伝統の「いかめし」守る女性社長 レポーターとの“二足のわらじ”は「どちらも本業」
日本中に愛される名物駅弁「いかめし弁当」。職人による丁寧な実演販売にこだわり、出店する物産展では常に人気を集め続ける駅弁界のトップランナーだ。大人気のいかめしを販売する株式会社いかめし阿部商店の3代目を務めるのは今井麻椰さん。2019年に29歳の若さで社長に就任した彼女は、バスケットボールのレポーター・MCとしての顔も持つ“二足のわらじ”で話題を呼んだ。今井さんに社長就任のきっかけや転機、これからの展望について聞くと、若手女性社長ならではの意外な苦悩も見えてきた。
「いかめし弁当」で有名な阿部商店 3代目社長の今井麻椰さんにインタビュー
日本中に愛される名物駅弁「いかめし弁当」。職人による丁寧な実演販売にこだわり、出店する物産展では常に人気を集め続ける駅弁界のトップランナーだ。大人気のいかめしを販売する株式会社いかめし阿部商店の3代目を務めるのは今井麻椰さん。2019年に29歳の若さで社長に就任した彼女は、バスケットボールのレポーター・MCとしての顔も持つ“二足のわらじ”で話題を呼んだ。今井さんに社長就任のきっかけや転機、これからの展望について聞くと、若手女性社長ならではの意外な苦悩も見えてきた。(取材・構成=安藤かなみ)
父が高齢になり、いかめし屋を会社ごと売るという選択肢があったみたいですが、自分を育ててくれたものを手放すのがイヤで、「私がやる!」と言い出したことがきっかけで社長に就任しました。それまでは、「私もいつか社員になるのかな」と漠然と考えてはいましたが、自分が代表取締役になるとは予想していませんでした。
経営面について全く知らない状態からスタートし、今でも常に驚きの連続です。例えるなら「あいうえお」の書き方から勉強している感じ。簿記をちゃんと勉強しておけばよかったと今さらながらに思っています。父からは「女がやる世界じゃない」とずっと言われていました。駅弁業界も水産業界も男性ばかり。同年代の方も、女性の方もほとんどいません。でも、私がやるしかない。宿命だったんですね。
就任する決心がつく前に、いかめし屋の看板娘としてメディアにたくさん取り上げていただきました。その時点で「社長になっている」と思われていて……。ここで継がなかったら、「いかめしのために娘を出して」「売名だ」と言われてしまう。テレビだけではないところを見せていくべきだと今でも思っています。
大学卒業後、カナダへの留学中に転機が訪れました。ちょうどアメリカの日本食スーパーで開催される北海道フェアに阿部商店が出店することになり、父から「やってみる?」と打診されました。2週間弱のイベントを任されることになりましたが、当時は日常会話レベルの英語すらも話せなかったですし、今思えば「アメリカに行きたい」という遊び感覚だったと思います。
現場では朝の5時から仕込みをして、開店まで休みなく準備をしました。他の出店は北海道から来ている人たちで、英語は全く分からない。でも、バイトは現地で雇っているので、英語しかしゃべれない学生ばかりでした。日本語を一生懸命話してくれようとするけど、こちらのつたない英語とあいまって、現場はぐちゃぐちゃ(笑)。アメリカではフライが売れるので、いかめしコロッケを持っていきましたが、揚げる作業もすべて私がやりました。いかめしを作る職人は来てくれたけど、私は販売もしないといけない。揚げて、売って、バイトに指示をして……。もうぼろぼろになって、夜は泣きながら親に電話をしていましたね。
でも、今あらためて考えればすべて当たり前の仕事。当時は何も知らないいかめしの世界で、しかもアメリカ。自分でどんどんアピールしなくてはいけない状況で、試食を勧めたり、味の説明をしたり。現地の方は賛否両論で、はっきりとNOと言う方もいれば、気に入って次の日も買いに来てくれる方もいて、自分の言葉で伝えることの大切さを知りました。私がやりたいことを見つけた、忘れられない2週間です。