染谷将太、主演なのに“何もしない役”に挑戦 成長も変化もない88分で見せた俳優としての引き算
俳優の染谷将太(33)が、映画『チルド』(7月17日公開)で主演を務める。舞台は、24時間明かりが消えないコンビニエンスストア。第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した本作は、長編デビューとなる岩崎裕介監督が、効率性と利便性に支配された現代社会の不気味さを、ホラー/スリラーとして描き出した意欲作だ。

染谷将太はコンビニ店員役で主演
俳優の染谷将太(33)が、映画『チルド』(7月17日公開)で主演を務める。舞台は、24時間明かりが消えないコンビニエンスストア。第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した本作は、長編デビューとなる岩崎裕介監督が、効率性と利便性に支配された現代社会の不気味さを、ホラー/スリラーとして描き出した意欲作だ。(取材・文=平辻哲也)
染谷が演じるのは、都内のコンビニ「エニーマート倉富町7丁目店」のコンビニ店員・堺。だが、この主人公は一般的な映画の主人公とは、かなり様子が違う。物語をぐいぐい動かすわけでも、劇的に成長するわけでもない。むしろ徹底して受け身で、何かを変えようともしない。
「企画書にはホラー映画と書かれていたんですけど、脚本を読んだ時に、本当にちゃんと人間という動物を描いている作品だなと思いました。断片的ではあるんですけど、すごく一貫性があって、ぶつ切りのようでつながって感じられる。長編映画の本としてすごく新鮮で、監督のセンスを感じました」
ホラーでありながら、恐怖の源は幽霊や怪物ではない。そこにあるのは、日常の中で少しずつ人間が“物”のようになっていく感覚だ。染谷自身も、堺という人物を「すごく人間らしい」と受け止めた。
「基本的に受け身な人物なんですけど、受け方がすごく新鮮でした。自分が痛みを味わったとしても、その痛みさえ他人のものとして受け止めるような人物だったので、演じていて楽しかったです」
岩崎監督からは、明確に言われていたことがある。
「この人は何もない人です。特に変化もない。最後まで見ても、別に何も成長もしないし、ただただ何もない88分間だとおっしゃっていて。それを全うしないと、この作品のテーマは成立しないと思いました」
主人公でありながら「何もしない」。俳優にとっては、ある意味で最も難しい要求でもある。役として何かを足したくなる。感情を見せたくなる。だが、染谷はそこをこらえたのではない。むしろ、安心して何もしなかったという。「淡々と何もしない方が、そのシーン自体が面白くなる。今回は、役割として“何もしない役割”だったので」
何もしないことで、逆に周囲の異様さが浮かび上がる。無感動に日々を過ごす堺の前に、新人アルバイトの小河(唐田えりか)が現れる。店の秩序を守ろうとするオーナー(西村まさ彦)の不穏さが増していく。コンビニという小さな箱の中で、現実の輪郭が少しずつ揺らぎ始める。

西村まさ彦の存在感に驚き「不気味で最高でした」
かなりタイトなスケジュールだったが、ほぼ順撮りに近い形で進んだという。実際に営業しているコンビニのような店舗を借り、内装を架空のチェーン店「エニーマート」に作り替えた。限られた時間の中で、現場には濃密なライブ感があった。
「ほとんど全ショットを事前に1回カメラを構えて作ってあったんです。アングルも全部決まっていて、コンテもあった。でも実際にお芝居をしてみると、やっぱり変わっていく。変わったところに監督とスタッフの皆さんが反応して、一度作ったものを壊して再構築していく作業が多かった印象です。それがすごく想像力をかき立てられて、楽しかったです」
コンビニという場所について、染谷は「日本的な無機質さ」を感じるという。
「完璧なシステムで成り立っているというのは、すごく日本的だなと思います。コンビニに限らず、都市には無機質な景色が多い。監督は“人が物になっていく”ということをおっしゃっていて、その不気味さはすごくありました」
本作には、唐田えりか、西村まさ彦、そして、お笑いコンビ・令和ロマンのくるまもコンビニ店員役で映画に出演している。染谷にとって、西村の存在感は強烈だった。
「西村さんとは何回かご一緒させていただいています。今回のオーナー役がものすごくハマり役でして、恐ろしい一面の西村さんのお芝居が見られて、すごい不気味で最高でしたね。ただならないシーンなのに、普通に立っているのが似合うって、本当にすてきだなと思いました」
くるまとの共演には、別の高揚があった。令和ロマンは「M-1グランプリ」で2023年、24年と連覇を果たしたコンビ。染谷は以前から漫才が好きだったという。
「まさか一緒にお芝居ができる日が来るとは思っていなかったので、入り口としては普通に『ファンです』と自分が伝えるところから始まりました」
ただ、現場で見たくるまの姿は、単なる“芸人の映画出演”ではなかった。
「監督が言う演出に、表面的に対応するんじゃなくて、ちゃんとくるまさんの中でかみ砕いて、根っこから監督の演出に寄り添っていくお芝居をされていて、めちゃくちゃ刺激的でした」
岩崎監督についても、染谷は「ほぼ同い年」とした上で、その独特のバランスに驚いた。
「すごく回転が速いんです。理論的なんですけど、感情も伴っていて、でも冷静。明らかに伝えたいことがあるように見えるのに、本人は“伝えたいこと”という概念を持っていない。不思議な方だなと思いました」
主人公なのに、何もしない。コンビニなのに、どこかこの世ではない。笑えるのに、じわじわ怖い。『チルド』は、派手な恐怖で観客を驚かせる作品ではない。むしろ、観終わった後、いつものコンビニの白い照明が少し違って見えてくるような映画だ。染谷は、その中心に立ちながら、何もしないことで、現代の不気味さを引き受けていた。
□染谷将太(そめたに・しょうた)1992年9月3日、東京都出身。7歳で子役として活動を始め、9歳で映画『STACY』に出演。『パンドラの匣』で長編映画初主演を務め、『ヒミズ』では第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した。『寄生獣』『バクマン。』『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』『爆弾』など話題作への出演が続き、国内外で存在感を示してきた。2026年4月期ドラマ『田鎖ブラザーズ』に出演し、映画『国境』では伊藤英明とのダブル主演も控える。
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