漫画家・矢口高雄さん追悼 こだわり反映した「釣りキチ三平」は釣り人をワクワクさせた

釣りファンのバイブルといわれる漫画「釣りキチ三平」(講談社)
釣りファンのバイブルといわれる漫画「釣りキチ三平」(講談社)

どうしても釣れなかった魚

 こうして、日本各地はおろか世界を釣り巡った矢口さんだが、「釣りキチ三平」に登場する魚の中で、釣れなかったのが1種類だけいる。九州・有明海の珍魚「ムツゴロウ」だ。

 これは、エサやルアーではなく、“ムツカケ”という、オモリとハリが一体になった仕掛けを飛ばし、干潟にはい出ているムツゴロウを引っ掛けて釣り上げる神技。にわか仕込みでは難しいと言われていた。

「2日間、干潟に出て泥んこで挑戦したんだよね。カニは何とか掛かるんだけど、ムツゴロウは無理だった」(前出の拙著より)

 最後には死んだムツゴロウで試みたが、それでも釣れなかったそうである。

「三平の連載の中で、唯一釣れなかったムツゴロウが今でも心残りなんだよ」

 取材時にそう言って、子どものように口惜しがった“矢口名人”の表情が、今でも印象に残っている。

 おそらく今頃は、三途の川の干潟で、泥にまみれてムツゴロウ釣りに悪戦苦闘されていることだろう。
 合掌

次のページへ (4/4) 【画像】矢口高雄さんのサイン
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