「ドラゴン桜」が描く自己肯定感 東大専科の学習意欲を高める“ARCSモデル”とは

「自信を持て!」桜木の檄が生徒を後押し

 そして、「C」。これは桜木の口からストレートに語られる。英語リスニングについて「まずは完璧なんて目指さなくていい。自信を持ってしゃべるんだ。言語が上達するコツはここなんだ」と強調し、YouTubeで受験英語ラップ動画を配信している天野に「YouTubeのときのように自信満々にやってやれ!」とげきを飛ばしたのも実は天野に成功体験を得られる機会を作っているのであり、楽しそうに英語ラップを披露した天野に対し桜木は「エクセレント!」と大げさすぎるほどのリアクションで絶賛するのだった。このシーンは「ARCSモデル」における「個人的コントロール」という考え方が応用できる。自身の成功要因を自身に帰属させることで天野が自己評価を高め、“自信”を持つことを願っているのだ。

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 最後に「S」。英語楽曲を踊って歌うことで学び、それ自体を楽しむという内的強化が図られ、今度は生徒に“満足”をもたらす。ただ、この授業スタイルが何度も続くとマンネリとなり生徒のモチベーションが下がってしまう。もし由利先生の出演シーンが今後も予定されているのなら、進化した指導スタイルの導入がカギとなるだろう。さらに模試の結果に対する桜木の判断は明瞭で、専科クビを極度に恐れていた早瀬に対する桜木のポジティブな評価は、これまでの早瀬の努力に対する報酬となった。このように桜木と生徒が向き合う教室のシーンには学習理論にのっとった濃厚なコミュニケーションが盛り込まれていた。

 ぶっきらぼうで乱雑な性格に見える桜木だが、生徒たちを褒めるシーンがたくさん出てくる。生徒の発言を正当に評価することで生徒の自己肯定感を高めているのだろう。内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2018年度)によると、「自分自身に満足している」に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者の割合は、日本は45.1%だった。米国87%、英国80.1%、スウェーデン74.1%、韓国73.5%と比べてかなり少ない。内閣府は「日本の若者は、諸外国の若者と比べて、自分自身に満足していたり、自分に長所があると感じていたりする者の割合が最も低く、また、自分に長所があると感じている者の割合は平成25年度の調査時より低下していた」と分析した。

自己肯定感の向上にもスポット

 この調査で日本の若者の自己肯定感の薄さが浮き彫りになったが、「ドラゴン桜」ではこの自己肯定感にもスポットを当てている。前述のように、英語ラップを披露した天野を「エクセレント!」と絶賛する。“東大模試6カ条”を提示するシーンでは生徒に「受験にとっていちばん注意すべき点は何だと思う?」と質問。小杉麻里(志田彩良)が「時間配分です」と答えると、指をさして「正解だ」とほめる。由利先生から「リスニングテストの前に問題文と設問を読んでおくこと」と助言されると瀬戸は「よっしゃ、いいこと聞いたわ」とリアクション。すかさず桜木は「そうだ、瀬戸!」と褒め、「知っているのと知らないのでは大きな差が出る。東大受験は情報をフル活用していけばいい」と成功を導く思考法を伝えた。褒められることで自己肯定感を持ってほしい、という桜木の思いが随所で描かれている。

「東大模試で合格の見込みがないと判断された者は東大専科をやめてもらう」という宣言は、実は専科の生徒のモチベーションを引き上げる桜木一流のレトリックだったことが第7話終盤で判明する。結果は大半がE判定だったわけだが、冒頭で述べたようにこれによって「目標達成への主観的な確率」が分かり、生徒たちの到達目標が定まった。これも「ARCSモデル」に出てくるアプローチだ。

 ARCSモデルの応用と生徒の自己肯定感を高めることによる学習意欲の向上。とはいっても、「ドラゴン桜」はドラマであり現実的には基礎学力という点で厳しい面もある。専科の生徒たちの成績についてもまだまだ山あり谷ありの展開が予想されるが、少なくとも桜木の指導法には学習理論的根拠がある。専科から予想外の東大合格者が出る波乱の最終回が期待できるかもしれない。

(※1)出典:John M.Keller「Motivational Design for Learning and Performance The ARCS Model Approach」(2009年)

(※2)高橋海人の「高」の正式表記ははしごだか

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