腸内細菌に魅せられたサッカー選手 元浦和レッズ・鈴木啓太が臨む経営者としての挑戦

元サッカー日本代表で、16年間Jリーグ・浦和レッズ一筋を貫いた鈴木啓太氏(39)。現役最終年の2015年に実業家として起業、現在は腸内細菌を研究する企業「AuB」の代表取締役として、資金調達や検体集めに奔走する日々を送る。日本代表まで登りつめたサッカー選手は、なぜ腸内細菌に魅せられたのか。ユニホームを脱いだ鈴木氏に聞いた。

インタビューに応じる鈴木氏【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じる鈴木氏【写真:ENCOUNT編集部】

監督に怒られ胃潰瘍になったことも…“健康マニア”の母きっかけで腸に興味

 元サッカー日本代表で、16年間Jリーグ・浦和レッズ一筋を貫いた鈴木啓太氏(39)。現役最終年の2015年に実業家として起業、現在は腸内細菌を研究する企業「AuB」の代表取締役として、資金調達や検体集めに奔走する日々を送る。日本代表まで登りつめたサッカー選手は、なぜ腸内細菌に魅せられたのか。ユニホームを脱いだ鈴木氏に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 鈴木氏が「腸内細菌」という言葉を初めて知ったのは高校生のとき。母から腸内細菌の入ったサプリメントを勧められたのがきっかけだ。ビタミンやプロテインなど、栄養学の基礎知識はスポーツ界でも一般的だったが、腸内細菌が健康状態に影響するという考えは当時ほとんど知られていなかったという。

「漢字で書けばともかく、『チョーナイサイキン』って読みだけじゃ何のことか分からない。変な宗教でもやってるんじゃないかとか思われるのが嫌で、周りのチームメートにはずっと隠してましたね(笑)。調理師だった母は、今でいうところの健康マニア。『人間は腸が一番大事』『毎日ウンチを見なさい』と幼い頃から言われて育った。まあ、ある種の洗脳ですよね、ハハハ」

 プロ入り後もコンディションを整えるためにさまざまなケアを行ってきたが、特に効果的だったというのが腸を整えるケア。冷たいスポーツドリンクのあとに温かい飲み物を取ったり、ときに腹部におきゅうをしたりといったケアを続けた結果、2004年アテネ五輪アジア最終予選のUAEラウンドでは、代表選手23人中18人が下痢の症状に苦しむなか、本来のパフォーマンスを発揮した。

「もともと胃腸が弱くて、監督に怒られたストレスで高校時代に胃潰瘍になったこともある。そんな経験から、腸は鍛えるのではなく、育てるものという考えに至りました。腸の中には1000種類以上の菌がいて、ひとつの生態系が成り立っている。善玉菌、悪玉菌と言いますが、善玉菌だけいればいいわけでもない。多様な生態系を維持するため、菌にとっていいエサとなる栄養素を取るよう心がけるようになった」

 現役ラストイヤーの15年、人づてで腸内環境の研究者と出会い、その場で意気投合。「アスリート特有の腸内細菌もいるのではないか」という自身の仮説をぶつけ、それを研究するための企業設立までトントン拍子に話が進んだ。一方、サッカー選手としては16年在籍した浦和を離れ、新天地でのプレーを決めていたが、ファンとの交流の中で葛藤の思いが芽生え、結果的に現役引退を決意。さまざまなタイミングが重なり、ユニホームを脱ぐと同時にネクタイを締め、設立したばかり企業「Aub」の社長に就任した。

「もともとは選手を続けるつもりで、社長になる気はなかったんですが、結果的に引退が決まって、言い出しっぺの僕が引き受けることになった。実業家と言われることもあるが、経営を学んだわけでも何か成功を収めたわけでもないので、あまり言ってほしくないですね。サッカーしか知らないやつがという否定的な声は今でもありますし、実際すごく大変なので、もう少し周りの声に耳を傾けておけばよかったかなと思うこともありますよ(笑)。でも、だからこそ面白いんです」

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