「トリック」「SPEC」ヒットメーカー堤幸彦監督が抱くコンプレックス、50作目の矜持

堤幸彦監督と「truth」をプロデュースした広山詞葉【写真:ENCOUNT編集部】
堤幸彦監督と「truth」をプロデュースした広山詞葉【写真:ENCOUNT編集部】

森田芳光監督からチャンスもらう「もともとテレビ、映画が好きだったわけでもない」

 やがて、秋元康氏、サザンオールスターズとの出会いがある中、1988年に森田芳光プロデュースのオムニバス映画「バカヤロー!私、怒ってます」の第4話「英語がなんだ」で映画監督デビューする。

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「もともとテレビ、映画が好きだったわけでもない。演劇なんか見たこともない。そこからテレビの仕事を始め、一生バラエティーから抜け出すことはできないだろうと思っていたら、森田芳光監督にチャンスをいただいた」。

 以降、映画では感動作、ベストセラー、コミック原作、オリジナル、SF、人間ドラマなど多種多様なジャンルを撮ってきた。

「『バカヤロー!』から『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97)までひとくくりですかね。その間も、オノ・ヨーコ主演の『HOMELESS』、『中指姫』、緒形拳さん主演の『さよならニッポン! 南の島の独立宣言』などは今じゃ見ることも難しいですが、自分なりのエンターテインメントを目指していた。以降は『ケイゾク』『トリック』『SPEC』といった作品群。原作モノでは『20世紀少年』も忘れられない。どれも同じと思われるかもしれませんが、毎回、自分の立脚点を決めて撮っていますので、毎回、疲れる。この疾走感と疲労感こそが作品なんだと思っています」

 演出の範囲はドラマ、バラエティー、ミュージックビデオ、舞台と幅広いが映画には特別な思いがある。「いろいろと手を出したのは、自分が素人だからじゃないですかね。給料3万円の地獄のAD生活から始まって、サザンオールスターズも秋元康さんも自由だなと思ったり、その悔しさとコンプレックスがあるから、貪欲になれた。今も、暇になって行くのは映画館。シニア料金で見られるけど、一般料金で観ている。それは作り手に少しでも還元したいという気持ち。毎回、何を観ても敵わないなと思います。『DUNE/デューン 砂の惑星』すげえな、『エターナルズ』すげえな、と。イーストウッドやポン・ジュノさんみたいな画を作りたいなと強く思っています」。

 制作会社「株式会社オフィスクレッシェンド」取締役で、経営陣のひとりでもある堤監督はコロナ禍のエンタメ界をどう感じたのか。

「業界には生きていくためのセーフティネットがない。体質に大きな問題があるとは思う。僕が大切に思っているのは、一緒に作品を作ってきてくれた仲間たち。助監督さん、記録さん、衣装さん、役者さんたちに働く場を提供できないと、リーダー失格だなと思っています。今後もコロナの第6波もくるだろうし、そうなってもいいように体力をつけておかないといけない。それは日本社会のテーマでもあると思います」

「truth」では、プロデューサーを務めた女優から監督料の支払いもあったが、「映画に使って欲しい」とそのまま返した、という心意気も見せた。

「『truth』では、いろんな新たな出会いがあった。何よりも、その道を開いてくれたのが女優たちであったという意味は大きい。自分の人生にとっても大きな出来事で、あらゆることに対し自由でないといけないと思った。50本、1作1作必死だったし、自分の本音と作品が一致したもの作りをしないといけないと、本当にあがいてきたが、精神と肉体が一致したのは少人数スタッフとともに2日間で撮った『truth』だった。これは皮肉でもあるし、神の采配とでも言いましょうか。大事なのはいままでではなく、これから。これを第二の出発点にしたいと思っています」

 今後はレジェンド・ロックのドキュメンタリーなど新たなプロジェクトは動き出している。

□堤幸彦(つつみ・ゆきひこ)1955年11月3日、愛知県出身。数多くの人気TVドラマや映画、舞台等を手掛ける。2015年には 『イニシエーション・ラブ』と『天空の蜂』では報知映画賞監督賞を受賞した。

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