【Producers’ Today】「大コメ騒動」の岩城レイ子氏が語る“女の行動力”と“社会の変化”
本木監督がこだわった井上真央の“大地に根差した演技”
――それほどの苦労があったとは。
「撮影に関して監督は苦労したと思いますが、私は全然苦労しなくて(笑)。撮影現場におけるプロデューサーは、何か問題が起こったときに出て行って調整したり、判断する役割ですが、そんなことは起こらなかったので、私は遠くから見ているだけでした。本木監督はバランスがよくて穏やかな方ですが、撮影中はピリピリしていて近寄れなかったです。本当に集中していたし緊張もなさっていた。地元のお母さんたちにエキストラで出ていただいたのですが、本木監督は『足りないな。明日までに50人、80人』とか平気で言うんですよ。それで、もう必死になって地元のフィルムコミッションの方、ロケーションオフィスの方、市役所の方も総動員で。翌朝の3時から支度を始めないと100人規模のおかか集団を作るのが間に合わないんですよ。スタッフさん、とくに結髪(けっぱつ)さんとか衣装さんは、1日2時間くらいしか寝られなかったんじゃないかな」
――多くの困難を乗り切っただけに作品への愛着は強いのでは?
「私はこの作品にかぎらず、どうしても自分が作りたいという思いでかかわったことはありません。基本的に座を組むのが好きなんですね。いろいろな才能やお金や思惑を集めて、うまくミックスさせるのがすごく大変だけど、すごく面白かった。私ね、もともと映画のプロデューサーになりたかったわけじゃなくて、たまたま映画に携わっただけ。映画はエンターテインメントでありビジネスなので、ただ撮影現場が好き、映画を作るのが好きというだけではダメなんじゃないかと。偉そうなことを言っていますが、私自身好きな映画はカンフー映画だったり、アクション映画。個人的な好みでいうとね。好きな監督はチャウ・シンチーとか(笑)。『少林サッカー』、面白いですよね」
――新型コロナウイルスが本格化する前に撮影は終了しました。
「はい。でも、本木監督は撮り終わった後、別の作品にすぐに入ったので、編集は少し時間が経ってから始まりました。そうこうするうちにコロナが始まっちゃって。でも、その期間があったから返って編集、仕上げにしっかりと時間がとれました。とても素晴らしい、泣いて笑っていただけるエンターテインメント作品になったのかなと思います」
女性の行動と思いが社会を変えていく原動力
――プロデューサーから見た「大コメ騒動」の見どころは?
「この映画は女性の視線であったり、市井のお母さんの視線である、ということと歴史にのっかっている史実である、ということ。富山の漁師町のその辺にいるお母さんが、子どもにご飯を食べさせて上げたかった、というその思いで周囲を変えていく。そのあたりがすごく明確になっていると思います。普通の女性の行動と普通の考えが集まれば、社会が変わっていくことがある、というところが無理なく脚本にちゃんと描かれているな、と感じます」
――脚本で描かれた女性の行動力に共感できたというわけですね。
「私は大学を出てフリーの放送作家をやっていたんです。当時はフリーの放送作家でしかも女性でやっている人はすごく少なかった。当時のテレビやラジオの現場は男性の放送作家優位で、某地上波ではエレベーターに乗ろうとすると、男性社員の方から『まだ、お前はここに巣くっているのか』と言われたりしたんですよ。腹も立ちましたが、どうせあと数年で「おじさん」はいなくなる、20代の自分には時間があるから、最後は勝てる! なんて、自分をなだめたりしてました。そういう時代だったのですが、そんなことにかかずらわっていたらなかなか仕事もできないし、そこに対抗しなくても目の前のことをこなす、こつこつ積み上げていく、そうするうちに世の中がガラッと変わっていったりとか、見える世界が変わっていったりとか、そういうことがあって。だから、この「大コメ騒動」のようなストーリーの映画があってもいいな、というふうに思ったのかもしれないですね」
――岩城プロデューサーの人生と映画のストーリーが重なって見えます。でも両方とも肩ひじ張ってないというか……
「この作品は押しつけがましさがないんですね。脚本の谷本さんはすごいなって思います。この映画、当たる当たらないは別として、作って見たら面白いだろうなと脚本を読んで思って。そこから俄然やる気になって、絶対お金集めてやるぞって思って。ちょっと頭がよくなってしまうと論を振り回しがちですが、それが全然ないです、この脚本。そこが面白くていいな、と」
行動しないと何も始まらないし、何も変わらない
――米騒動の“おかか”に匹敵する行動力ですね。
「やはり行動しないと何も始まらないし、何も変わらない。いま、評論家的な方が多くて頭がいいから評論はするけれども、汗かいたりとか、行動してそれが失敗するとカッコ悪いと思う風潮が多いかなって思います。なかなか1歩踏み出さない、若い人も含めてね。自分の中で思いが堂々巡りして、どうせだめだと思っちゃうような風潮がある。そうじゃなくて、今日食べるお米もない、お金もない人たちが、ちゃんと行動することによって結果が出てくるんだ、っていう元気と勇気みたいなところをこの映画から感じ取ってもらえればうれしいな、と思っています。最近の若い監督さんの映画をみていると自分を追い詰めてマイナスのところからスタートして、なかなかゼロを突破しないようなものが多いような気がしています。私としてはこの映画を見て元気になってもらいたい。そこがもしかすると、この映画の存在意義かな。難しいことじゃないの、本当に」