市川実和子、俳優業に抱いた違和感 代表作「ないんですよ」も…語った“小さな誇り”

映画『トロフィー』(7月10日公開)は、14歳の在日コリアンの少女・ソヒが主人公の物語だ。K-POPアイドルのライブに行くため、ソヒは父が大切にしていた勲章を売ってしまう。家族、友人、朝鮮舞踊の間で揺れる少女の姿を描く本作で、市川実和子(50)はソヒの母・ミリョンを演じた。

インタビューに応じた市川実和子【写真:高田啓矢】
インタビューに応じた市川実和子【写真:高田啓矢】

映画『トロフィー』で主人公の母親役

 映画『トロフィー』(7月10日公開)は、14歳の在日コリアンの少女・ソヒが主人公の物語だ。K-POPアイドルのライブに行くため、ソヒは父が大切にしていた勲章を売ってしまう。家族、友人、朝鮮舞踊の間で揺れる少女の姿を描く本作で、市川実和子(50)はソヒの母・ミリョンを演じた。(取材・文=平辻哲也)

 市川は1976年生まれ、東京都出身。15歳でモデルとしてデビューし、2000年ごろから俳優としても活動してきた。今年50歳を迎え、キャリアは約35年になる。長く第一線で活動してきたが、俳優業については今も意外な本音を明かす。

「向いてないなと思って1回休憩して。いまだにいいのかなと思いながらも一生懸命やっています」

 一度、俳優業を休んだ時期があった市川。休業を経たあるインタビューで言われた言葉が転機になった。

「役者さんから『ファッションモデルさんやるときってカメラの前で、何を考えているの』って聞かれて、『何も考えてないです』って答えたことがあったんです。役者さんってそんなときでも存在の意味を考えずにいられないんだなぁって、真逆の考え方に驚いたんです。わたしはというと、むしろそういうときに何も考えてないのが得意で。何者かと聞かれた時に、『役者』って言う時にも漠然と違和感があり続けていたし、そういう意味でも、自分は向いてないんだなぁって思ったんですよね」

 市川にとって「何も考えていない」ことは、俳優としての弱さのようにも感じていた。だが、休業明けの取材で同じように「何を考えているんですか」と聞かれ、「何も考えてないです」と答えると、相手から思いがけない言葉が返ってきた。

「『モデルが天職なんですね』って言ってもらったんです。そっか、わたしはモデルなんだ! って腑に落ちたんです。そしたら役者として演じるときにも肩の力が抜けて、すごく楽になりました」

『トロフィー』では、日々の生活に追われながら家族を支える母を演じている。在日コリアンの家族を描く作品だけに、当初は「何も知らないから失礼があるんじゃないか」と悩んだという。監督やスタッフから話を聞き、知らなかったことも学んだ。ただ、最後に市川が意識したのは「生活しているお母さんの姿」だった。

「私が演じているのは、生活しているところだったり、お母さんの姿だなと思って。日本に暮らして、空気を吸っているお母さんだから、最終的にはあまり考えずに自然に演じていました」

 若いころに演じていた役とは、感じ方も変わった。

「演じている役も、お母さんの方が面白いなと思います。今だから言えますけど、正直いうと恋愛物とか、ちょっと苦手だったんです。今の方が人の心を演じている気がして、楽しい日々です」

映画『トロフィー』では主人公の母・ミリョンを演じた【写真:高田啓矢】
映画『トロフィー』では主人公の母・ミリョンを演じた【写真:高田啓矢】

“トロフィー”とは「本当に無縁ですね、今まで」

 ミリョンを演じる上で、市川の中に自然と浮かんだのは、自身の母の姿だった。

 母は「目の前のことを一生懸命やっている人」だったという。市川は、少し言葉を選びながら、かつて見た母の姿を明かした。

「ちょうど私がソヒと同じくらいの歳だった頃、母は本当に忙しそうでした。家事と仕事に追われながら、休む間もなく駆け回っている姿をいつも見ていました。大人になってから聞いたのですが、その頃、母は実は会社に行くのがとてもつらかったのだそうです。ある日、玄関で靴を履いて立ち上がろうとしたものの、体がまったくいうことを聞かず、なかなか立ち上がれなかったこともあったといいます。それほど精神的に追い込まれていたにもかかわらず、どうにか会社へ向かっていたと。そんなふうに、一日一日を懸命に生きる母の背中を見ながら、私は育ちました」

 その記憶は、ミリョンという役への向き合い方にもつながっている。

「映画の中のミリョンさんは、そこまでは追い込まれてはいないけど、日々目の前のことをやって生きるみたいな姿は、自然と母に重ねているところがあったと思います」

 作品のタイトルにちなみ、自身のキャリアにおける「トロフィー」は何かと尋ねると、市川は即答した。

「無縁です。『トロフィー』、本当に無縁ですね、今まで」

 代表作や誇れる作品はあるのではないかと重ねて聞いても、「ないんですよ」と笑う。少し考えた後、こう続けた。

「でも、こうやって続けられてきた時間みたいなものは、トロフィーかもしれないですね。気がついたら、思えば遠くに来たもんだ、のような感じです。積み重ねられてきたことが誇りなのかな。続けられたことは少しは誇ってもいいのかなって思えるようになりました」

「向いていない」と言いながら、50歳の今も現場に立っている。市川の35年は、そうした距離感のまま続いてきた。

□市川実和子(いちかわ・みわこ)1976年3月19日生まれ、東京都出身。15歳からモデルとして活動し、俳優としてドラマや映画でも活躍。近年の主な出演作に、映画『ちひろさん』『化け猫あんずちゃん』、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』、Amazon Prime Videoドラマ『1122 いいふうふ』、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』、Amazon Prime Videoドラマ『人間標本』、Netflixシリーズドラマ『地獄に堕ちるわよ』などがある。

スタイリスト:梅山弘子(KiKi inc.) Hiroko Umeyama(KiKi inc.)

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