岩崎宏美、デビュー当時に叱られた野口五郎 最近は「『ゴロリン』と呼ばせていただいて(笑)」
生涯でおよそ3000曲を作曲し、シングル盤の総売り上げ枚数は歴代1位の7560万枚――。稀代の作曲家・筒美京平さんが他界したのは2020年10月7日のこと。そのヒットメーカーに殊の外愛された歌姫が74曲もの作品を提供された岩崎宏美だった。デビュー曲「二重唱(デュエット)」(1975年)以来、多くの筒美作品をヒットさせた岩崎は、恩師の没後1年となる10月20日に自ら監修・選曲を手がけた「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」をリリース。11月には筒美さんから最も多くの作品を提供された野口五郎とのデュエット曲「好きだなんて言えなかった」の発売を控えるなど、精力的な活動を展開している。その岩崎が恩師・筒美さんとの思い出や、今後の活動について語ってくれた。
恩師との思い出語る ダブルのスーツでスタジオに現れるおしゃれな京平先生
生涯でおよそ3000曲を作曲し、シングル盤の総売り上げ枚数は歴代1位の7560万枚――。稀代の作曲家・筒美京平さんが他界したのは2020年10月7日のこと。そのヒットメーカーに殊の外愛された歌姫が74曲もの作品を提供された岩崎宏美だった。デビュー曲「二重唱(デュエット)」(1975年)以来、多くの筒美作品をヒットさせた岩崎は、恩師の没後1年となる10月20日に自ら監修・選曲を手がけた「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」をリリース。11月には筒美さんから最も多くの作品を提供された野口五郎とのデュエット曲「好きだなんて言えなかった」の発売を控えるなど、精力的な活動を展開している。その岩崎が恩師・筒美さんとの思い出や、今後の活動について語ってくれた。(取材・文=濱口英樹)
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歌手になる前から筒美京平先生の曲は大好きでした。「この歌、いいな」と思って、芸能誌の歌本を見ると「作曲:筒美京平」と書かれていることが多くて。そのころの私は南沙織さんや小林麻美さんの歌を好んで聴いていたのですが、そのほとんどが先生の曲。ですから、デビュー曲「二重唱(デュエット)」の作曲が筒美京平だと知ったときはうれしかった! 自分はなんて強運なのだろうと思いましたね。
その筒美先生は物腰が柔らかくて、語り口も穏やか。私に対しても常に敬語をお使いになる方でした。デビュー曲のレコーディングで先生から言われた2つのことは今でも胸に残っています。1つは「将来、高音を褒められるかもしれないけれど、あなたの良さは中低音であることを忘れないでね」、もう1つは「リズム感が甘いところがあるから、これからはリズムのある曲を聞いた方がいいよ」ということ。最近の私は自分の声の中低音が好きなのですが、先生はそれを予見なさっていたのかなぁと今になって思います。
その後もたくさんの曲を書いていただいて、レコーディングにも毎回のように来てくださいました。私の記憶の中の先生はいつもダブルのスーツをお召しになっていて、靴は茶色の舶来品。やはり茶色のアタッシュケースの中に譜面を入れて持ち歩くおしゃれな方でした。
うれしかったのはシングルだけでなく、アルバムにもすてきな曲をたくさん書いてくださったこと。1978年にリリースした「パンドラの小箱」というアルバムは全曲が筒美先生の作品なのですが、ディスコサウンド中心で今聞いてもカッコいい! 最近ではお笑いコンビのダイノジさんが「今こそサブスクで岩崎宏美のディスコナンバーを聞くべき。そうしたらそのすごさが分かるから」と推薦してくださっています。
筒美先生はもう1枚、「WISH」(80年)というアルバムでも全曲を手がけてくださいました。このときはロサンゼルスで録音をしたのですが、普段はスーツ姿の先生が、現地では珍しくカジュアルな格好をされていたのが印象に残っています。ちょうどそのころ、先生は運転免許を取られたばかり。私も同時期に教習所に通っていたものですから、車や運転のことで話が弾みました。でも会話の中で先生は「運転って難しいよね。気を付けないと、ギアがバックに入っちゃったりするじゃない」って。それを聞いて「そんなことはないのになぁ。もしかして運転は苦手なのかしら」と思ったこともありました。
先生の訃報は病院にいるときに知りました。診察中はスマホをずっと切っていたのですが、会計待ちのときに見たら、速報が表示されて。その瞬間、手が震えて涙があふれてきました。たぶん肩も震えていたので、周りの人には重い病気であることを医者に宣告された人のように見えたかもしれません。お会計を済ませて、駐車場に行った後も涙が止まらなくて、しばらく車を出せなかったですね。
最後にお目にかかったのは10年ほど前。青山のスポーツクラブでしたが、一昨年、先生がほかの方に書かれた曲をカバーしたアルバム「Dear Friends VIII~筒美京平トリビュート」(2019年)をリリースしたときは「宏美さんらしく丁寧に歌ってくれて心に染みた。原曲のアレンジをあまり変えずに歌ってくれたのもうれしかった」というメッセージを寄せてくださって。