藤井聡太3冠に急所はあるのか!? 真田圭一八段が分析する藤井将棋の敗局に見られる傾向

真田圭一八段の近著「矢倉の手筋」で藤井3冠得意の戦法を扱った
真田圭一八段の近著「矢倉の手筋」で藤井3冠得意の戦法を扱った

秒読みになれば藤井3冠と言えど、ミスが出やすくなる

 序盤でリードを奪えれば最高。互角で中盤に移行した場合、攻撃的にリードを奪いにいく。だがそれでも悪手をなかなか指さない藤井3冠相手となると、ギリギリの攻防で難解なまま終盤にもつれ込むことも想定しなければならない。

 本来、終盤は藤井3冠の最も得意とする分野。だが終盤はこちらにもよりどころはある。終盤は、お互いの玉を巡る攻防になってくるので、論理的な最善手が導き出されやすくなる。つまり、相手が藤井3冠であるという要素より、局面での最善手を希求することに重きを置くことで乗り切れる可能性が出てくる。

 ただし、それもわずかでもこちらが有利になれば、の話だ。それはなかなか許してくれず、難解なまま終盤も進行する可能性も高いだろう。その場合、お互いに持ち時間を使いきり、秒読みになってくる。秒読みになれば藤井3冠と言えど、ミスも出やすくなる。過去の敗局にもある傾向だ。

 だが、これは藤井3冠の弱点というわけではない。棋士なら誰でも、長時間戦った末の秒読み戦では心身共に疲労困憊(こんぱい)で、正確な指し手を積み重ねるのは難しい。藤井3冠でも間違えやすい秒読み戦は、こちら側も同条件であるということだ。自分は秒読みでも間違えず、藤井3冠のミスを待つ。かなりの高難度であることは間違いない。

 こうして考えてみると、藤井3冠の弱点をあぶり出すつもりが、逆に揺るぎない強さを実感するような結果となった。当然ながら、天才羽生九段を上回るような勝率をたたきだしているのは確固とした理由があるからで、その対策が容易ならざるものであるのもまた当然だ。

 最後に、少し視点を変えて、長期的に考えるとどうだろう。前述の通り、羽生九段は7冠王達成後、10年後ぐらいにはその技術が棋士全体に吸収可能になるまで解析された。藤井3冠も、まだまだ技術的な追随は許さないだろう。だが、藤井3冠自身が学んでいる高性能な将棋ソフトからは、彼を追う若手たちも吸収可能だ。情報の解析・吸収スピードが羽生九段の時代より速くなっている今、藤井3冠の技術もまた、いつしか吸収され、長所でなくなる日がくるかも知れない。それが、例えば5年後かも知れないし、10年以上追随を許さないかも知れない。

 藤井3冠の才能の金脈の底がまだまだ見えない今、それは誰にも分からない。それまでは、難しい戦いを、それでもなんとかしようとする棋士達の魂で藤井3冠に立ち向かっていくしかない。藤井3冠の天下が近づきつつある今、彼に立ち向かう棋士の姿も含めて、ファンの皆さまには楽しんでいただければと思う。

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