K-POPはなぜ世界を熱くするのか 著者「10年後も国境や国籍関係なく広がる」
アイドルの心身サポートやキャリア形成も大切
――K-POPの周辺ではさまざまな新しい現象が生まれているわけですね。世界的人気を背景にK-POPアイドルはますます多忙を極めるかもしれません。
「活動がテレビ中心の時代は、カメラの前だけでアイドルを演じていればよかったのですが、SNS時代の今はアイドルとリアル、両方を見せていくことが求められます。幼い年齢でアイドルになると失敗が許されず世の中からは完全を求められる。傷ついて心身の不調を訴えるアイドルもたくさんいますから、体調管理やカウンセリングなど事務所側のサポートが大切です。アイドルの側も、男性の場合なら兵役が終わった後にアイドル以外の生き方、新しいキャリアの立て方を目指してみてもいいのではないでしょうか。アイドルが次の世界へと羽ばたいて行けるよう事務所側には気を配ってもらいたいです」
気になるK-POPのMVを3本紹介
――最近、気になっているK-POPのミュージックビデオを教えてください。
★「FIRST」/EVERGLOW
「バンドHYUKOHのクリエイティブを手がけているDADAISMのハン・ダソムさんがクリエイティブディレクションを手がけ、フォトグラファーも若手ながらPRADAの広告などを撮影しているチョ・ギソクさんが担当していました。こうしたアンダーグラウンドで注目される若手が活躍しているのがK-POPの面白いところですし、結果としてかっこいい作品になっててしびれました。通常アイドルのMVというとダンスシーンとリップシンク(顔のアップ)シーンをつなぎ合わせることが多いのですが、これはパフォーマンスのみでつないでいて顔のアップもキメの顔を作りにくいパフォーマンス中のみなのも思い切っていてすごいなと」
★「Lock Down」/EPEX
「シンプルに映像がカッコいい。こういうことをメジャーシーンのアイドルがやってるってことがやっぱりすごい。今年デビューしたばかりのグループで、最初は軽い気持ちで1回MVを見てみたらすごくラップもうまくて目が離せなくなりました」
★「WE GO」/fromis_9
「コロナ禍のサマーソングってどうなるんだろうと思ってたけど、海外やビーチシーンを全部合成で乗り切る妄想旅行っていうコンセプトがかわいかったです。オンライン時代だからこその要素を逆手にとって楽しい感じに仕上げてて、最高でした」
――最後にこの本をどんな人に読んでほしいですか?
「K-POPってテレビや雑誌ではなくて、SNSをはじめとするニューメディアを介してファンダムを確立してきたからこそ、SNSをあまり利用していない人たちからするとなんだか突然テレビに出始めたとか、本当に報道されるほど人気なの? って感覚になるのだと思っています。とくに20年を境にもともとアイドルファンじゃなかったような人たちもファンになるケースが増えたように感じます。そうしたK-POPが騒がれているけど結局なんなの? って人とか、コロナをきっかけに韓国のコンテンツに触れるようになった人たちにとって、K-POPがどういった要素で成り立っているのか分かりやすい内容になったのではないかと思います。またK-POPがニューメディアを介して行ってきた施策というのは、他の分野のビジネスマンにとっても多くのヒントがあると思っているので、そういったビジネスの側面で興味がある方にも手にとっていただけたらうれしいです」
□田中絵里菜(たなか・えりな)1989年、埼玉県出身。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン・編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで撮影コーディネートや執筆を始める。20年に帰国してから、現在はフリーランスのデザイナー、ライターとして活動中。