朝倉未来は世界に通用するのか 萩原京平戦の苦戦で見えた課題と光明をひも解く

得意のマジカルチョークで内藤を秒殺した渡部修斗【写真:(C)RIZIN FF】
得意のマジカルチョークで内藤を秒殺した渡部修斗【写真:(C)RIZIN FF】

渡部修斗が五輪銀メダリスト・太田忍と闘いたい理由

 ちなみに今回は、メインに迎えるまでの3試合がどれもが1Rで決着とサクサク進んでいったおかげで、開始前の配信トラブルは「見る側」にとっては精神的に緩和されたし、結果としてはメインがフルラウンドまで至っても、そこまでの窮屈さを感じることはなかった。

 まず第1試合に登場した渡部修斗は、当初予定されていたGRACHANバンタム級王者の伊藤空也が新型コロナウイルスの陽性反応が出たため、試合の10日前に対戦相手が内藤頌貴に変更になったという経緯があった。

 試合翌日に渡部に確認したところ、そうでなくとも新イベントの第1試合を任されたプレッシャーと不安から、「できるなら試合がもっと遅れればいいのに」と感じるほどだったという。

 試合は1Rで得意のダースチョーク(マジカルチョーク)が決まり、無事に大役を果たすことに成功したが、試合後のマイクを使って公開した、自身の「大みそか出場」、「できれば彼女(青野ひかる)のRIZIN参戦」、できれば今後の対戦相手に「オリンピックレスラーを」という、見方によっては欲張りなアピールも、「言わなければ始まらないので」との見解だった。

 それだけ今回の試合の開放感から解き放たれた結果と言えばそうなのだが、自身の話はともかく、「彼女のRIZIN参戦」は話が違うのではないか。そう思った方も少なからずいたのではないだろうか。

 確かに青野は「DEEP JEWELS」で開催されたアトム級トーナメントで準優勝を果たしている。優勝した大島紗緒里が「RIZIN.31」(10月24日、ぴあアリーナMM)での浅倉カンナ戦が決定しているため、青野のRIZIN参戦も、もしかしたら秒読みに入っている可能性はあるが、渡部によれば、青野は「渡部修斗のオマケ」でのRIZIN参戦は嫌がっているという。

 それでも渡部は「僕が父親(元修斗ウエルター級王者の渡部優一)を背負って出ているように、彼女にも僕を背負って出てほしい」といった、聞きようによっては不思議な見解を述べる。

 ともあれ、RIZINに限っては生半可な気持ちでリングに立つと、思わぬしっぺ返しを食らう場面を何度か目撃してきただけに、もし今後、青野のRIZIN参戦が決まった際には、それ相応の覚悟を持ってリングに立つことが賢明だろう。

 さらに渡部が口にした、「オリンピックレスラー」との対戦に関して。
 
 これはもちろん2016年のリオ五輪レスリンググレコローマンスタイル59キロ級の銀メダリスト・太田忍を指している。見方によっては両者のMMAにおける実績が違う(渡部のほうが上)ため、「楽な相手を選んでいる」といった声も上がっているが、高校時代にレスリングで五輪を目指しながら、「五輪どころか、ようやく全国大会に出場できたレベル」の渡部からすれば、太田忍のレスリングにおける実績は、「人間なの? 生物なの?」と驚くくらい「月と虫ケラ」(渡部)の差が存在しているという。

 だからこそ渡部は、「自分の得意なレスリングで完封されるかもしれないけど、挑戦してみたい」と心を躍らせる。つまりこれ以上ないほどのリスペクトをしまくっているからこそ、太田忍と相対したいのである。

 果たしてその想いがRIZINや太田忍本人、そして「見る側」にどれだけ届いて機運が高まっていくのか否か。その点には今後も注目していきたい。

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