稲川淳二独白、「1人でも感染者が出たら中止」怪談ツアー全国43か所を無事完走した理由

2020年怪談ナイトの舞台美術はシンプルだったが余計に怖かった【写真提供:Off shore】
2020年怪談ナイトの舞台美術はシンプルだったが余計に怖かった【写真提供:Off shore】

ようやく初日を迎えたが……

 最終公演を終えた稲川は、とても清々しい表情で終わったばかりのツアーを振り返った。

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「いやあ、うれしい。本当にうれしいです。ありがとうございました。このツアーでね、私は自分と向き合ったんですよ。かつてこういうツアーはなかったです。私やスタッフ、そして会場にいらっしゃった全国の皆さんと一緒の時間を刻めました。

 今回来てくださった皆さんは、マスク付けたり検温したり、あれこれと面倒なこともちゃんとやってくれて、私が出てきたら手を振って、たくさんの拍手で迎えてくださってね。終わった後もちゃんと規制退場を守ってくださってね。楽屋にモニターがありましてね。舞台から戻って見ていたんですけど、どの会場も皆さん嫌な顔ひとつしないで順番が来るまで、じっと待ってくれたんですよ。それを見たときに胸が熱くなりましてね。

 それとイベンターさん。長年の付き合いですから本当に皆さんの温かい協力体制がありがたかったですね。一生懸命やってくださいました。スタッフも明らかにやろうぜって気持ちになってやってくれましたから、うれしかったですね。

 みんながこれだけ頑張ってくれているんだから、私だってやるしかないですよ。実は最初、私は怖かったんです。万が一を考えると心配になって、頭の中でいろんなことを考えて敏感になってましたから。でも会場の皆さんは、そんなことを考えている“怪談爺ぃ”なんて見たくありませんからね。もうそう考えるのはやめて、いつも通りの爺さんで、あとはそんな皆さんにお任せすればいいんだって。だから私の心を皆さんに預けることができたんです。

 いやあすごい人たちに支えてもらっているんだなって。もう感動ですね。いつも言うんですが舞台に立つのは私1人ですけど、見えないところでたくさんの方に支えていただいて立ってますから」

 新型コロナの感染が再び拡大傾向にあり、あらためて有観客ライブのあり方も問われている。賛否さまざまな意見がある中で、今回、前に進むことを選択したチーム。それはまさにこれまで稲川怪談を28年間築いてきた全員の結束力が試される1年でもあった。本田氏は、すでに来年のことを考えている。

「今年は悔しい思いをしたので、来年はぜひその借りを返したいんですが、お客様のことを考えるとまだ100%じゃできないのかなと思っています。ただ、今年は、チケットを払い戻しされる方が、ほとんどいなかったんです。各地のイベンターには、こういう状況なので希望者には無条件で払い戻しをしてあげてくださいと、事前にアナウンスをしていました。ところが制限の50%完売で当日キャンセルが出ることもほとんどなかったんです。つまり今年来てくださったお客様は、稲川淳二や彼の怪談が、人生に必要だから来てくれたんだと感じました。ですから2021年は、そんな方たちへの恩返しと、本当は今年見たかったのに、来ることができなかったお客様のために尽くしたいなと考えています」

 原点を見つめなおし、今年出来ることはすべてやりきった稲川。しかし座長の旅は来年も続く。

「怪談って面白いですよね。怖い話をしているのにふとそこで人生が見えたりとか、ばかばかしいことを言ってるけど、そこでもって人間関係が持ち上がったりとか。小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで楽しんでもらえる。もしかすると自分は怪談をしながら、懐かしいふるさとのお祭りみたいなことをやっているのかなって。まさにそうできたらうれしいですね。昔、行商が野菜や魚、薬を背負ってやってくるとそれだけで季節を感じたり、全国を歩いてきた話を、お茶を飲みながら聞かせてくれたりね。そんな感じでこの季節になるとお祭りみたいな怪談爺さんがやってくる。これからもそうありたいですね。

 それが出来ているのもいつもお力添えをいただいている皆さんがいるからです。本当に感謝でいっぱいです。私はもう10年以上、本気で怒ったことはなくて、その分、感謝が増えた。素晴らしい人に囲まれて、今年なんかもう本当にありがたいですよ。人間って怒ったり嫌がったりしたら何もできないんだけど、感謝すると、出来ないと思うこともきっと出来るんですね。

 来年がまたいいんですよ。みなさんにあきれ返るほどすごい話を持っていきますから」

□稲川淳二(いながわ・じゅんじ)1947年8月21日、東京都渋谷区恵比寿生まれ。タレント、怪談家、工業デザイナー。2012年、怪談ライブ20年連続公演の偉業が認められ、8月13日が「怪談の日」として制定された。

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