「ザ・ノンフィクション」が放送1000回 制作者が語る現代ドキュメンタリーの難しさ
時にはネット上で炎上「すごく難しい時代」
長期にわたって取材対象者に密着して1本の番組を仕上げるが、密着していく中ではもちろん予期せぬ出来事も起こる。そこもドキュメンタリーの面白さだと西村氏は語る。「去年、新入社員に言われたのが『なんでハッピーエンドじゃないものが多いんですか?』と。人の人生は必ずしもハッピーエンドになるわけではない。その筋書きを作ることはこちらではできないですし、それをよりリアルに伝えるためにはどうすればいいのかという番組なんです」。
「ザ・ノンフィクション」では取材対象者の良い面ばかりを放送するわけではない。時にはネット上で炎上することもある。
「取材の中で予期せぬ展開が起きることもたくさんありますが、それが『現実』なんです。(放送回によっては)ネットが炎上してしまうこともあります。一昔前だったら、テレビ番組を見てクレームする場合はテレビ局に文句を言って、ネット掲示板に書き込んで終わっていました。しかし、今は取材対象者もSNSを使用しているので、リアルタイムで誹謗中傷が目に入ってしまいます。それが大勢の意見ではないと分かっていながらも無視することができない。すごく難しい時代だなと思います」
もちろん放送後も取材対象者のケアは欠かさずに行っている。「そもそも一般の方を放送に引っ張り出す過程において、制作者との信頼感がある。この人に撮ってもらって、この人に放送してもらえるなら任せられるという信頼感。年単位や家族ぐるみでの付き合いなどもある。『ただ放送しておしまいでは、無責任じゃないか!』という批判がくることもありますが、そんな生半可な覚悟では番組を作れない時代。できる限りのケアはする」とネット社会の現代ならではのドキュメンタリー制作の難しさを明かした。
密着取材という性質上、新型コロナウイルスの影響は大きく、番組としてガイドラインを策定しながら、できる限りの取材を続けたが、地方取材や取材対象者の自宅での取材などは難しくなった。取材の続行が不可能となり頓挫した企画もあったという。しかし、スマホさえあれば誰でも動画が撮影できる時代が功を奏し、何度かのピンチはありながらもコロナ禍でも新作を世に出し続けた。
「こんなにも全世界の人々の生活を変える出来事って無かったじゃないですか。コロナで生活が変わらない人はいなかった。その時に進めていた全ての取材対象者がコロナとの向き合いで人生や運命だったり、生活が一変してしまったので、それ自体がドキュメンタリーのストーリーになったんです。我々の役割としても、記録に残さないといけない。コロナ禍で視聴率は上がりました。『他の人は何を考えているんだろう』とか、『どういう価値観でこれから生きていくんだろう』ということが気になるから、見てもらえたんじゃないかなと思いますね」