キンモクセイ「二人のアカボシ」17年前のヒット曲に隠された栄光と挫折
ヒット曲には不思議な力がある。好き嫌いに関わらず、どれだけ時間が経っても、ふとした瞬間に時代とセットでよみがえってくる。そんな大衆の心に刷り込まれた数々のヒット曲には意外な真実が隠れていることも多い。再結成を果たし、14年ぶりに新作をリリースしたキンモクセイの2002年にヒットした「二人のアカボシ」もそんな1曲だ。
ヒット曲誕生に隠された栄光と挫折の物語
ヒット曲には不思議な力がある。好き嫌いに関わらず、どれだけ時間が経っても、ふとした瞬間に時代とセットでよみがえってくる。そんな大衆の心に刷り込まれた数々のヒット曲には意外な真実が隠れていることも多い。再結成を果たし、14年ぶりに新作をリリースしたキンモクセイの2002年にヒットした「二人のアカボシ」もそんな1曲だ。
「二人のアカボシ」は、01年にメジャーデビューした5人組のバンド、キンモクセイが翌02年1月9日に発売したセカンドシングル。ニューミュージックやシティーポップのDNAを受け継いだ洗練されたメロディーと切ない歌詞が共感を呼び、オリコンウィークリーチャート10位、年間49位を記録し、このヒットをきっかけにその年のNHK紅白歌合戦に出場した。
作詞作曲を担当したボーカルの伊藤俊吾は「しょうもない話」と前置きしながらこの曲が生まれたきっかけについて語ってくれた。「当時はまだ彼女だった前妻に、(バンドの)メジャーデビューが決まったのに別れを切り出されてしまい、どうしても彼女を見返したくて作った曲なんです(笑)。その頃、僕はキリンジが大好きで、「エイリアンズ」を聞いたときの揺さぶられるようなメロディーや心の感情の折れ線グラフみたいなのが、すごくはっきり見えた瞬間があって、こうすれば大衆の琴線に触れる曲ができるんだと、それを「二人のアカボシ」でやってみようと思いました。それが奇跡的に合わさってできた曲なんです」
2番の歌詞に隠された真実
「二人のアカボシ」はキャッチーなメロディーに加えて、文学的な歌詞が聞く者に寂しげな夜明けの風景を想像させてくれる。ただし、その歌詞の奥にあるメッセージを読み取るには難解だった。
伊藤「初めて明かす話なんですが、この曲はすごく複雑で奥行きのある曲にしようと思ったんです。特に2番の歌詞は意味不明だと思うのですが、アカボシって『暁の明星』って意味で、昔、与謝野晶子が、『明星』という文芸雑誌に投稿していて、その頃、(与謝野)鉄幹と不倫をしていたり、『みだれ髪』とか書いているんですけど、それについて調べて書いた歌詞なんです。『みやうじやう』は明星の昔のひらがなとか、そんな言葉を複雑に結びつけて歌っているんです。でも、プロデューサーに『意味不明だから変えたほうがよい』と指示されたんですが、変えなかった。その歌詞に流れる与謝野晶子の話についてはそのまま誰にも種明かしをせず、今に至ります」
伊藤が曲を作り、いよいよレコーディングが始まった。当時についてギターの佐々木良は「飛び抜けて良い曲っていう感じではなく、次のシングル候補として考えようって最初はそんな感じだったんです。ところが徐々に期待感が出てきて『売れるんじゃない?』と冗談交じりで話した覚えがあります」
プロデューサーはこの時点でヒットを確信し、アレンジャーに澤近泰輔、リズムアレンジに渡辺等、ミックスには大滝詠一、吉田美奈子、山下達郎などを手がけたエンジニアの吉田保を迎え、細部まで徹底的に磨きに磨かれた「二人のアカボシ」が完成した。