【Producers’ Today】「大コメ騒動」の岩城レイ子氏が語る“女の行動力”と“社会の変化”

女優の井上真央が主演する映画「大コメ騒動(だいこめそうどう)」が8日に公開される。大正時代の富山を舞台に“おかか”と呼ばれた女性たちの“米騒動”を描いたパワフルな痛快エンターテインメント作品だ。約100年前の超格差社会の中、怒れる女性たちが起こした初の市民運動にスポットを当てたことで注目されているが、撮影現場も“騒動”の連続だったようだ。企画の練り直しや資金集めに奔走した同作の岩城レイ子プロデューサーに聞いた。

映画「大コメ騒動」の制作で手を取り合った左2人目から米米CLUBのフラッシュ金子(金子隆博)氏、本木克英監督、岩城レイ子プロデューサー
映画「大コメ騒動」の制作で手を取り合った左2人目から米米CLUBのフラッシュ金子(金子隆博)氏、本木克英監督、岩城レイ子プロデューサー

本木克英監督、西村まさ彦と「独立記念飲み会」 オール富山の映画制作で意気投合

――企画のきっかけから教えてください。

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「富山出身の本木克英監督が2017年に松竹を辞めてフリーになりました。ちょうどそのタイミングで同じ富山出身の俳優・西村まさ彦さんも、前の事務所を辞めて個人事務所を立ち上げたところでした。それで私が2人にお目にかかって『独立記念飲み会』を3人でやったときに本木監督から『これをやりたい』と提案されたのが富山で起こった米騒動をテーマにした映画の企画でした。これをテーマに地元の人、地元のテレビ局、地元の監督、地元の俳優で何とかできないかな、と。話を聞いて『面白いかも』と答え、軽い気持ちでやりましょう! みたいな感じでした。『大コメ騒動』というタイトルに『大』を付けた理由は、本木監督が『大脱走』など過去の作品にならい疾走感と緊迫感を出したいとおっしゃったためです。しかしながら、あまり社会性を出したくないので、シャレっぽさを表現するためにカタカナにしました。ところが、それからが大変で、なかなか撮影に入れませんでした」

――何が理由だったのですか?

「女性の群像劇だからです。メジャーな配給会社は受けてくれなくて。女性が大勢出演する群像劇で唯一映画になっているのは『大奥』ぐらいで、そのようなどろどろしたものじゃないとなかなか盛り上がらないんじゃないか、と。それと、いま大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』がはやっているけれど、大正時代ってわずか15年間で、強烈な明治と戦争のあった昭和との間に挟まれていて、よく分からない時代だから、ということで受けてくれない。配給会社はほとんど全部回って、見事に全部から断られて。脚本も実は先にお願いした人がいたのですが、テーマとして『おかか』の視点というよりは『新聞』によって社会が変わったという視点が大きくなってしまった。制作費からいっても到底予算内で収まる作品にはなりそうもなく、どうしてもうまくいかなくて1度、あきらめちゃったんです。これはダメだな、ということで」

1度は断念 脚本の変更でついに撮影入り

――企画復活の契機は何だったのですか?

「開発から2年くらいたって米騒動のような女性の事件がこれまで映画になっていないので、じゃあ、もう1回、気持ちと体制をリセットし、新しい脚本家として谷本佳織さんに入ってもらいました。本木監督が「富山市や地元の応援が得られるようだったら進めてみましょうか」と言うので、本木監督と一緒に富山市長のところに行って、実はこういう映画を作りたいので出資をお願いします、と提案しました。地元や東京でもご出資いただけそうなところを回りました。方向性が明確に出ている脚本ができ上がったので、じゃあ、これでやってみようかと。ようやく一昨年春くらいに、これで撮れそうだという脚本ができて、出資もそろそろ決まり、ご協賛していただける企業さんも出てきたおかげで、やっと撮影のめどが付きました」

――富山県出身の俳優がキラ星のごとく出演しています。

「このテーマは本木監督が20年以上前から温めていたもので、かなり以前に室井滋さんと対談したイベントでも『やりたいね、米騒動』というような感じで、盛り上がっていたそうです。さらに立川志の輔師匠にも相談に行ったところ、『やってくださいよ』と応援をいただき、役者として出演いただけるようお話を監督がされていました。とはいうものの、予算の関係から撮影日数がものすごく短い。師匠はお忙しい方で、スケジュールが合わない。でも、出演はしていただきたいということで、ナレーションと物語の進行も兼ねた、新聞記者の役をやっていただくことになりました。清(きよ)んさのおばばの役に関しては、室井さんが実際に住んでいた家の近くに住んでいたおばあさんをモデルにしています。『ああいう人が本当にいたから絶対やりたい』と。監督は室井さんの扮装を見たときに『映画の方向性が決まった』と言ってました。たぶん、史実であり貧しい女性たちの話だけれども、そこに人生の泣き笑いがしっかりある、エンターテインメントになるという意味だったんだろうと思います。柴田理恵さんは当初、清んさのおばばの腰巾着を想定していましたが、スケジュールの都合で米屋の女将の妹という設定になりました。そういう物理的なことはあったけれども、皆さん、とても面白がってやっていただけたので、そこが映画としてのリズム、パワーにつながっていったのではと思います」

――撮影は順調に行きましたか?

「いや、今度はスケジュールが大変なことになりました。米騒動は夏に発生したので夏に撮りたかったのですが、主演の井上真央さんが夏と秋に別のスケジュールが入ってまして。本木監督がどうしても真央さんで撮りたい、と。『真央さんはその役に本当にスコンと入っていける。彼女の演技力や集中力がすごいし、大地に根差している感じがするから井上さんでないと撮れない』とおっしゃって。それで2019年10月26日にようやく撮影に入ることができた。本当に厳しい予算だったので、映画の撮影を知っている方は驚くでしょうが、この映画、16日間で撮っているんです。でも本木監督はすごくて、松竹時代にプロデューサーもなさっているので、日程をしっかり守ってくれて、かつ素晴らしい作品に仕上げてくれました。さすが腕のある監督だと改めて実感しました」

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