東出昌大、心を病んだ男で主演「苦しい境遇にある方の肩の荷が下ろせるようなものに」

“俳優業”について語った東出昌大【写真:ENCOUNT編集部】
“俳優業”について語った東出昌大【写真:ENCOUNT編集部】

俳優生活は今年で10年「すごくありがたい職業だと思っている」

 映画では原作にはない、和雄がある決意をする描写が物語の大きなキー。劇中では編集で短くなっているが、実際には13分間の長回し撮影を行った。「その前に、監督と外を歩きながら、今までの撮影の日々を振り返りながら、『あの人にも感謝したいし、これまでもいっぱいいいこともありましたよね』と話してから撮影に臨みました。あの場面では、一連の動作を長回しでやってみようということになったんです。カットの声がかかって、現場はものすごい空気だったので、僕は明るく振る舞ったんですけど、『こいつ大丈夫か』って見られたので、暗く入り込んでも、明るく振る舞っても、どっちもどっちだなと思ったりしました(笑)」。

 出来上がった和雄という人物には自身ではどんなふうに見えたのか。「思っていた以上に、病んでいる和雄が自分勝手な男に見えて、驚きました(笑)。もちろん、大衆受けする演出は一つもなかったのですが、監督は本当になにか一石を投じるつもりで作られたんだなと思い、目を見張るものがありました」。

 2012年8月、吉田大八監督の代表作となった映画「桐島、部活やめるってよ」で俳優デビュー。以来、数々の名匠からの指名がかかる東出。「基本的には映画は監督のものだと思っていて、役者は監督の演出に応えられることが大事だと思っています。監督の中には、役者が作り込んでくるのを嫌う人もいますが、斎藤監督はどちらかというと、役に入り込むことを期待してらっしゃると感じました。撮影はほぼ順撮りで、ラストシーンを最後に撮りました。僕の表情を見て、監督がうれしそうにしているのを見て、これでよかったんだ、とホッとしました」と胸をなでおろす。

 俳優生活は今年で10年だが、どんな役でも難しさはあるという。「役の中には素敵なセリフを言ったり、ステキなシチュエーションの中で、良い行動を起こす人など人間的な魅力のある役はたくさんあります。本当に自分はそうじゃなくても、役の上ではやらせていただくこともできます。例えば、羽生善治先生の将棋の力は得られないわけですが、役として演じることができる(※東出は映画『聖の青春』で羽生を演じている)。すごくありがたい職業だと思っています」。

 誤解を恐れずに書くと、東出は変幻自在なカメレオン俳優ではない。ただ、どんな役に対しても熱情を持って、真面目に取り組み、それが結実した役ではその人物に血を巡らせ、生き生きとさせる。問題を抱えながらも、ひたすらランニングを続ける本作の主人公の姿は、今の東出の姿とどこか重なる部分もあるように見えた。今後も、映画でさまざまな人物を見せてほしい。

□東出昌大(ひがしで・まさひろ)1988年2月1日、埼玉県出身。モデルとして活躍後、2012年、「桐島、部活やめるってよ」で俳優デビュー。本作で第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。主演を務めた「寝ても覚めても」は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されるなど国内外で高い評価を受けた。第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した「スパイの妻」では主人公夫婦を追い詰める憲兵役を演じる。他の主な映画出演作に「アオハライド」「聖の青春」「菊とギロチン」「パンク侍、斬られて候」「おらおらでひとりいぐも」「BLUE/ブルー」など。

ヘアメイク:Taro Yoshida
スタイリスト:及川泰亮

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