西村まさ彦、“伝説的キャラ”の意外な裏側 役作りは徹底した引き算「干渉し合わないように」

俳優・西村まさ彦が、映画『チルド』(7月17日公開)で異様な存在感を放っている。舞台は、24時間明かりが消えないコンビニエンスストア。第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した本作で、西村が演じるのは、店の秩序に取りつかれたオーナーだ。『古畑任三郎』の今泉慎太郎役などで知られる名優は、新作での冷酷な役作りから、あの伝説的キャラクターの意外な“引き算”までを語った。

インタビューに応じた西村まさ彦【写真:増田美咲】
インタビューに応じた西村まさ彦【写真:増田美咲】

映画『チルド』で放った異様な存在感

 俳優・西村まさ彦が、映画『チルド』(7月17日公開)で異様な存在感を放っている。舞台は、24時間明かりが消えないコンビニエンスストア。第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した本作で、西村が演じるのは、店の秩序に取りつかれたオーナーだ。『古畑任三郎』の今泉慎太郎役などで知られる名優は、新作での冷酷な役作りから、あの伝説的キャラクターの意外な“引き算”までを語った。(取材・文=平辻哲也)

 岩崎裕介監督の長編デビュー作となる『チルド』は、コンビニという小さな箱を通して、効率性や利便性にのみ込まれていく現代人の不気味さを描く。西村が脚本を読んで最初に感じたのは、「人を物として扱っていることの面白さ」だった。

「人が簡単に死んでいく。その連続だとも思うんです。もはや人は人じゃなくて物になっているんだということ。この作品を通して、今の社会はそうなりつつあるのかなと思わずにいられない自分がいました」

 演じたオーナーは、監督の父親がモデルになっている。かつては町の酒屋だった店がコンビニに変わり、人との会話が失われていく。西村はそこに、人間性を少しずつ削られていった人物の姿を見た。

「最初はそうじゃなかったと思うんですよ。酒屋をやっていたころは『今日はいい天気だね』みたいに人との会話があった。でも、それをコンビニに持ち込んだら全く無視された。そういうところで疲れてきたんじゃないかと思うんです。疲れてしまうと、すべてに対して面倒くさくなっちゃうのかなという部分では共感できます」

 ホラー映画とは、必ずしも大事件が起こるものではない。オーナーはマニュアルに従わないことが許せない。「またのご利用をお待ちしております」という決まり文句すら、作品の中では不気味な響きを帯びる。

「大したことじゃないんだけど、マニュアルに従わなければ許せなくなっていく人物ですよね。そこが記号化しているから不気味で、それが当たり前になっていく。今の人間なんだ、みたいにそこに安心を覚えている人も少なからずいるんだなと思わされました」

 役者としては、どこまで見せるかが問われる役でもあった。終盤にはゾッとする場面もある。そうなると、体はどうしても“やりたがる”。しかし、その衝動を抑え込まなければならなかった。

「オーナーを演じる時に、血がつくと何かやりたがる体になっちゃうのか、そこを抑え込むのがすごく苦労したところです。力が入っちゃうと違うんですよ。そこがめちゃくちゃハードル高かったですね。そんな役は初めてかもしれないです」

 今回、本格的に共演した染谷将太についても、西村は興味深い言葉を口にした。

「彼は存在を消しているんですよ。いるのかいないのか分からないような場の居方なんです。ほとんどしゃべってないし。自分の存在を消すのが上手だなと。逆にカメラの前に出ると圧倒的な存在感がある。その裏返しなのかなと思ったりもします」

映画『チルド』では店の秩序に取りつかれたオーナーを演じる【写真:増田美咲】
映画『チルド』では店の秩序に取りつかれたオーナーを演じる【写真:増田美咲】

『古畑任三郎』で演じた今泉慎太郎は「別に力入ってない」

 西村自身も、現場では何かを決め込んで入るタイプではないという。

「自分自身がよく分かっていないんですよ。自分の扱いがいまだに分からない。面倒ですよ。ただ、雑念がない状態というのが、多分、無に近いのかなと思うんです。こうしてやろうと事前に決めて演じるというより、ぽけーっとした感じで行く。その連続かなと思います」

 そんな話の流れで、『古畑任三郎』の今泉慎太郎役に話が及んだ。視聴者の記憶に強烈に残る、愛らしい個性派の刑事。だが西村の認識は、少し違っていた。

「あれ、だいぶ力抜けてるんですよ。別に力入ってないです」

 意外な答えだった。今泉といえば、西村の“濃い芝居”の代表格のようにも見える。だが実際には、田村正和さん演じる古畑任三郎という圧倒的なキャラクターにぶつからないための、徹底した引き算だったという。

「力を入れてしまうと、田村さんの古畑のキャラの強さにぶつかっちゃうんですよ。今泉の場合は。だから、力を抜いて、なるべく干渉し合わないようにしていったんです。それがうまいバランスで出ているからじゃないですかね」

 見せに行かない。押し出さない。キャラクターを立てるために、あえて力を抜く。『チルド』のオーナーもまた、過剰な狂気を見せれば作品の温度を壊しかねない役だった。

「お客さまにどう受け入れられるかは置いておいても、現場では腑に落ちた感覚が自分の中であった時は、すごくやりやすかったです。そういう時は、オーナーが入ってくるみたいな感覚はあったかもしれないですね」

 人間が物になっていく時代に、役者は何を見せ、何を消すのか。西村まさ彦の言葉は、軽やかに見えて、深いところに刺さってくる。

□西村まさ彦(にしむら・まさひこ)富山県出身。映画、テレビドラマ、舞台で幅広く活躍し、数々の作品で存在感を発揮してきた実力派俳優。代表作にドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)『真田丸』『べらぼう』(ともにNHK)、映画『ラヂオの時間』『マルタイの女』『お終活』、舞台『笑いの大学』『大悲』など。地元・富山では私塾W.V.A.や演劇集団「富山舞台」を主宰し、市民参加型の演劇ワークショップや中学生とのラジオドラマ制作など、地域に根差した演劇活動にも力を注いでいる。

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