芥川賞作家・羽田圭介「2022年は大作を書くしかない」 作家として追い求める信念とは

意識的に“初めての体験”を自分に課し、実践し続けると何が見えてくるのか――。芥川賞作家・羽田圭介(36)が、初体験をテーマにしたユニークな手法に取り組んだ。30代を迎え、これまでやったことのない物事をやってみる“初体験”を記録した異色のルポエッセイを上梓。挑戦心や生き方を聞いた。

羽田圭介が著書「三十代の初体験」を執筆した思いについて語った【写真:廣瀬久哉】
羽田圭介が著書「三十代の初体験」を執筆した思いについて語った【写真:廣瀬久哉】

直撃インタビュー “初めての体験”まとめた異色のルポエッセイを上梓

 意識的に“初めての体験”を自分に課し、実践し続けると何が見えてくるのか――。芥川賞作家・羽田圭介(36)が、初体験をテーマにしたユニークな手法に取り組んだ。30代を迎え、これまでやったことのない物事をやってみる“初体験”を記録した異色のルポエッセイを上梓。挑戦心や生き方を聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 17歳で小説家デビューし、29歳で芥川賞を受賞。31歳から34歳まで4年をかけて取り組んだ実体験をまとめた「三十代の初体験」(主婦と生活社)。ふくろうカフェ、十二単を着る、クリスマスケーキ作り、人間ドック、ブリ一本釣り、狩猟体験など、多岐にわたる。

「芥川賞を取って1年以上はたっていましたが、講演会等の仕事で、それまで行ったことのなかった地方に行かせてもらい、テレビでなければできないことをさせてもらえて、楽しかったのですが、経験の多様性の限度を感じました。お膳立てをしてもらう中での新しい経験と、生活の延長線上にあって自発的にやる新しい経験とでは、また違うなと。例えば、友人の何人かは20代後半からゴルフを始めていて、自分はやってない。そんな身近なことも本エッセイ執筆のきっかけの1つです」

 数にして70以上の“初体験”。「瞑想(めいそう)」は最近も継続して行ったり、「女子中高生向け映画を見る」経験では、興味のない作品等に対し決めつけだけで遠ざけず、寄り添って理解してみようと時折思える程度の寛容さを得たという。本書のあとがきには「人生の時間や集中力は有限だから、なにかを深くやり遂げたいのであれば、選ばなくてはならない」とある。人生の尺度という視点で、“残り時間”を考えたということなのか。

「僕は元々生き急いでいるほうです。高校生のうちに小説家デビューしなければと思っていましたし、暇な日にぼーっと過ごすことができないタイプです。ただ、20代は貧乏もぜいたくもしていませんが、変わった体験をあまりしてこなかったな、と振り返りまして。それを取り戻しつつ、追い越すかのように『いろいろやんなきゃ』と。強迫観念みたいなものです」

 コンスタントに作品を発表するだけでなく、様々なメディアで見せる、率直で飾らない姿は「それぞれの媒体において本業じゃない人の正直さなんじゃないですか」というが、小説家以外の活動をどう考えるのか。

「小説を書くことが一番得意だから書く、というモードでは基本的にいますが、それもちょくちょく変わります。テレビの仕事で地方に行って、僕の本なんかまるで興味ないという人と会うことがあります。まあ、人口に占める読書率からしたらそれが普通なんですけどね。それに昨冬に2年ぶりに大阪・東京で行ったサイン会で、テレビの感想だけを言ってくる人たちも10人くらいいた。でも、その人たちは、僕の小説には表われない僕のなにかをよく思ってくれているのかな、と。自分が思っている自分と、他者が思っている自分はちょっと違う。僕が意図していないなにかを支持してくれて、本まで手にとってくれたのであれば、まあそれも有りかなと思いました」

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