最高裁国民審査、全員に「×」つける“無言の抗議”の効果は? 専門家に聞いた
衆院選挙とともに31日に投票が行われた最高裁判所裁判官の国民審査は、対象になった11人の裁判官全員が信任された。戦後に導入されてから今回まで、国民審査で罷免となった裁判官は1人もおらず、制度の形骸化も指摘されて久しい。中には、制度そのものへの異議の意思表示としてすべての裁判官に「×」をつけたという人もいるが、効果的なのだろうか。専門家に聞いた。
制度が導入されてから今回まで罷免となった裁判官は1人も出ていない
衆院選挙とともに31日に投票が行われた最高裁判所裁判官の国民審査は、対象になった11人の裁判官全員が信任された。戦後に導入されてから今回まで、国民審査で罷免となった裁判官は1人もおらず、制度の形骸化も指摘されて久しい。中には、制度そのものへの異議の意思表示としてすべての裁判官に「×」をつけたという人もいるが、効果的なのだろうか。専門家に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
国民審査について、総務省のホームページでは「既に任命されている最高裁判所の裁判官が、その職責にふさわしい者かどうかを国民が審査する解職の制度であり、国民主権の観点から重要な意義を持つもの」とその意義を説明している。
一方、1949年に制度が導入されてから今回まで、25回の国民審査で罷免となった裁判官は1人も出ていない。過去に不信任票の割合が最も多かった72年審査の下田武三裁判官でさえ、その割合は15.17%に留まっており、その形骸化も指摘されている。
「戦前に司法の独立性が弱く、うまく機能しなかった反省から最高裁を独立した機関としたが、反面、今度は司法が暴走することのないようにチェックするためにできたのが国民審査制度です。ただ、専門的な知識や関心のない国民に審査を委ねることには当時から反対の声も強く、その議論は今に至るまで続いています」
裁判所行政に詳しい明治大学の西川伸一教授は、制度導入の経緯についてそう説明する。白票が信任票になるという現行の仕組みには、実は時代的な背景が関係しているという。
「戦後直後でまだ紙が貴重だった時代。最初は総選挙の投票用紙の裏の余白に罷免させたい裁判官の名前を書く方式が提案されましたが、対象となる裁判官が10人以上もいてスペースがない。そこで名前の上に『×』をつける現行の方式が採用されました。投票用紙の文言は70年以上たった今も変わっていません」(西川教授)
白票が信任とされる一方、個別の裁判官に対して棄権ができないというこの方式は度々問題視され、70年代の司法危機では○×式への変更の機運が高まったが、時の自民党政権と最高裁の反発が強く実を結ばなかった歴史がある。