パラ閉会式や半沢直樹でも登場 創業70年の老舗ラーメン店がロケ地に使われるワケ
ロケ地としての人気の秘けつは“縁起のよさ”
ロケ地としての人気の秘けつは何なのか。
70年前から変わっていない店の雰囲気は大きな理由の1つ。だが、それだけではない。
福寿での撮影は業界にとってのゲン担ぎのようになっているという。「ウチでやるとみんないい視聴率というか、ヒットする。あとから言われる」と小林さん。写真を撮って本を売れば「異例に売れる」こともあった。神社に例えるなら、まるで出世や成功の神様のよう。カメラマンの間では特に有名で、「みんなつながっている。御用達なんだもん」と、広く知られるようになった。
店主の気さくな人柄も人を引き付ける。「なんでラーメン屋やってるか知ってる? 売るほどあるから」「知らない人には縄文時代からやってるんだよって言う」「場末のラーメン屋までありがとうございました」。初対面の客であっても、軽快な口調で冗談がポンポン口をつく。
芸能界との長い付き合いの中で、意外なお誘いもあった。ある民放からはコメンテーターとしての出演を打診されたこともある。さらに「もっとすごいのはどこかの衆院議員が『俺の地盤を譲るから議員になってくれ』って」。
それでも、ラーメン作り一筋で、のれんを守ってきた。
押し寄せるの時代の波。かつては出前だけで10人を雇うほど繁盛し、1つの会社に100杯届けることもあったが、現在は小林さん1人で切り盛りしている。営業時間は午前11時半ごろから、そばが売り切れるまでの昼のみ。定休日は火曜だけで、土日も営業。79歳にして、週6日出勤のハードワーカーだ。「ガールフレンドはいっぱいいるのに、週1だからデートしきれなくて困ってる」とおどけた。
もうすぐ80歳。将来はどのように考えているのだろうか。
「将来なんてあるわけないじゃない。80なのにさ。もうすぐ死ぬからもうすぐ終わりだと思う。生涯があと何か月、何日かもしれない。明日倒れるかもしれない。もう隠居する歳だよ。ワシントン条約じゃないけど、絶滅危惧種ってあるじゃない。たぶん、絶滅危惧種に指定されてるんじゃないかね」
哀愁をにじませつつも、生涯現役を掲げ、血気盛ん。たまにの撮影は“絶滅危惧種の保護”にも一役買っているようだ。
若かりし頃のタモリは来店した際、「日本一のラーメンください」と言った。スープを飲み干すと、丼の底に「日本一」の文字が見える。カウンターを囲む「天人常光満」の文字には、「天人が常に満ちあふれるように」の意味が込められている。客もロケで関わる人も、すべてが幸せになれる場所。それが、福寿が今もなお、存在し続ける理由だろう。