TBS佐古氏が沖縄を撮り続けるワケ…筑紫哲也さんの言葉「沖縄には日本の矛盾が詰まっている」

(C)2021 映画『生きろ 島田叡』製作委員会
(C)2021 映画『生きろ 島田叡』製作委員会

主題歌「生きろ」は小椋佳による書き下ろし「耳をそばだて、命の声を聞こうという歌詞」

 沖縄では45年3月から米軍による空襲が激化。上陸後、島田は県庁から地下壕(那覇市)に移して執務を行い、1か月を耐えたが、32軍の南部撤退に伴い、南部へと移動。県職員とともに壕から壕へと移り、同行した職員らに対して県庁解散を宣言すると、「生きろ」と言い残し、自身は軍医部壕を出たところを目撃されたのを最後に消息不明となった。

「14年春には島田が歩いたルートを歩いてみました。途中、昼ご飯も食べながら、35.4キロの道のりを9時間ぐらい。今は舗装されていますから、当時とは比べるべくもないんでが、そのまま残っているガジュマルの木もあります。“轟の壕(糸満市にある壕)”では、住民1000人近くがひしめきあって、敗残兵が入ってきては傍若無人な態度をとって、無力感も味わうわけです」

 島田の遺体は今も見つかっていない。「どんな最期を遂げたのかは分かっていないんです。拳銃で自決したかもしれないし、青酸カリを飲んだかもしれない。今回の取材で、改めてわかったのは、沖縄行きを猛反対していた家族のことを最後まで考えていたということ。玉砕命令を事実上、拒否して、周囲には『生きろ』といいながらも、自分は絶望の中で死んでいく。本当に悲しい最期だったろうなと想像し、心が潰れる思いがしました。島田さんは聖人君子ではない。悩みましたし、間違ったこともあったかもしれない。でも、それが人間。苦悩と決断の連続の中で生きた人だと思います」

 戦時下とコロナ禍の現代。その状況は大きく違うが、島田の行動は今の時代にも強く訴えかけるものがある。「コロナ禍の今、どんなリーダーがあるべき姿なのか。島田さんは命に向き合ってきた。今は、自殺が多くなって、生きることそのものが難しいという時代ですが、命に向き合った島田の『生きろ』というメッセージはより伝わってくるものがあるんじゃないかと感じています」

 そのテーマをより鮮明にしたのが、77歳のシンガーソングライター、小椋佳による書き下ろし主題歌「生きろ」だ。「私は小椋さんの歌を45年聞き続けている大ファンですが、小椋さんも命に向き合い、いかに生きるかを歌っています。ちょうどラストアルバム『もういいかい』(21年1月発売)の制作中に『ぜひ』とお願いしましたら、この歌ができました。まさに島田のメッセージそのもの。人間って、頭の一部で、『死んでしまおうか』と思う時があったとしても、生きようとするものだと、小椋さんは言っていました。耳をそばだて、命の声を聞こうという歌詞。初めて聴いた時は、証言者のみなさんの顔が浮かんで、涙が出ました」

次のページへ (3/4) 今後も沖縄を題材に「今、撮らないと、戦争の証人者がいなくなってしまう」
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