化能力も非常に高く自らのファンコミュニティーを持つアーティストと、出版社である私たちが持つストーリー作りや小説作りのノウハウを掛け合わせたら作品力の高い新ジャンルができ上がるのではないかと考えるようになりました。そうした中、私は20年春頃に“小説を音楽にする”という、さらにその先を行くスーパーユニットがデビューしていることを知り、いち早くYOASOBIさんサイドに楽曲の原作となる投稿小説を加筆する形で出版させていただけないかと提案しました。YOASOBIのお2人の歌と楽曲を初めて聴いたとき、小説出版との融合で今までにないビッグコンテンツが生まれるのは間違いないと直感したのを今でも鮮明に覚えています」

――音楽と小説の融合ですね。2つ目の理由は何でしょうか?

「デジタル系の音楽が急速にSNS上で拡散され、YouTube上ではMVの再生回数が伸びるなどヒットする一方で、ファンは音楽の詞や曲の根底にある世界観、あるいはストーリーをもっと深く知りたいのではないかと思ったからです。そこで、“音楽小説”という出版を通じてなら、それをより深くファンにお伝えできるのではないかと考えました。YOASOBIさんはまさに“小説を音楽にする”音楽ユニットとしてスタートされていたので、歌詞や楽曲の根底にある世界観やストーリーを描いた原作小説を出版すれば“音楽小説”という新しいジャンルが生まれると考え企画を進めさせていただきました。YOASOBIさんのおかげでYOASOBI恋愛ソング5曲の原作小説集『夜に駆ける YOASOBI小説集』や『大正浪漫』など、YOASOBI関連本は累計30万部を記録する大ヒットとなっております」

小説、音楽、アニメーションMVの3軸が新メディアミックス・モデル

――YOASOBIら新時代のアーティストが出てくるなか小説や出版、さらにストーリー作りの重要性をどう考えるべきでしょうか?

「映画やドラマなど小説が映像化されるメディアミックスの事例は今まで数多くありましたが、小説がきっかけとなってそれが音楽となり、また、アニメーションMVになるという3軸での新メディアミックス・モデルが、YOASOBIさんの活動や優秀なスタッフの皆様のプロデュース力を通じて初めてでき上がった意義は、音楽界にとっても出版界にとっても大きかったのではないでしょうか。小説を読んでから音楽を聴いたり、小説を読んでからアニメーションMVを見たり、音楽を聴いてから小説を読む、音楽を聴いてからアニメーションMVを見るなど、小説、音楽、アニメーションMVからなる3軸のどこからエントリーしてもコンテンツに触れられることが新しい動きですし、新時代のエンタメ・コンテンツ制作の革新となる新フォーマットになるのではないかと思っています。しかし、僭越(せんえつ)ながら出版業界に身を置く者としては、さまざまなエンタメ業界の皆様のお力添えをいただきながらも、時代は変わってもその原点やきっかけになるのは小説やストーリーでありたいと考えております。しっかりとしたストーリーがまずあって、その後、アーティストによる楽曲制作や、アニメ映像クリエイターによるMV制作のお力で最大限にクリエイティブ化され、さらには映像会社と組んでドラマ化、映画化されることで最高傑作のコンテンツができ上がるのではないかと信じております。自戒の意味も込めまして、すべてのスタートは私たち出版業界にあり続けられるように、今後も小説作りやストーリー作りにより尽力し初心に立ち返り勉強させていただきたいと思っております」

――双葉社刊行の原作小説集「夜に駆ける YOASOBI小説集」は文庫も含め20万部を記録する大ヒットとなり、YOASOBIのセカンドシングル「あの夢をなぞって」の原作「夢の雫と星の花」のコミカライズのほか、イラスト小説「ハルカと月の王子様」、原作小説「大正浪漫」も次々と出版されました。活字離れが進むなかヒットの理由をどう考えますか?

「すべてはYOASOBIさん、並びに優秀なスタッフの多大なるお力によるものだと思っております。また、各小説をご執筆いただきました小説家の皆様の作品のクオリティーが大変に高く、素晴らしかったからだと思い心より感謝しております。出版社の立場からベストセラーとなった理由を少しだけ分析させていただきますと、一連のYOASOBI関連本については編集DX(デジタルトランスフォーメーション)に成功したことが大きかったのではないでしょうか。具体的には3つの要因があると思います。1つ目は10代やZ世代の方々に対する戦略。大手ネット書店のアマゾンをはじめとするネット書店で1位をとることが編集DX的には重要だと考えました。そこで、弊社がYOASOBI関連本の告知のために作ったTwitter上で本の装丁ができ上がるまでのストーリーを紹介したり、本に派生するマグカップのキャラクターを毎日ドラマのように紹介したり、随時更新をしてファンを増やしていく施策を取りました。そして、そのTwitter上から自然な形でアマゾンやネット書店で本が買えるように導線を行い、すぐにご購入いただけるようにしました。SNSにもストーリーを作ってファンを巻き込む“ノンストップ型”で行った新しい売り方がアマゾンをはじめとするネット書店での1位につながり、さらにはリアル書店での爆発的な売り上げにもつながっていきました。弊社の営業部や宣伝部と一緒にチームプロジェクトを立ち上げ、みんなで協力し合い、最初からデジタルを視野に入れた流通販売戦略を行ったことが非常にうまくいったのだと思っています」

文字数に工夫 TikTokと同じ“短尺”という発想

――アナログとデジタルの融合が成功につながったのですね。

「はい、その通りだと思っています。続く2つ目は、小説の文字数の工夫です。TikTokの動画は当初60秒という短尺だったことで若者たちに受け入れられたと思いますが、小説も短いものの方が若い方々には最適なのではないかと考えました。小説は通常10万字や12万字、あるいはそれ以上ですが、『大正浪漫』は約8万字です。あえて短い文字数で出版したことが今の時代に合ったのではないかと思います。最後の3つ目は、テクノロジー。原作募集コンテスト『夜遊びコンテストvol.2』にて、大賞を受賞したNATSUMIさんの作品『大正ロマンス』が加筆されて『大正浪漫』という小説や楽曲となり、YOASOBIさんやスタッフの皆様すべてのお力で、そして楽曲とテクノロジーを掛け合わせることでVRミュージックビデオや街と関わる音声ARコラボといった領域にも広がっていきました。1つのストーリーからITテクノロジー領域までコラボが発展したのも今までの出版業界にはなかったことで大変勉強になりました。こうしたテクノロジーの領域にまでコンテンツが広がったことで、原作小説である『大正浪漫』を多くの方に知っていただく大きなきっかけとなりました。“『大正浪漫』とはどういったストーリーなのだろうか?”と新たに興味を持って本をたくさん手に取ってくださったのだと思っています。このように1つのストーリーが音楽やMVになり、さらにはITテクノロジーの進化によって世界的に注目されているメタバースの領域にまで届くようになっています。今後、仮想空間でのコンテンツ制作が出版業界でも急速に進んでいくのではないかと予想しています」

――グローバル市場に向けてはどのように取り組んでいますか?

「アニメーションMVと本の表紙のイラストレーションの世界観が同じということで、アジアや欧米の国々に浸透していくスピードがとても速くなっています。『夜に駆ける YOASOBI小説集』はすでに台湾で出版され、タイや韓国での発売も決定しています。また『大正浪漫』も台湾での出版が決まりました。YOASOBIさんがYouTubeで発表したアニメーションMVは海外でも多くのファンに視聴されていると耳にしております。今後、アニメーションMVに力を入れるアーティストが増えたことにより、海外翻訳出版は大きな売り上げにつながっていくのではないかと見ています」

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